社会の基盤となる社会契約は戦後に生まれ、もはや時代の要請に応えられていない。
新たな社会契約は、より公平な繁栄をもたらす助けとなりうる。
こうした新たな社会契約は、ステークホルダー資本主義、スキル開発、経済的安定、ネットゼロへの移行などの重要な原則に基づくべきだ。
社会契約とは、政府と国民の間で、双方の権利と義務を定める現実または仮想の合意である。現在の社会の基盤となっている社会契約の多くは戦後に生まれ、もはや時代の要請に応えられていない。新型コロナウイルス感染症の影響と教訓を考える今、新たな社会契約はより公平な繁栄をもたらす助けとなりうる。
グローバル・ノースの多くの国々では、もはや存在しない20世紀半ばの世界を前提に社会契約が作られた。終身雇用、確定給付型年金制度、伝統的な核家族はいずれも衰退する一方、寿命は延びている。グローバル・サウスの多くの地域では、活力ある新興経済と社会が成長しているにもかかわらず、社会保障網の整備が続いており、多くの国で社会契約は未完成のままだ。
現代社会にふさわしい社会契約は、3つの根本的な課題に取り組むべきだ。第一に、社会保険や年金給付など従来のセーフティーネットの要素を、より長く働く人生の中で人々がスキルを学び直す必要性など、新たな状況に対応させなければならない。第二に、技術革命とクリーンエネルギー経済への移行によって形を変えつつある世界において、社会契約が適切なものでなければならない。第三に、現代的な社会契約は、世界各地の社会を悩ませている不平等と排除に対処しなければならない。
現代的な社会契約は、次の5つの中核原則に基づくべきだ。
1. ステークホルダー資本主義
市場のルールは早急な改革を必要としている。旧来のルールは短期的な思考を促し、不平等の拡大を許すとともに、天然資源の過剰な消費を後押ししてきた。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立や、気候関連財務情報開示タスクフォースなど、報告・開示ルールの改革の機運をさらに高める必要がある。世界経済フォーラムの国際ビジネス評議会が支持する取り組みを含め、ほかの施策も進めるべきだ。企業は、経営幹部の報酬と平均的な労働者の賃金の格差拡大に対処し、率先して模範を示さなければならない。2018年、米国のCEOは平均的な労働者の250倍を超える報酬を得ていた。欧州の複数の国では、その倍率は150倍を上回った。こうした格差は市場経済への信頼を損なってきた。
2. スキル開発とキャリアパス
現在の社会契約は、教育、就労、退職という明確に分かれた3段階からなるキャリア・就労モデルを前提としている。しかし、これはもはや人々のニーズにも目標にも合致しない。今日の5歳児のうち100歳まで生きる人の割合は、以前より高くなる可能性があるため、働き方の大幅な再設計が必要になる。働く世界を定める新たな契約は、イノベーションや新しいハイブリッドな働き方を実現するために、企業が人員構成を柔軟に見直せるようにすべきだ。同時に、変化する世界で活躍するためのキャリア中断や研修の機会を、労働者が柔軟に得られるようにすべきである。

3. 経済的安定と流動性
この2年間は、多くの国で社会保障網がいかに脆弱かを示した。これは新型コロナウイルス感染症が出現するずっと前から当てはまっていた。多くの国で経済的流動性が低下している。米国では、所得分布の下位20%の家庭で育った子どものうち、成人後に上位20%へ上昇できるのはわずか8%である。一方、デンマークではほぼ倍の15%に達する。世界経済フォーラムの社会的流動性指数が示すように、例外もあり、特に北欧諸国が挙げられる。新たな社会契約は、社会的・経済的な流動性と安定を再確立する必要がある。
4. 公正で包摂的なネットゼロへの移行
COP26では、気候正義と公正な移行が繰り返し議論された。新たな社会契約はこの課題に正面から向き合い、現在のエネルギーシステムによって不均衡に大きな被害を受けている人々と、移行に伴い住む場所を失う人々の双方のニーズに応えなければならない。そのためには、移行で影響を受ける人々への支援、誰もがクリーンエネルギーを利用でき、負担できるようにする投資、そして汚染度の高いエネルギーによって損なわれている公衆衛生と環境衛生を改善するための緊急の行動が必要である。
5. テクノロジーの責任ある利用
偽情報の拡大は、機能する社会の基盤である個人のプライバシーと民主的なプロセスを脅かしている。最近の調査によると、米国の成人のおよそ半数(48%)は、コンテンツにアクセスしたり公開したりする自由が一部失われるとしても、政府は虚偽情報を制限する措置を講じるべきだと考えている。さらに、情報エコシステムの欠陥が、とりわけ若者や経済的に困窮する人々など、最も脆弱な立場にある人々に不均衡な影響を及ぼすことを示す証拠は数多くある。政府はイノベーションの進展速度に対応できずにきた。専門性を高め、政策解決策を見いだすための専門機関を設けることが望ましい。
これらは、いずれか一つの部門や単一のモデルだけで実現できるものでも、実現すべきものでもない。新たな社会契約の形成において、政府は不可欠な役割を担う。企業には、市場経済が事業を続けるための社会的な許可を保ち続けられるよう支援することで、大きな利益を得る余地がある。市民社会は、前世紀半ばよりも重要な役割を担っている。協働が不可欠であり、すべての主体が役割を果たさなければならない。
新たなアプローチの利点は明らかだ。現代的な社会契約は、すべての人に経済的機会と流動性をもたらし、気候危機に断固として取り組むために必要な社会的合意を確かなものにし、社会の進歩に資する技術革新を可能にし、より包摂的な社会を築くことができる。




