海洋は、気候変動との闘いの中心にあります。
海洋は代替エネルギー源として多様な可能性をもたらしますが、その大部分はまだ活用されていません。
海洋資源を効果的かつ持続可能な形で利用するには、科学的な海洋データの共有と国際協力が不可欠です。
今年のダボス年次総会は「分断された世界における協力」をテーマに掲げ、エネルギー安全保障と気候変動を主要議題としています。気候変動をめぐる議論では海洋が見過ごされ、軽視されることも少なくありませんでしたが、安全で持続可能なエネルギーの未来への移行において、海洋は極めて重要な役割を果たします。
海洋エネルギーには豊富な可能性
世界各地で、気候変動を緩和し、化石燃料から脱却するために、海洋再生可能エネルギーの利用が拡大しています。洋上風力から潮汐、波力、海洋温度差、浮体式太陽光発電まで、海洋はさまざまなエネルギー源をもたらします。世界がようやく再生可能エネルギーに幅広く注目し始めたことは、前年と比べて関連ニュースへの言及が35%増加したことにも表れています。
しかし、現在の海洋エネルギーの導入規模は、その潜在力を十分に発揮するには程遠い状況です。国際エネルギー機関によると、洋上風力は現在の消費量の約18倍に相当するエネルギーを供給できる可能性があります。持続可能な海洋経済のためのハイレベル・パネルは、海洋から得られるエネルギーを40倍に増やす目標を掲げています。
今後数年間で、洋上風力発電設備は数千キロメートルに及ぶ海域を占めることになります。欧州を例にすると、EUは現在の28GWから2050年に300GWへ拡大することを約束しています。欧州では現在、毎年何百基もの新しい風力タービンが洋上に設置されており、世界の目標達成には数万基が必要となります。
計画が不十分であれば、こうしたインフラは海洋保護を含む他の海洋分野に容易に悪影響を及ぼします。計画の不備に伴うリスクには、生息地の喪失、回遊経路の妨害、騒音などがあります。世界により多くのエネルギーを供給するために急速な建設が必要な今こそ、責任ある立地判断に役立つデータと知見を用いて、開発を適切に計画しなければなりません。現在、海洋を測定・監視する能力は向上し、これまで以上に多くの海洋データを収集しています。
海洋データが利用可能になるにつれ、科学主導・データ駆動型の解決策によって海洋を再生する、期待に満ちた、驚くべき可能性が広がっています。
海洋データの力を解き放つ
洋上風力分野では、他の産業がこれまでそうしてきたように、立地評価や運用に幅広いデータが必要になります。収集したデータをオープンに共有すれば再利用でき、洋上風力が周辺環境に与える影響をより深く理解することにつながります。
データ共有は、洋上風力の開発以外にも利点をもたらします。このデータを他のさまざまな情報源と組み合わせることで、海洋関連分野間に相乗効果が生まれる可能性があります。例えば、洋上風力発電所にケルプやムール貝の生息地をつくることで、その利用価値を高められます。
海洋ハイレベル・パネルによると、2050年までに海洋から得る食料を現在の6倍に増やす必要があり、海洋ハイレベル・パネル養殖業は海洋由来のタンパク質の重要な供給源となります。ムール貝などの貝類は海水の水質も改善し、生物多様性の向上につながります。養殖業界は、洋上風力発電設備を沖合の養殖場の設置場所として検討しています。
こうした双方に利点のある解決策が当たり前になれば、可能性は無限に広がるでしょう。
世界経済フォーラムは海洋のために何をしているのか?
国境を越えた協力――科学から始める
海洋データを統合・集約することで、意思決定の指針となる共通の事実を築くことができます。しかし、データの力を解き放つ道のりはまだ長く、目指す地点に到達するには、国境を越えた前例のない協力が必要です。科学界、産業界、政府が新たな形で協力すれば、海洋データを収集・再利用する、より効果的な方法を見いだせます。分野ごとの縦割りを脱し、協力のあり方を根本から変えて、ともに取り組む必要があります。
第一歩は、海洋データに対する考え方を根本から変えることです。海洋データを私有され保護されるものから、誰もが利用できる共有財へと転換する意識改革が求められます。何より、海洋そのものが共有財であり、企業による海洋利用は透明性を確保すべきです。
第二歩は、科学界、産業界、政府の間にある仕組みと相互依存関係を認識することです。この力学において、科学は重要な役割を果たします。科学者は、海洋利用に関する持続可能な解決策を見いだすため、政府機関に知見を提供します。科学者に関係する海洋データを利用可能にするには、科学者の明確な声に耳を傾けることが不可欠です。
最近開催されたワークショップでは、HUB OceanとIOCが、海洋を理解・予測するための海洋モデルを開発・運用する欧州、米国、中東の海洋科学者20人以上を集めました。科学者たちに、海洋データの利用方法や不足しているデータ、産業データが研究にどう役立ち、どのような影響を与えるかを尋ねました。
現在、海洋モデリングのコミュニティが産業データを活用できる事例がいくつかあります。産業界がより広くデータ共有を始めるには、ここが出発点になると確信しています。科学者が、モデルの運用・改善に必要な産業由来の海洋データを明確に伝えることが重要です。
この取り組みには小規模な試みがいくつかあるものの、十分に体系化も普及もしておらず、継続性も欠けがちです。この協力は一度限りの催しではなく、長期にわたって続けなければなりません。
(海洋の)世界を分断から解き放つ
エネルギー危機の解決策として再生可能エネルギーが挙げられますが、海洋の健全性を語らずに解決策を論じても意味がありません。海洋は絶えず変化しており、関連情報を途切れることなく得る必要があります。
すべての関係者が重要な海洋情報を利用できるようにするには、次の取り組みが欠かせません。
科学者が、より深い知見を得るために必要な産業データを明確に発信すること
企業が、データを利用可能にするための果断な決断を下すこと
政府が、私たちに必要な海洋のために、科学主導・データ駆動型の知見を活用すること
そうして初めて、エネルギー危機の解決策を語る意味が生まれます。





