従業員の定着が企業にとって引き続き課題となるなか、優秀な人材が重視する新しい方法でリーダーシップを発揮すべき時です。
従業員が離職する理由に関する調査によると、企業文化、職場環境、成長機会、リーダーシップとの断絶など、その理由はリーダーとして自らの力で変えられるものです。
組織が明確に定義された目的と将来への道筋を持つと、優秀な人材を引きつけ、定着させられる可能性が高まります。
「5年後、自分はどうなっていると思いますか?」
これは今どきの悪名高い面接質問の一つですよね。人事担当者が候補者の思慮深さや向上心を評価するうえで、有益な質問でもあります。
そろそろ問いかける側を変える時だと思います。人材不足が企業の大きな懸念事項となるなか、従業員が企業に「5年後、あなたはどうなっていると考えていますか?」と尋ねてもよいのではないでしょうか。あなたはと。さらに、次のような質問を続けるかもしれません。「真に柔軟なリモート勤務やハイブリッド勤務の方針がありますか?」「重要な問題について、会社として立場を明らかにしますか?」「健全な仕事と生活のバランスを奨励し、支援しますか?」「持続可能性を高め、環境への影響を減らすために、会社はどのような取り組みをしていますか?」「誇りを持って働ける会社であり続けますか?」
パンデミック後の世界では、人材需要が供給を上回っています。適切な答えを示せないリーダーは、競争で苦戦するでしょう。私が考える解決策は、目的意識を持ったリーダーシップと、企業としての共感力の実践に改めて注力することです。
力と優先事項
「大退職時代」は、世界的に新型コロナウイルス感染症をきっかけとした人生の見直しに直接起因するという見方があります。人生は短いという意識が広がり、労働者が妥当な報酬を求めるのは当然である一方、多くの人はもはや仕事を自分を定義する特徴や最優先事項とは考えていません。一方で、大退職時代(私が好んで呼ぶ「大再評価時代」)は、10年以上前に始まった傾向の継続だという見方もあります。いずれにせよ、現場の現実として、従業員の定着は企業にとって重大かつ高コストな問題です。
アデコ・グループが最近発表した「新たな日常の再構築」調査には、リーダーにとって見過ごせない兆候がいくつも含まれています。回答者14,000人のほぼ40%が、過去1年間に転職したか、転職を検討していると答え、26%は労働市場から完全に退出したか、そのことを検討していました。ある分析によると、新型コロナウイルス感染症の危機が最も深刻だった時期に、従業員の定着にかかるコストは実質的に倍増しました。市場は変化し、仕事の未来をめぐる議論の行方に、労働者がより大きな発言力を持つようになっています。

さらに、企業は単に給与を支払うだけではこの問題を解決できません。当社の報告書では、労働者が雇用主に求める優先事項や期待を調査しました。給与は、良好なワークライフバランスを保てることや、仕事をやり遂げる信頼を得られることと同じくらい重要でした。むしろ労働者が 求めているのは、共感力を発揮し、会社をより大きな目的と結びつけるリーダーです。
労働者の優先事項や力のこうした変化に直面し、無力感からお手上げだという態度を示す経営幹部に、私はよく会います。しかし、問題を次のように捉え直すよう促しています。従業員が離職する理由については豊富な調査があります。そして、企業文化、職場環境、成長機会、リーダーシップとの断絶など、その理由はリーダーとして自らの力で変えられるものです。「ニーバーの祈り」を言い換えるなら、自分に変えられるものを変える勇気を持つことです。リーダーは実践や業務プロセスを変えることで、優秀な人材を引きつけ、定着させられると確信しています。
目的意識を持ったリーダーシップ
組織が明確に定義された目的と将来への道筋を持つと、優秀な人材を引きつけ、定着させられる可能性が高まります。人々は将来へのビジョンを持つ企業で働きたいと考え、その目的の中で自分がどのような役割を果たすのかを理解したいからです。
すべての利害関係者から意見を集めたうえで、リーダーは会社の使命と目的を掲げ、磨き上げ、継続的に伝えなければなりません。そこには、製品戦略や市場投入戦略など従来型の事業施策も含まれますが、目的の範囲はそれだけにとどまりません。顧客、従業員、取引先をどのように扱うのか、また持続可能性や公平性といった大局的な課題について、組織がどのような立場を取るのかを定めるべきです。最近のギャラップ調査によると、企業から高く評価されているミレニアル世代とZ世代の労働者は、職場での倫理的なリーダーシップを重視しています。
企業としての共感力
共感とはもちろん、相手の立場に立ち、その人の気持ちや直面している課題を理解する力です。企業レベルでは、共感を実践するリーダーは、従業員が会社への忠誠心を保つために何を必要としているのかを、より深く把握できます。たとえば、午前8時30分の会議に備えながら、シングルマザーが子どもをスクールバスに乗せる様子を想像することです。長年使われているソフトウェアで最先端の成果を出すよう求められた技術職の従業員の苛立ちに、真摯に耳を傾けることもその一例です。
経営幹部から始めて、リーダーは共感を重んじる企業文化を育むべきです。そのためには、古い習慣を改める必要があることも少なくありません。自分の限界や不満を率直に語ることを、弱さと見なすべきではありません。向上心は称賛に値する特性ですが、家族と過ごす時間を大切にしたいという思いも同様です。たとえ納期に影響するとしてもです。
共感そのものが報いとなりますが、企業としての共感力を育むリーダーは、事業上の成果も得られます。労働者とつながり、従業員を支援することは、最終的に従業員エンゲージメントや人材定着の向上につながります。
取り組みを始める
目的意識を持ったリーダーシップは、偶然に実現するものではありません。意図的な取り組み、粘り強さ、継続的なコミュニケーションが必要です。企業が実行でき、また実行すべき取り組みを以下に挙げます。
従業員の声に耳を傾ける:共感は、他者の現実を理解し、認識することから始まります。
人材を支え、定着させるため、新しいオフィスのあり方を作る。
最先端の柔軟な勤務形態を導入する。当社の報告書によると、新たな日常において、給与と並んでワークライフバランスが労働者の最優先事項となっています。こうした勤務形態は、とりわけ、出産、育児、成人や子どもの介護、その他の個人的な事情に応じて設計すべきです。
人々がキャリアを築けるようにする。組織内で成長や能力開発、社内異動の機会があることを示す。
人材獲得で競争力を保てるよう、インフレが自社に及ぼす影響を把握する。
あらゆる人材を受け入れる。たとえば、労働市場への復帰を検討している女性を支援する。また、あらゆる年齢、能力、経歴の労働者が、会社で歓迎され、支援されていると感じられるようにする。
労働者のリスキリングとスキルアップに注力する。現在のスキルを評価し、伸ばす。これにより、自社の将来への備えができるだけでなく、労働者が会社にとどまる理由も一つ増えます。
持続可能性や公平性などの社会課題に、臆せず透明性をもって公に取り組む。
この道のりを続ける、あるいは歩み始めるリーダーは、求職者と労働者の双方に、ビジョンと計画、そして一連の基本原則があることを示せます。そうして備えたリーダーは、自分たちが5年後にどうなっていると考えるかを、胸を張って語れるでしょう。





