世界各地でインフレが進み、食料品とエネルギーの価格は過去最高を記録しています。
この上昇の大きな要因は、パンデミック後に積み上がった消費者需要と、ロシアによるウクライナ侵攻です。
UBSのチーフエコノミスト、ポール・ドノバン氏が、インフレが高い理由と、いつ落ち着くと予想できるかを解説します。
インフレが進み、世界各地の多くの人々にとって、生活費危機が迫っています。4月のCPI(消費者物価指数)は8.3%上昇し、米国のインフレ率は40年ぶりの高水準にとどまっています。
COVID-19パンデミック後の食料品とエネルギーのコスト上昇を主因とするインフレは、ロシアによるウクライナ侵攻でさらに悪化しました。
月次食料価格指数は、世界的に取引される食料品の価格を追跡する国連食糧農業機関(FAO)が発表したもので、2月から3月にかけて12.6%上昇し、1990年の算出開始以来の最高水準に達しました。
FAOの穀物価格指数は同期間にさらに大きく、17.9%上昇しました。小麦や粗粒穀物の世界価格が急騰したことを反映しており、その主因は、世界有数の小麦輸出国の一つであるウクライナからの輸出の混乱です。
ウラジーミル・プーチンによるウクライナ侵攻は、COVID後に積み上がった消費者需要ですでに高騰していた石油価格をさらに押し上げ、1バレル110ドルを超えました。多くの西側諸国が報復としてロシアに壊滅的な制裁を科したためです。
UBSのチーフエコノミスト、ポール・ドノバン氏は、著書『インフレの真実』の著者でもあり、インフレがこれほど高い理由と、すでにピークに達したかどうかを解説します。
現在のインフレは何に起因しているのでしょうか?
ドノバン氏は現在のインフレ急上昇を「歴史的」と評しますが、この水準が長く続くことはないと述べています。
各国がロックダウンを終え、店舗が再開し、人々が外出して、経済活動が停滞した数週間に貯めたお金で買い物できるようになった2021年、モノに対する異例の需要が生じたことが原因です。
今日、供給が制約されているために価格が上がっているだけではありません。戦争が将来の供給を混乱させるとの懸念からも、価格は上昇しています。
ポール・ドノバン、UBSチーフエコノミスト
需要と供給
「モノに対する需要が異例の急増を見せ、それがインフレを押し上げました。実際、モノの供給も異例に急増していたのですが、需要があまりに特殊で、供給を上回りました。需要が供給を上回ると、品不足か価格上昇のどちらかが起こります。今回は両方が混在していましたが、需要急増の一部は価格を押し上げました。ところが、昨年末までに多くの国で消費者の貯蓄が底をつき、需要が減少し始めたため、こうした状況も弱まり始めました。
「インフレ圧力はまだ残っていますが、後退しつつあります。例えば米国などのテレビ価格を見ると、昨年は上昇していましたが、現在は下落し、実際にインフレ率がマイナスになっています。調整が始まった一方で、インフレを押し上げる影響はまだ十分に残っています。」
戦争の影響
需要主導のインフレは弱まり始めていましたが、ウクライナ戦争が経済に大きな混乱をもたらしました。
「戦争には、非常に悲惨な人道的影響がさまざまありますが、経済的な影響もあります。ロシア経済そのものはそれほど大きくありませんが、商品市場では大きな存在です。
「その結果、商品価格が上昇しました。ウクライナで作物の作付け時期が制限されたり、企業がロシア産原油の購入に消極的になったりして、供給が制約されていることも一因です。しかし、リスクがあることも理由です。
「今日、供給が制約されているために価格が上がっているだけではありません。戦争が将来の供給を混乱させるとの懸念からも、価格は上昇しています。」
こうした商品価格の上昇が、インフレに波及しています。
先進国では、食料に使う支出のうち、実際に食料そのものに使われるのはわずか15~20%ほどです。
ポール・ドノバン、UBSチーフエコノミスト
石油価格はどうでしょうか?
原油1バレルの価格は、食料品や航空運賃、ガソリンなどに影響します。これらはすべて燃料に依存しているためです。
「車のタンクに原油を1バレル注ぐわけではありません。しかし、食料品やガソリン、航空運賃など、燃料に依存するものにはお金を払います。こうした商品には多くの労働力が関わっており、食料品の場合はとりわけ膨大な労働力が必要です。
「先進国では、食料に使う支出のうち、実際に食料そのものに使われるのはわずか15~20%ほどです。支出の大半は、配送や加工、小売、広告などを担う労働力に充てられています。パン1斤に支払う金額も、こうした費用に使われます。農家が受け取る額は、実際にはそれほど多くありません。」
「世界的に見て、原油は一般的なインフレ率算出用のバスケットの2.5%弱を占めています。そして、その原油をガソリンに変えるには多くの労働力が必要です。しかし、原油価格が100%上昇すれば、総合インフレ率は2.5%弱上昇します。現在起きているのは、ほぼこれに当たります。」
インフレはピークに達したのでしょうか?
インフレがピークに達したかと尋ねられると、どこにいるかによると答えています。「米国では、インフレはおそらく3月にピークに達したと思います。英国では少し後になり、欧州ではさらに遅くなるでしょう。今年後半のインフレ率は低下傾向になると思います。」
その理由として、3つの点を挙げています。
需要の減退:昨年、異例の需要により価格が押し上げられた多くの分野で、現在はインフレ率が低下しています。インフレ率がマイナスに転じたケースさえあります。2022年を通じて、こうした品目はさらに増えるでしょう。異例の需要が弱まるにつれ、異例の高価格も落ち着いていきます。
ベース効果:インフレ率を示す最も一般的な方法は、前年同月比の価格変化です。つまり、常に公表されている前年同月比のインフレ率は、現在の価格だけでなく、1年前の価格も反映しています。今年3月に公表する数値は、ロックダウン中だった2021年3月の価格と、通常の経済活動に戻った2022年3月の価格を比較しています。当然、通常の状態とロックダウン中を比べれば、今年にかけてかなり大きな価格変動が生じます。6月には、少なくとも米国では、通常の経済活動だった2022年6月と2021年6月を比較することになります。その時点では価格変動が明らかに小さくなるため、前年同月比のインフレ率は低下します。
賃金コストと価格のスパイラル:現時点では、賃金そのものではなく賃金コストが、インフレにつながる形で大きく上昇している様子はありません。先進国では、賃金がインフレの約70%を占めます。賃金コストと賃金の違いは重要です。人々がより懸命に働いた結果として賃金が上がるのであれば、それはインフレ要因ではありません。多くの経済圏で、人々はより懸命に働いています。一般に先進国では、経済生産高であるGDPはパンデミック前の水準を上回っていますが、雇用はその水準を下回っています。つまり、より少ない人数で、より多くを生産しているのです。
世界経済フォーラムは、世界の食料安全保障を確保するためにどのような取り組みをしていますか?
どう対処すればよいのでしょうか?
ドノバン氏によると、政府ができる最善のことは何もしないことです。「政府には石油価格を実際に変えられませんし、中央銀行が小麦などの商品価格を突然変えることもできません。」
価格上昇をめぐる要因の一部はすでに自然に弱まりつつあり、ウクライナ戦争が食料品や燃料価格に及ぼす影響など、他の要因は大半の政府の影響力が及ぶ範囲を超えていると、同氏は付け加えます。
ただし、政府がインフレ高進の影響を緩和しようとすべきかどうかは別の問題です。「その点では、できることがあります。物価上昇に苦しむ人々を助けるため、支給中の給付金を見直すこともできますし、何かに課税されている場合は、その税を見直すこともできます。」
例えば、石油にはしばしば税が課されているため、一部の政府は一時的にその税を引き下げたり、他の製品の売上税を減らしたりして、暮らしを少しでも手頃にできると考えるかもしれません。石油の需給を変えることができなくても、短期的な生活費への影響を緩和するために政府ができることはあります。
「今後10年間を考えるのであれば、もちろん政府は再生可能エネルギーへの投資などを促進できます。しかし短期的には、価格上昇を相殺するために政府ができることには限界があります。」





