より少ない資源で、より持続可能かつ効率的な方法により、世界は高まり続ける財の需要にどう応えられるでしょうか。
循環型経済は新しい概念ではありませんが、大規模な導入に成功した企業は少なく、バリューチェーン全体の完全な転換を検討した企業はさらに少数です。
組織は、循環型の取り組みにより包括的なアプローチで臨むことで、より適応力の高い事業運営モデルやビジネスモデルを生み出し、システム全体の変革に貢献できます。
産業界と政府は、今後10~20年の野心的な環境目標を掲げています。急速に変化する消費者の期待に応えるため、生産性、イノベーション、経済成長を推進しながら、サプライチェーンのレジリエンスを高め、ネットゼロを達成し、廃棄物を大幅に削減することを目指しています。すでに前例のない規模の変化が求められており、こうした先見性のある取り組みは、困難で不確実な地政学的環境のもとで進められています。
こうした目標の達成には、大胆な変革が必要です。ビジネスモデルやサプライチェーンの転換は容易ではありません。製品の製造、販売、使用、再使用、リサイクルの方法から、世界経済全体の仕組みまで、システム全体を適応させる必要があります。
気候変動に適応し、地政学的に協調する世界であっても、天然資源は希少です。近年、公衆衛生上および地政学上の危機によってサプライチェーンとバリューチェーンに生じた混乱が、この希少性を大幅に深刻化させています。では、より少ない資源で、より持続可能かつ効率的な方法により、世界は高まり続ける財の需要にどう応えられるでしょうか。
循環型経済は新しい概念ではありません。過去20年間、企業、産業界、政府は、主にリサイクルと廃棄物管理に重点を置いた循環型の取り組みを試みてきました。大規模な導入に成功した例はごくわずかで、バリューチェーン全体の転換を検討した例はさらに少数です。 ベイン・アンド・カンパニーが最近実施した調査によると、進行中の循環型の取り組みの約60%は規模拡大に至っていません。初期段階の循環型の取り組みは、技術力の不足、業界標準の不統一、業界内の他の事業者との強固なつながりの欠如によって、最も頻繁に停滞します。
ケンブリッジ大学工学部研究ディレクターのジャジット・シン・スライ氏によると、「循環型経済への移行には、システム思考を通じて材料、生産、デジタル技術の進歩を活用する、業界横断的な協働が必要です。こうした協働と技術が、将来の資源効率に優れた事業運営モデルやビジネスモデルを支えることになります。」
なぜ循環型経済は広がらなかったのでしょうか。これまで企業は、自社の枠内にとどまる限定的な循環型ソリューションに投資してきました。また、循環型経済のメリットは環境の持続可能性に限られて捉えられ、レジリエンス、資源効率、持続可能な段階的経済成長といったシステム面の利点は十分に考慮されてきませんでした。投入資源のリサイクルと廃棄物の流れの転換を主眼とする方法は、より容易で管理しやすい選択肢ですが、循環型の取り組みを拡大する可能性を狭めます。
複数のサプライチェーンを横断する包括的なアプローチがなければ、循環型経済の推進は根本的な障壁に直面します。循環型への移行に伴う追加コストと複雑さが、得られる追加的なメリットを上回るのです。現在の価値提案では、企業や消費者に循環型経済を実現させたり、より広範でシステム全体に及ぶ変革に取り組ませたりするには至っていません。これまでの循環型の取り組みが示すように、個別の努力だけでは不十分であり、緩やかで段階的な変化では効果がありません。
循環型への変革に着手し、より適応力の高い事業運営モデルやビジネスモデルを構築する組織は、混乱の時期であっても持続可能な成長に貢献しながら、より有利な立場で繁栄できると私たちは考えています。ベイン・アンド・カンパニーのシニアパートナー兼パフォーマンス改善部門グローバル責任者、エルナン・サエンス氏は次のように述べています。「循環型経済は、気候や地球の生物生産力を守るだけのものではありません。大規模でレジリエントな経済成長を可能にするものです。循環型のモデルと事業運営が未来を形作り、いち早く移行する企業が競争優位性を確立するでしょう。」
世界経済の運営方法を変えることは、企業が循環型ネットワークを構築するという最初の段階をはるかに超えるものです。事業運営モデルやビジネスモデルを再構築し、新たなシステムを築き、消費者の行動を変えるには、大胆な発想が必要です。こうしたより広範な行動によって、産業のバリューチェーンが再編され、世界中の資源に対するよりシステム全体を見据えた持続可能なアプローチが動き出し、経済成長も促されます。
政策立案者への提言
一方、政府は循環型経済に適したインフラと基準を整備することで、移行を加速できます。政策立案者は重要な役割を担っています。しかし、大規模なシステム変革を支えるために必要な政策や規制の導入に、まだ着手していない政府が大半です。既存の政策が足かせとなり、進展を妨げる場合もあります。たとえば、構造物に使用できる再生コンクリートの割合は国によって異なり、大規模な生産と利用の妨げになっています。
EUは循環型経済に関する政策を先導し、循環型経済行動計画(CEAP)、拡大生産者責任(EPR)、新たな電池指令などの枠組みを策定してきました。ほかの国々も独自のプログラムを策定しており、電気廃棄物の管理を目的とするナイジェリアの電子廃棄物生産者責任機構(EPRON)や、シンガポールの資源持続可能性法(RSA)などがあります。
こうしたプログラムは勢いを生み出していますが、システム全体の転換を実現するには、より野心的で包括的な取り組みが必要です。対象範囲を広げ、産業間の連携を強化し、国や地域を越えて足並みをそろえることで、世界共通の基準や貿易ルール、一貫性のあるインセンティブの仕組みをつくる必要があります。
循環型経済:今後の道筋
産業界や政策立案者は、産業に不可欠な材料の供給を確保し、転換・多様化するとともに、採掘の必要性とそれに伴う排出を減らすため、資源の循環利用に目を向けています。産業連合は、将来を見据えた政府と連携し、規模拡大に必要なインセンティブ、政策枠組み、基準、事業運営モデル、認証、循環型経済に関する能力を整備してきました。一部の市場では、需要を減らし、資源回収の可能性と実際の回収量の双方を高めるようビジネスモデルが転換され、今後の需給ギャップが部分的に緩和されています。
先を見据える経営陣は、次の重要な問いに取り組むことが推奨されます。
成長と持続可能性に向けた取り組みを支え、世界的な混乱に対処するうえで、最も効果的で収益性の高い循環型モデルは何でしょうか。
新たな循環型モデルを可能にするため、組織はどのように相互接続されたサプライチェーンのネットワークを構築できるでしょうか。
相互接続された循環型サプライチェーンの数を大幅に増やす、システム全体の変革をどのように実現できるでしょうか。
世界経済フォーラムは、パートナーであるベイン・アンド・カンパニー、ケンブリッジ大学、INSEADとともに、産業の循環型変革を加速し、循環型経済を活用して生産性、レジリエンス、持続可能性を高めることを目的とした新たな取り組み「Circular Transformation of Industries」を立ち上げました。私たちは、循環型産業変革を主導する組織が増えていくなかで、各組織にこの歩みに加わり、前例のない規模で協働して産業の循環型変革を進めるよう呼びかけています。




