洪水から干ばつまで、水関連の自然災害によって、2022年から2050年の間に世界のGDPは5.6兆ドルの損失を被る可能性がある。
水についての考え方を改め、水が世界中の人々の暮らしを向上させる機会となることに目を向ける必要がある。
6カ月後、国連水会議がニューヨークで開催され、世界の水システムについて協議する。これは、2030年までに水に関する持続可能な開発目標を達成するために必要な機運を生み出す、歴史的な機会となる。
パキスタンで発生した極端な洪水は、何年にもわたる被害をもたらし、数千人の命を奪った。中国では記録的な干ばつにより、長江の一部が干上がった。長期化する水不足は、欧州と米国西部の農業生産とエネルギー生産を妨げている。世界各地で、水システムは危機に陥っている。
水が多すぎても、少なすぎても、汚染されすぎていても、管理の不備、投資不足、気候変動の影響により、私たちの水システムは破局へとじわじわ近づいている。
最近の研究によると、洪水から干ばつまで、水関連の自然災害によって、2022年から2050年の間に世界のGDPは5.6兆ドルの損失を被る可能性がある。2020年、企業が報告した水関連リスクの最大の財務的影響額は3,010億ドルに達し、その対策費用の5倍に上った。
ちょうど6カ月後、オランダとタジキスタンがニューヨークで開催される国連水会議を共同主催する。1977年以来となる歴史的な会議であり、世界の水の安全保障と生態系のレジリエンスを確保する取り組みを見直す機会でもある。
水は、経済、健康とウェルビーイング、そして環境のあらゆる側面で不可欠な役割を果たしている。したがって、国連水会議は水に関する議題だけでなく、持続可能な開発の議題全体にとっても、転機となり得る。
必要なシステム全体の変革を実現するため、代表団は水システムが直面する最も困難な課題に取り組むべきだ。会議が水システムに必要なだけの効果をもたらすには、こうした課題に対して行動を起こし、その取り組みを結集する必要がある。
水・食料・エネルギーの相互連関の重要性や、今日の世界経済・地政学的状況においてその相互依存がもたらす影響と機会について、私たちは認識し始めたばかりだ。
水、エネルギー、脱炭素化
水リスクと多くの世界的な動向や目標とのつながりを、私たちはいまだに見いだせていない。そのため、具体的な機会を捉え損ない、持続可能な経済の構築に向けた取り組みを危うくしている。
例えば、低炭素経済の実現を目指す世界的な取り組みにおいて、水はしばしば見落とされている。脱炭素化の重点は、運輸、製造、その他の産業プロセスに置かれがちだが、水道事業は世界の年間総排出量の2%を占めており、その規模は海運業とほぼ同じだ。排出削減政策を策定する際に、水を対象から外すことはできない。
水道事業者は、特にエネルギー集約型の下水処理と排水処理を通じて、事業活動の脱炭素化に取り組まなければならない。
水とエネルギーは切り離せない関係にある。世界全体で、エネルギーの生産と供給は、約取水量の10%、水の総使用量の3%に関連している。水とエネルギーの需要が増すにつれ、両者の結びつきはさらに強まる。開発の観点からは、両資源の需要が供給を大幅に上回るペースで増加するため、問題となり得る。再生可能エネルギーへの移行は、水へのアクセス不足によって妨げられるおそれがある。水は、バッテリーや太陽光パネルに欠かせない金属の採掘に重要であり、冷却にも必要だ。水素1キログラムの製造には水が9リットル必要となる。これらの課題は切り離せないため、一体的に考えなければならない。
水について考えるとき、他の最も重要な資源との結びつきも認識しなければならない。
清潔な水は資源である
新型コロナウイルス感染症のパンデミック下での手洗いから、水系感染症による年間死亡者数が示す深刻な実態まで、公衆衛生を守るうえで清潔な水は欠かせない。
それにもかかわらず、45億人が世界で衛生的なトイレを利用できず、23億人が自宅に基本的な手洗い設備を備えていない。こうした問題への対処は、健康で生産性の高い人口を築くうえで重要だ。改善がなければ、清潔な水を供給し、下水を適切に処理できていないことが、次のパンデミックへの対応を左右する。
水は、薬剤耐性(AMR)やAMR関連疾患の拡大をもたらす主要な経路でもある。水系AMRによって、追加の医療費がすでに年間10億~50億ドル発生しており、この額は増加すると予想される。水系AMRに関連する疾病負担の管理費用はグローバルサウスに集中し、多くの場合、負担することができない。
深刻化する食料安全保障危機に直面するなか、抗菌性の害虫防除剤や抗生物質への耐性が高まることで、農業供給もAMRの脅威にさらされている。これにより農業部門は年間最大60億ドルの費用を負担する。こうした傾向を抑えなければ、水系AMRによる人々と経済への影響は、さらに深刻化するばかりだ。
実行に役立つデータの提供
水関連データは断片化が進み、古くなりすぎている。水システムは本質的につながっているにもかかわらず、関連データは分断されている。情報を網羅的に利用できなければ、データに基づく効果的な意思決定はできない。
水関連データを集約し、維持するだけでなく、予測される人口増加や産業成長、最新の気候モデルに関する情報も統合する必要がある。
こうしたデータは誰もが利用できるようにすべきだ。情報の透明性が高まれば、市民は意思決定者に説明責任を求められる。新しい技術によってそれは可能であり、必要なのは投資と協力だ。
世界の持続可能な開発の議題における水システム
水インフラには、7兆ドルの資金不足がある。必要な資金を動員するには、水についての考え方を改める必要がある。水を最終目標とするのではなく、他の世界的優先課題の達成を支える促進要因として位置付けなければならない。すべての病院に基本的な水サービスが必要だと繰り返し訴えるよりも――4施設に1施設は備えていない――死亡率の低下を強調し、基本的な水サービスがその低下にどう貢献するかを示すべきだ。
水の課題への対処が、世界的な課題の他の領域に経済的・社会的価値をどのように付加できるかを示すことで、70億ドルの資金不足を埋め始めることができる。
解決策は、さまざまな部門に効果をもたらさなければならない。水を複数の経済的・社会的優先課題を支える促進要因であり解決策として位置付けることが、持続可能な開発アジェンダの達成を成功させる最善の道だ。




