2020年末までに、世界でさらに1億3,000万人が深刻な食料不安に直面していた。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって深刻化した食料の生産と供給の脆弱性を克服し、「目的に適した」食料システムを構築するには、システム全体を捉えるアプローチが必要である。
より機敏で、人々を第一に考える姿勢も、このパンデミックとその先に向けたレジリエンスの高い食料システムの構築に役立つ。
2021年初頭、食料は世界の議題の中心に再び戻ってきた。世界食糧計画はノーベル平和賞を受賞し、2021年9月に開催される国連事務総長主催の食料システムサミットは、人々と解決策を中心に据えたサミットとして発表された。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが経済危機を食料危機へと発展させる脅威は、依然として迫っている。
2020年、世界では豊作が続き、食料供給への大きな影響が緩和された。しかし、2020年末までにさらに1億3,000万人が深刻な食料不安に直面していたと予測されており、食料の生産と供給の脆弱性もますます明らかになっている今、現状に甘んじている余地はない。今後を見据えると、レジリエンスに備えた、健康的で栄養価が高く、包摂的かつ持続可能な食の解決策を育み、規模を拡大することが、これまで以上に重要である。
その方法を紹介する。
1. 協調行動の進め方を見直す
パンデミックは、共通の目標達成に向けた、前例のない世界規模の行動と連携の力を示した。従来のパートナーシップは、特定の課題への対応には非常に効果的なことが多い一方、食料システムの移行に必要な変革の規模を実現し、その複雑さに対処する能力を備えていない。
将来に向けて目的に適した食料システムを構築するには、システム全体を捉えるアプローチを取り、多様な関係者が共有する一体感を育み、共同責任を維持し、実現に向けたインセンティブと移行の段階を再設計する必要がある。
食料行動同盟(FAA)は、政府、民間、市民社会、農業従事者・消費者団体、学術界のパートナーが主導し、南北アメリカ、欧州、アフリカ、インド、東南アジアで、国や地域が主導するパートナーシップ・プラットフォームの立ち上げを加速させている。地域のパートナーが主導する多様な関係者の参加型アプローチにより、各パートナーシップは独自性を維持しつつ、より広範な共通の成果を大規模に実現するための力を結集できる。
複雑さを受け入れ、規模拡大を前提に設計することで、より機能的で公平な食料システムの恩恵を受ける人々の規模を、数万人から数十億人へと広げることができる。例えば、1億人の農業従事者が再生型農業の実践に取り組むよう促す力を考えてみよう。環境への影響を減らすだけでなく、過去の損害を修復し、このセクターをカーボンニュートラルかつカーボンポジティブにすることができる。企業はこの原則をサプライチェーン全体で推進でき、数十億人の消費者は、さまざまな魅力的で透明性が高く、信頼できるネットワークや取り組みを通じて、より健康的で栄養価が高く、廃棄物ゼロで環境に配慮した食品を選ぶよう促される。
2. より賢く、機敏で、解決策を重視する姿勢へ移行する
新型コロナウイルス感染症により、レジリエンスの高い食料システムを構築する必要性が高まった。そのためには、誰もが恩恵を受け、リスク負担がより適切に分かち合われる食料サプライチェーンの構築と、食料生産の真のコストをどう測定するかの評価に、真剣に取り組む必要がある。現在、農村部の貧困層の最大40%が生計を食料・土地利用システムに直接依存しており、現在の食料・土地利用システムは温室効果ガス総排出量の最大30%を生み出している。全体として、環境、健康、貧困に関する隠れたコストは約12兆ドルと推定される一方、世界の食料システムの年間市場価値は10兆ドルと推定されており、社会全体に年間数兆ドル規模の損失をもたらしている。
パンデミックは、食料システムを真に目的に適したものへと再設計する大きな機会をもたらしている。この点で、セクターを越えた新たな動的な協働を築くため、人々を中心に据え、解決策を重視する姿勢を採用することが、これまで以上に重要である。目的を最初から捉え直し、人々とともに、人々のために、集団的かつシステム的な方法で協力して問題を解決する、開かれた協働的なアプローチは、新世代のビジネス・組織モデル、社会・環境関連のツールやサービス、個人と組織によるシステム変革のリーダーシップを生み出す可能性がある。
食料システムを保護し、再生するための行動も、より賢いものにする必要がある。現在の危機は、デジタル化とデータ主導の変革を可能にするため、食料システム全体を刷新する必要性を浮き彫りにした。衛星・地理空間データ事業者、ICT・通信プロバイダー、電子商取引・物流企業、金融機関が持つデータを活用できる。
例えば、パンデミック発生当初、ケニア政府は省庁横断・セクター横断のデータ主導型食料安全保障対策室を設置した。これにより、デジタルツールをリアルタイムで導入してデータを収集し、新型コロナウイルス感染症への対応と復興、その食料供給への影響についての判断に役立てることができた。また、重なり合って同時に発生した一連の脅威にも対応した。その中には、壊滅的なバッタの大発生や、異常気象による洪水も含まれていた。
食料システムの複雑で分断された性質そのものが、重要な課題である。リーダーは、簡単なところから(あるいは土壌の炭素隔離など具体的な分野から)始めながら、革新的で機敏かつ大胆に取り組むことができる。例えば、何百万もの農業従事者が当初は土壌への炭素貯留に対して報奨を受けられるよう、「十分に実用的な」暫定的なオープンデータ・ソリューションと移行期の資金調達メカニズムを共同で開発することが考えられる。
これと並行して、包括的でデータを活用した科学的手法を一連の形で開発し、数億人の農業従事者が協力して新たな報奨・支払いの仕組みをつくり、さらには土壌を新たな資産クラスとする可能性も探る。新型コロナウイルス感染症への対応としてデジタル決済サービスを活用する好例が、Mercy Corps AgriFinである。同組織はパートナーのコンソーシアムとともに、この時期の農業従事者のニーズをデータでよりよく把握し、信頼できるデジタルチャネルを大規模に利用して、対応策を強化・充実させようとしている。AgriFinのパートナーは現在、ケニア、エチオピア、ナイジェリアで800万人の小規模農業従事者に支援を届けている。
こうした新たな手法を、活力ある国・地域のイノベーション拠点と結び付けることで、各国のニーズに合わせて適応・調整できるようにし、恩恵が公平に分配され、意図しない結果を招かないようにする。
社会イノベーションは、地域の食料システムに関する行動を促進できる。ケープタウンやナイロビ、英国や米国などでは、パンデミックの間、地域の行動ネットワークが動き出し、支援を必要とする地域住民の大勢に食料を届けた。当初はボランティアに大きく依存していたが、危機が続くなか、社会起業家による取り組みが、地域社会が今後も必要とする支援水準を維持するための、実行可能で拡張性のあるビジネスモデルを生み出している。これは地域の食料バリューチェーンを中心に連帯を築き、地域に根差した食料システムのレジリエンス、地域の知識、ネットワークを促進する。
3. 人々を第一に考える
移行の中心にいるのは人々であり、サプライチェーンの効率性よりも社会的連帯と農村部の経済成長を優先し、食料システムが人々のために機能するという信頼を高めることを原則としなければならない。
世界の5億人の小規模農業従事者と77億人の消費者を、食料システム移行の変革者・リーダーとして巻き込む大きな機会がある。需要主導と包摂の原則を、世界、地域、国の取り組みに組み込む必要がある。
食料システムサミット・ダイアログは、この可能性を示している。国連食料システムサミットに先立ち、できるだけ多くの加盟国で各国対話を開催するという意欲的な計画を進めている。これにより、各国が地域での議論を主催できるよう支援すると同時に、独立した対話や世界規模の対話のための共有オープンソース・プラットフォームを提供する。
世界経済フォーラムは、世界の食料安全保障の確保にどう取り組んでいるのか。
私たちは、システム変革を担うリーダー、個人、組織に、システム思考の能力、スキル、ツールに加え、縦割りを越えて問題を解決し、国や地域のレベルでプラスの影響をもたらすための資源とネットワークを提供する必要がある。世界経済フォーラムを含むパートナーグループが主導するトランスフォーメーション・リーダーズ・ネットワークは、まさにそのための実践者コミュニティを構築している。
人々を第一に考えることは、人々を中心に据えた革新的な資金調達策の機会にもつながる。新型コロナウイルス感染症後の債務スワップの再交渉を検討するなかで、それを持続可能な食料システムの成果と連動させることはできないだろうか。各国が食の未来を共同で形づくれるよう、革新的な資金調達策やリスク軽減の仕組みを構築できないだろうか。
食料システムサミットに向けた事務総長の呼びかけに応え、またこのパンデミックにおいて食料システムの変革が人々の生活で果たす役割を認識するなか、私たちはあらゆるセクターに比類のないリーダーシップを求める。





