グローバル化、賃金の上昇、顧客の需要は、いずれも衣料品製造部門の劇的な変化に影響を及ぼしてきました。
特にバングラデシュでは、自動化によって衣料品労働者が職を失いつつあります。
共有価値の創出に焦点を当てることで、政府と産業界は、サプライチェーンで働く女性をはじめ、誰一人取り残されないようにすることができます。
「自動化された製造」と聞いて、どのような光景が思い浮かぶでしょうか。おそらく、大型の産業用ロボットが部品を溶接したり、ケーブルで吊られたガントリーが頭上で材料を運んだりする様子でしょう。思い浮かべたのは、自動車工場や電子機器工場の光景かもしれません。しかし、衣料品工場で見られる自動化は、こうしたものではありません。
アパレル部門では、自動化は今も主に個々の作業を対象としており、生産工程やそれを支える人々に変化をもたらし始めたばかりです。
自動化の導入がこの成熟段階にある今こそ、労働者との真の共有価値を実現する革新的な戦略を打ち出す絶好の機会です。
衣料品サプライチェーンのごく簡単な歴史
衣料品製造業は地域密着型の事業として始まりました。地域の消費者需要、労働力、原材料を基盤とするこの形態は、うまく機能していました。
工業化によって、手縫いの衣服から、機械を活用して工場で衣服を生産するモデルへと移行しました。しかし、縫製や裁断の機械が作業の多くを担うようになっても、人間の労働力が成功を収めるうえでは、生地を扱う器用さが引き続き重要でした。たとえば、縫い代を折って機械の針の下へ導くことや、布にしわがあるために裁断を誤る前にしわを伸ばすことなどが求められたのです。
グローバル化が進み、国際貿易協定によってグローバル・バリューチェーンの新たな可能性が開かれると、ブランド各社は、西洋の労働者を雇う場合のわずかな費用で服作りを学べる、手先の器用な人々がいる新たな生産地を探しました。港湾、道路、工業専門学校、労働組合などのインフラが整備され、やがてアジアの複数の国が、世界を代表する縫製職人の供給地となりました。
こうした国々で賃金が上昇するなか、サプライチェーンの幹部は望む利益率を確保するため、より低い賃金で労働力を育成できる東アフリカなど、世界の別の地域に目を向けています。
新たなモデル
世界経済フォーラムは、国連開発計画(UNDP)およびA.T. Kearneyと協力し、現在の衣料品製造モデルが、「完璧な嵐」ともいえる経済、社会、環境の力学に直面していることを明らかにしました。これらの力学は生産と世界的な価値分配を再編し、新たな機会を生み出す一方で、特にバングラデシュのような国にリスクももたらしています。
一方では、インディテックスやアリババのように、バリューチェーン設計を世界的に先導する企業が、新興技術を活用して、選択肢の拡大、スピードの向上、優れたサービスを求める消費者の期待に応えようとしています。多くの消費者は年に数回の季節ごとの買い物から離れ、流行に合わせて随時、衣服を購入するようになりました。消費者の嗜好の変化は、アパレルブランドやメーカーに大きな影響を及ぼしています。流行が続いているうちに商品を企画、販売し、届けなければならないという圧力により、商品開発の期間は6か月から6週間へと短縮されています。
他方、環境悪化の根本的な要因への対処が必要だという認識は、政府、市民社会、企業の関係者の間で広がっています。Z世代の消費者は、持続可能性に関する強固な取り組みと、その発信に力を入れるブランドに引きつけられています。大手多国籍ブランドは、気候変動や水不足をリスクモデルに織り込んでいます。また、循環型経済の考え方が広がるなか、製品寿命を終えた素材の回収を考慮した設計や、拡大する衣料品の再販売市場を、戦略により深く組み込むことが求められています。
ファストファッションに転換する企業が増えるにつれ、調達をめぐる議論ではリードタイムが重視されています。もう一つの論点は、持続可能性です。とりわけ、過剰消費を抑え、消費者による循環型経済の促進と倫理的な選択を後押しすることが挙げられます。
メーカーは、この二つの相反する要求の狭間で事業を進めなければなりません。価値を高めるために生産能力を最適化し続け、効率を改善する技術を導入し、社会的影響も含む新たな持続可能性戦略を推進するには、革新を続けるしかありません。
こうした状況において、自動化は成功を後押しする重要な要素です。衣服の製造に伴う手作業の多くは、自動化に置き換わる見通しです。しかし、素材の取り扱いには繊細な手先の器用さが必要なこと、新しい設備の商用化への投資が限られていること、多くの技術の導入が遅れていることから、この部門では生産の全面的な自動化が遅れてきました。しかし、状況は変わりつつあります。
アパレル製造で自動化が加速するなか、労働者を取り残さないために、何ができるでしょうか。
世界経済フォーラムは第四次産業革命にどのように取り組んでいるのでしょうか。
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、企業リーダーを結集し、新興技術とその現実社会への影響について理解を深めます。
連携と実験を可能にすることで、同センターはパートナーが研究から生まれたイノベーションを、共通の世界的課題に対処する実用的な応用へとつなげる支援をしています。
共有価値の創出に向けた道筋
人間と機械の協働を支える自動化技術は、重要な能力として経営層の間で認識されつつあります。衣料品メーカーが、デジタルリテラシーを将来の仕事に不可欠なスキルとして挙げているのも当然です。
アパレル製造におけるデジタルリテラシーの中心となるのは、デジタルモデルの読み取り、変更、評価、トラブルシューティング、そして最上位のスキルとしての作成です。現在、3Dデジタルモデル(CAD)は、より多くのスタイルやサイズを生産し、流行を重視する買い物が広がる時代にますます短縮される製造期間に対応するための基盤となっています。また、持続可能なアパレル設計を大規模に展開するうえでも、デジタルモデルが欠かせません。
現在、バングラデシュのCAD部門で働く人の大半は男性です。工業専門学校を卒業した人や、社内でデジタル関連の職務に昇進した人が多くいます。女性は一般にサプライチェーンの下位層、主に衣服の縫製に集中しており、技術研修を受ける機会も少ない状況です。その結果、女性が取り残されています。しかし、女性はアパレルのサプライチェーンの60.8%を占めるため、業界は研修を受ける機会を確保しなければなりません。
3D.RCは、Target、VF Corporation、Under Armourなどの関係者が参加する連合で、3Dスキルの基準を策定しています。同連合は、3D分野で成功するための基本スキルとして、衣服の構造に関する知識を特定しました。縫製ラインの労働者は衣服の構造を理解しているため、取り残される危険性が最も高い労働者のスキル向上も、予想ほど困難ではないかもしれません。
MITのエリック・ブリンヨルフソンによると、衣料品部門に依存する国々は、労働者を間に合うように移行させるため、従来の再訓練方法を飛び越える必要があります。
バングラデシュは、少なくとも100万~200万人の労働者のスキルを再開発したい意向を示し、その実現に向けて革新的な方法を試そうとしています。同国では、デジタルモデリングをゲーム形式で学ぶ研修など、労働者を訓練するための新たな人間とコンピューターのインタラクション手法を試しています。C&A FoundationとMicrosoftの支援を受け、Shimmy Technologiesは工場の研修プログラムを通じてこの技術を拡大展開する予定です。
前進への道筋
2019年12月、バングラデシュの政策立案者、政府関係者、企業リーダーが一堂に会し、従来とは異なるパートナーと革新的な解決策を探るため、連携した取り組みが必要だとの認識を共有しました。
「自動化によって、既製服部門のセーター製造サブセクターでは、労働者の約30%が職を失いました。彼らが高度な職務に就けるよう、スキル研修を実施すべきです」と、バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会の副会長、ファイサル・サマド氏は述べました。
革新的なスキル向上の構想には期待が持てますが、対象となる人々のスキルを期限までに高めるために必要な取り組み全体から見れば、まだごく一部にすぎません。ブランド、メーカー、機関、技術提供者は、教育、スキル開発、研究開発で協力し、地域の再訓練拠点が、労働者に公正な移行をもたらす速さで進展するよう取り組まなければなりません。
この部門で共有価値を生み出すモデルを見つけるには、まだ遅くありません。しかし、今すぐ行動を起こす必要があります。そうすれば、アパレル部門は再訓練を成功させる業界になれるかもしれません。






