持続可能性と気候変動対策は、経済上不可欠なものとなっています。
世界的な危機が続くなか、気候変動に向けたイノベーションと行動なしに、企業が競争力を維持することはできません。
欧州だけでも循環型経済により、2040年までに汚染を72%削減し、2050年までにCO2排出量を70%削減できます。
続く経済危機は、世界的な脱炭素化の取り組みを停滞させる恐れがあります。事業の維持に苦心しているときに、なぜビジネスリーダーは持続可能性の目標に時間を割くべきなのでしょうか。
私たちは今、多数の有害な事象が同時に起こる状況、いわゆる「ポリクライシス」に直面しています。地政学的情勢は不安定で、欧州はエネルギー危機の影に覆われ、パンデミック後も世界のサプライチェーン問題がメーカーを悩ませ続けています。その後、インフレ率は前例のない水準に達し、プーチン大統領によるウクライナでの戦争がさらなる大規模な不安定化を招いています。考えてみれば、気候変動対策を考えるには最良の時期ではないかもしれません。
それでも、現在の危機は、持続可能性と気候変動対策が企業にとって戦略上不可欠であることを示しています。経営陣の内発的な動機や特定の道徳的目的によるのではなく、持続可能性と気候変動対策が経済上必要になったためです。
ビジネスの観点からは、持続可能なビジネスモデルと再生可能エネルギーへの切り替えがより理にかなっています。再生可能エネルギーに投資する企業ならどこも、特に現在の電力価格の高騰を受け、同じことを語るでしょう。危機を乗り切るため、短期的には政府の支援策に頼る企業もあるかもしれません。しかし中長期的に企業の競争力を保つのは、抜本的な変革と包括的なイノベーションだけです。
世界経済を脱炭素化し、気候変動に対処するには
不確実性が高まるなか、世界経済の脱炭素化に向けた取り組みを進めるうえで役立つ5つの重要なてこを特定しました。
1)賢明なリスク低減
野心的な脱炭素化目標の達成に必要な最先端技術の多くは、すでに技術的に利用可能です。しかし、それらを大規模に展開するには、研究開発への巨額の投資が必要になります。現在の推計によると、クリーン技術とインフラへの投資は、2030年代には年間約3兆米ドルに達する必要があります。
さまざまな支援策なしには、これほどの投資増加は実現しません。「賢明なリスク低減」は、少なくとも技術が商業的に実現可能になるまで、民間投資を公共部門の拠出で支えることで、クリーンテックの旗艦プロジェクトの実現可能性を高めます。補助金や購入保証、投資連携など、企業の投資リスクを軽減し、確かな投資基盤を提供するあらゆる手段が含まれます。
2)バリューチェーンの脱炭素化
企業は中間製品を購入する際、自社の排出量の大部分を実質的に「輸入」しています。同様に、消費者が製品を使うとき、企業は排出量を「輸出」しています。こうしたスコープ3排出量は、CO2総排出量の推定85%を占めます。不動産などの業界では97%に達する一方、公益事業などでは約57%です。それにもかかわらず、ほとんどの企業はスコープ3排出量の正確な水準を開示せず、削減目標も設定していません。
その理由の一つは、スコープ3排出量がとりわけ測定も対処も難しいことです。たとえば、多国籍自動車メーカーは最大6万社のサプライヤーを抱えることがあり、それぞれが独自の報告制度を設けています。したがって、排出量全体の削減に取り組むには、重要なサプライヤーを特定し、協力を得ることが欠かせません。一つの方法は、企業が協働的なアプローチを取り、排出削減への取り組みを約束してもらう代わりに、主要サプライヤーへ脱炭素化のためのツールキットを提供することです。

3)革新的な製品設計と循環型経済
従来の直線型経済は、「採取・生産・廃棄」モデルに基づいています。このモデルは資源と排出を大量に消費し、同時に膨大な廃棄物を生み出します。サステナビリティ専門家による分析では、欧州だけでも循環型経済により2040年までに汚染を72%削減し、2050年までにCO2排出量を70%削減できます。さらに、2050年までに1兆米ドルを節約し、そうでなければ失われる資材を保持できます。
企業は製品の素材構成を見直し、汚染を引き起こす素材を、同様の機能を持ちながら炭素集約度の低い素材に置き換える必要があります。また、製品の寸法を調整したり、再利用やリサイクルを通じてライフサイクルを延ばしたりできます。地域社会での製品共有や「サービスとしての製品」の提供も、ほかの可能性として挙げられます。環境のためだけでなく、循環型経済がもたらす数十億ドル規模の機会を捉えるためにも、大胆な取り組みが求められます。
4)新たな企業文化
気候変動対策には、持続可能性と業績のバランスを取る新たな企業文化が必要です。企業の目的、ビジョン、使命を、日々の活動に向けた明確なロードマップへと落とし込む必要があります。業績評価や意思決定プロセスに持続可能性指標を組み込むことも、大いに役立ちます。あらゆる階層の従業員が、気候変動への取り組みに意欲を持つべきです。ただし、その推進力はトップダウンで生まれるべきです。持続可能性に関する従業員の創造性を後押しし、新しいアイデアを積極的に奨励する文化は、企業に競争上の優位性をもたらし、気候変動対策における可能性を高めます。
5)民間と公共部門の対話
最後に、企業だけですべてを実現することはできないと認識する必要があります。脱炭素化に向けた集団的な行動を促すため、政府や政策立案者との対話に取り組む必要があります。政府は、持続可能性と脱炭素化を推進するため、市場の力を効果的に活用する法的枠組みを整備すべきです。これには、差額決済型炭素契約(CCfD)が含まれます。政府がグリーン技術に伴う追加費用を補助し、こうした技術への投資を促す仕組みです。こうした政策手段には、気候変動に関する目標の意欲がより低い経済圏との不公正な競争から、気候に配慮する企業を守る多国間の取り組みも伴うべきです。
ポリクライシスは、持続可能性が経済的な賢明さに関わる問題であることを示しています。イノベーションと気候変動対策なしに、企業が競争力を維持することはできません。今日、どれほど大きな圧力にさらされていようとも、自ら定めた持続可能な戦略と目標から逸脱してはなりません。脱炭素化への迅速な取り組みは、もはや道徳的な選択ではありません。それは、自社が存続し、経済が繁栄するかどうかを左右します。





