ESGとステークホルダー資本主義への反発に潜む大きな誤謬

ESG and stakeholder capitalism are key business concerns now – and should be rigorously implemented.
ESG and stakeholder capitalism are key business concerns now – and should be rigorously implemented.Image: Getty Images/iStockphoto
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  • ESGとステークホルダー資本主義への批判者は、企業の財務業績にとってその重要性が高まっていることを過小評価している。

  • 人材やデータをはじめとする無形資産の管理は、価値創造においてこれまで以上に重要である。

  • 有言実行するステークホルダー資本主義には、取締役会、戦略、報告における体系的なESG統合が必要だ。

現在、ほとんどの企業の取締役会や機関投資家は、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する特定のリスクと機会が財務上重要となり得る、つまり企業の経済的業績に影響し得ることを認めている。また、企業は株主だけでなく、すべての主要なステークホルダーの長期的利益のために運営されるべきだという、関連するコーポレートガバナンスの原則を支持する人も増えている。しかし、ESG投資とステークホルダー資本主義の動きがなお勢いを保つ一方で、反発にも直面している。

ESGとステークホルダー資本主義:批判者の主張

批判者の一部は、推進者によるこれらの枠組みの一貫性を欠く実施に焦点を当てる。これを偽善や、見せかけの美徳アピールと見る人もいる。CEOや取締役会が、人気のある意見や、特定の問題に関心を寄せる特別利益団体に迎合しているというのだ。さらに暗い動機を見て、進展しているという幻想を作り出し、より強力な政府の措置に対する世論の支持を損なうための巧妙な隠れみのだと主張する人もいる。

批判者の第二のグループは、ESG投資とステークホルダー資本主義の前提そのものに異議を唱える。それらが財務上重要なら、株主価値の最大化を重視する経営者や取締役は定義上すでに考慮しているはずだと主張する人もいる。また、企業内の意思決定を政治化し、物事を複雑に絡ませて資源配分を誤らせるため、こうした概念は本質的に機能しないとする人もいる。さらに、ステークホルダーと株主の間のジレンマやトレードオフは、結局必ず株主に有利な形で解決されるのだから、何の意味があるのかと問う人もいる。

これらの批判にはどれも一片の真実が含まれており、論点や戒めとして効果を発揮するには十分だ。しかし、失格を突きつけるほどの議論にはならない。主な理由は、受託者責任を真剣に受け止める取締役、経営者、投資家にとって、財務上の重要性が避けがたい論理を持つことにある。ESG課題や関連するステークホルダーの利益への配慮を、単なる広報や政治として片付けることはできない。歴史が示してきたうえ、テクノロジー、環境、地政学、社会的な意識における近年の破壊的な変化が改めて浮き彫りにしているように、これらは企業価値の維持と創出において、ますます重要な要因となっているからだ。

価値の維持に関しては、企業によるESGやステークホルダー資本主義関連事項の管理不備に、取締役会や投資家が不意を突かれ、その結果、市場価値が急落した事例が長年にわたり数多くある。メキシコ湾でのBPのディープウォーター・ホライズン爆発事故、フォルクスワーゲンによる排出ガス試験の不正操作、フェイスブックのデータプライバシー侵害、神戸製鋼所による製品安全データの改ざん、オデブレヒト、シーメンス、エアバスの贈賄違反、ウーバー、グーグル、ワインスタイン・カンパニーのセクハラ問題などが挙げられる。

調査バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によると、2005年から2015年にかけて破綻したS&P 500企業17社のうち15社は、破綻の5年前に環境・社会スコアが低かった。また、2013年から2019年にかけて、大手米国企業では重大なESG関連の論争に伴い、時価総額がピークから底値までに5,000億 ドル減少した。

コーポレートガバナンスの遂行におけるデューデリジェンスの甘さに対する適切な対応は、関連リスクを無視したり、合理化して片付けたりすることではない。リスクを理解し、軽減するために、より厳格な取り組みを行うことだ。

ESGとステークホルダー資本主義に関する考慮事項は、企業価値の創出にとっても重要となり得る。たとえば、気候変動、水、生物多様性など、環境管理に関する諸側面は、関連技術、規制、物理的影響が年単位、ときには月単位で変化する世界において、企業の競合他社に対する業績に大きく影響する。無形資産、とりわけ人材の管理についても同様だ。従業員の才能、意欲、多様性、ウェルビーイングを継続的に育み、新技術、プロセスの革新、データを含む知的財産を責任ある形で開発・管理することは、第四次産業革命において、事業価値を創出するうえでますます重要な推進要因となっている。

この新たな時代における無形資産の重要性の高まりに、会計・報告の慣行はまだ十分に適応できていない。時価総額と報告資産の間には大きな乖離があり、その差は推定でおよそ2対1に達する。時価総額の半分が実質的に説明されないままでは、業績の財務的側面だけ、あるいは主にそこだけに注目する経営者や投資家は、自社の長期的な価値創出能力をゆがんだ形で捉えることになる。企業と政府の双方において、人的資本、すなわち従業員のスキル、自律性、創造性への投資は、長らく不足してきた。

したがって、企業の中核戦略や経営慣行に、企業業績の非財務的側面や無形の側面を厳格に組み込むことには、強い経済的根拠がある。こうした要因は、テクノロジーによる破壊的変化が進み、環境上の制約が強まり、社会が脆弱化し、地政学的な不確実性が高まる今日の事業環境において、価値創造とレジリエンスの中核をなす。このため、企業のリーダーは、株主第一主義や企業の社会的責任という概念に表れる、株主とステークホルダーの考慮事項を切り分ける従来の論理を超える必要がある。代わりに、重要なESGリスクと機会をコーポレートガバナンス、戦略、資源配分、報告に体系的に内在化させ、効果的に統合すべきだ。

このような完全なESG統合によって、ステークホルダー資本主義の原則と価値観が実践に移される。企業が持続可能な企業価値を創出するという理念を有言実行することにつながる。この観点から見ると、ESGとステークホルダー資本主義の動きは、根本的には優れたガバナンスに関するものだ。大きな変化の途上にある事業環境において、受託者責任を果たす際のデューデリジェンスを強化することにある。

実施が不十分、あるいは一貫性を欠くことへの批判は正当であり、実際、大半の企業や投資家は、意思決定の中核プロセスにESGの考慮事項を厳格に組み込み始めたばかりだ。しかし、ESG投資とステークホルダー資本主義を「ウォークイズム」をめぐるより広範な文化論争と混同したり、取締役、経営幹部、投資家の動機を疑ったりして政治問題化しようとする人々は、企業価値創造のあり方が変化していることを著しく過小評価している。

21世紀の経済・社会の変革に、企業や投資家のガバナンスがどう適応すべきかという議論では、この新たな時代に企業や経済の業績にとって何が本当に重要なのかを、より深く、論争に偏らずに検討する必要がある。

• ここで述べた見解は著者個人のものであり、刊行予定の著書『持続可能な企業価値の創造:完全なESG統合を通じたステークホルダー資本主義の実践』に基づいている。

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