ビジネスと社会を変えるにあたり、既存企業とデジタル新興企業は互いから学ぶことができる。
中国のテンセントは、1998年に設立されたインターネットサービスポータルだが、デジタル系スタートアップから示唆を得て、ゲームチェンジャーとなるアプリ「WeChat」を生み出した。
あらゆる規模の企業は、大きく構想することを恐れるべきではない。同時に、昔ながらのビジネスの規律も忘れてはならない。
歴史を通じて、私たちは最大の課題を解決するためにテクノロジーに頼ってきた。より多くの人々が知識にアクセスできるようにすること、人々をより密接につなぐこと、旅行をより安全にすること、地球をよりクリーンにすること、さらには命を救うことに至るまで、テクノロジーはそれらすべてを可能にしてきた。そしてこうした大きな変化がもたらす大きな恩恵は、従来、これらのテクノロジーにアクセスできる企業に与えられてきた。
今日では、テクノロジーがより大きく、より速い変化をもたらす可能性が無限に高まっているだけでなく、テクノロジーへの参入障壁も過去最低になっている。
予想どおり、デジタル新興企業も大手の業界リーダーと同じテクノロジーを活用し始めている。彼らは、顧客に徹底的に焦点を当てた、機転の利く新しいビジネスモデルを通じてテクノロジーを応用しており、それが大衆の想像力を捉えてきた。しかしながら、新世代のデジタルネイティブが、既存の老舗企業を揺るがすうえで何らかの独自の能力を備えているという、高まりつつある認識は誤りである。確かに、Amazon、Google、Facebookのような巨大テック企業は、依然として目覚ましい成長を続けている。しかし、2011年以降に株式を公開したユニコーン企業の40%超では、企業価値は横ばいのままか、さらには下落している。
では、企業、とりわけ既存企業が、デジタル技術を独創的かつ持続可能な形で活用し、ビジネスと社会に具体的な違いをもたらすための秘訣とは何だろうか。
その答えは、「マインドセット」「スケール」「規律」という3つの重要な要素にある。
マインドセット:創造的破壊を受け入れる
ほとんどの企業は、危機的状況への対応には非常に長けており、迅速に資源をかき集め、即座に断固とした対応を取ることができる。しかし、同じ企業も、新興の破壊的変化のように、必ずしも自ら存在を知らせることのない、不確実なリスクがゆっくりと静かに台頭してくることには対処に苦慮している。これには、企業が自社の製品およびサービスのポートフォリオを見直し、創造的破壊を排除せず、根深い変化を受け入れるマインドセットを持つことが求められる。優れた例の一つは、マイクロソフトがWindowsを中核製品とする考え方を改めたことである。この転換により、同社はクラウドコンピューティングサービスであるAzureの構築に踏み出し、現在では年間で340億ドル超の収益を占めている。
時として、この道筋は、新興のスタートアップに取って代わられるよりも、企業が自ら既存の収益源を破壊し、新たな収益源に道を譲るという結果をもたらすことがある。1998年に設立され、中国で最大かつ最も利用されているインターネットサービスポータルへと成長したテンセントは、まさにこの考え方を体現している。同社はデスクトップ向けのQQサービスで、オンラインインスタントメッセージングの分野を支配していた。スマートフォンの台頭に伴い、同社の経営陣は、既存のQQサービスを共食いすることになるとよく理解したうえで、別のソーシャルメディアプラットフォームを構想し、実現させるための新チームを直ちに編成した。その大胆な決断から、WeChatが誕生したのである。
スケール:大きく考え、数十億人を視野に入れる
大きく考えるにも、小さく考えるにも同じだけの労力がかかるのだから、大きく考えない手はない。加えて、企業が本当に人口規模で大きな影響を与え、人々の生活を実際に変えたいと望むのであれば、スケールで考える以外に選択肢はない。これは慈善行為ではなく戦略的な行為である。なぜなら、総取りの市場は、規模の大きいソリューションに対して規模に応じた収穫逓増で反応するからである。そして、テクノロジーはここで頼れる味方となりうる。
私自身の経験も、この考えを裏付けている。インドのユニークなデジタルIDシステムであるAadhaarの構築から、インドの国家決済公社(NPCI)によるイニシアチブである統一決済インターフェース(UPI)の立ち上げの基盤作り、さらに最近では、インド準備銀行のイニシアチブとして、企業がアグリゲーターとして機能し、消費者にデータエンパワーメントを提供することを可能にするアカウント・アグリゲーターの開始に至るまで、その経験は一貫している。これらの取り組みは、国内で10億人を超える人々に影響を与えており、私はその影響の大きさを目の当たりにしてきた。2010年のプログラム開始以来、12億3,000万件を超えるAadhaarのIDが発行され、6億4,700万件のAadhaarと連携した銀行口座が存在する。1億人を超える人々が、NPCIが設計・展開したAadhaar対応の決済システムを通じて現金を引き出している。このシステムは、携帯電話を所有していない人々でも、Aadhaarのe-KYCを使って銀行口座を開設し、指紋認証だけで村で現金を引き出せるように設計されたものである。UPIは2019年11月の1か月間に12億件の取引を処理した。
規律:昔ながらのビジネス構築
長期にわたって繁栄してきた企業を見てみると、同じ基本原則が、これらの組織が存続し、発展することを可能にしていることがわかる。最初の成功の熱狂、市場での最初の躍進、そしてテクノロジーの最初の推進力や創業世代のリーダーシップを超えて、これらの企業は、中核的価値観、強固なガバナンス、利益、そして持続的なキャッシュフローに注力することで、創業期の飢餓感を維持している。この昔ながらのビジネスの規律こそが、彼らの長寿の秘訣である。
この三つの柱からなるアプローチを取り入れることで、私たちは、テクノロジーを活用して真に社会を前進させるための粘り強さと柔軟性を兼ね備えた企業の世代に、新たな活力を与えることができる。





