日々の暮らしが一変し、不変と思われていたものが崩れ去るとき、デジタル技術はかつてないほど重要になります。
テクノロジーは、避難を余儀なくされた人々が生活と生計を再建するうえで不可欠です。教育を受け、ウェブ上の知識にアクセスできるようにするからです。
しかし、テクノロジーが支配するこの世界で、難民や国内避難民(IDP)は大きな障壁や脅威に直面しており、テック・イノベーターはその克服に取り組まなければなりません。
2007年1月、アップルのCEOスティーブ・ジョブズはステージに登場し、iPhoneと名付けた新しいテクノロジーを発表しました。それから15年後、世界のスマートフォン契約数は65億件を超えると推定されています。スマートフォンのない生活を想像するのは難しいでしょう。
同じ2007年1月、戦争、迫害、暴力、人権侵害によって避難を余儀なくされた人々は、およそ2,340万人でした。今日、故郷を追われた人々は1億人を超えています。過去最多のこの数は、増え続けています。
一見無関係なこの2つの統計を並べたのには理由があります。多くの人にとって、世界はかつてないほどつながっているように見えます。常時使える電話やコンピューター、メッセージアプリ、オンライン会議、ソーシャルメディア、絶え間なく届くメールの嵐、仮想現実の登場……。しかし、ますます多くの人々にとって、世界はより分断されたものになっています。故郷を離れることを強いられても、つながりが生まれるわけではありません。家族や友人、学校、仕事や同僚、クラブや地域社会、余暇や商売、礼拝の場とのつながりが断たれるのです。
しかし、日々の暮らしが一変し、不変と思われていたものが崩れ去るとき、デジタル技術はかつてないほど重要になります。
生活再建を支えるテクノロジー
難民や国内避難民(IDP)には、友人や大切な人と連絡を取り、ニュースや娯楽にアクセスし、仕事を見つけ、情報や助言を求め、私が率いる国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの組織に連絡するために、テクノロジーが必要です。自分の声を届ける手段がほとんどないとき、テクノロジーは発言の機会を与えてくれます。
テクノロジーは、避難を余儀なくされた人々が生活と生計を再建するうえでも不可欠です。教材や教師本人にアクセスできるようにし、事業のマーケティングから蛇口の水漏れ修理まで、あらゆる分野の豊富なウェブ情報を提供することで、教育や職業訓練を受けられるようにします。即時翻訳、マイクロファイナンスや銀行サービス、医療支援、その他の助言におけるイノベーションは、人々の生活を一変させるだけでなく、命を救っています。
UNHCRでは、メッセージアプリやチャットボットの活用を拡大するとともに、情報、データ、コミュニケーションのための安全で信頼できる独自のオンライン空間を開発しています。難民登録の一環として生体認証を活用し、身分証明書の発行、ATMを通じた現金給付、さまざまな法的保護機能の改善を行っています。今後、新たな、そして絶えず変化する人道上の課題に備え、ブロックチェーンや人工知能などの技術を業務にさらに取り入れる方法を探っています。
テクノロジーに依存する世界の障壁と脅威
しかし、テクノロジーに依存し、それが支配するこの世界で、難民や国内避難民は大きな障壁や脅威に直面しています。
第一に、多くの人々はそもそもオンラインにつながっていません。ネットに接続できなければ、取り残されるおそれがあります。難民の4分の3は開発途上国または後発開発途上国におり、数百万人がデジタルインフラの整備が不十分、あるいは存在しない遠隔地の農村部で暮らしています。難民や国内避難民には、適切な接続環境(それを動かす電力も含む)と、手頃な価格の機器やサービスを備えた、デジタル世界への平等で実質的なアクセスが必要です。政府、企業、国際金融機関はいずれも、この課題に取り組むことができます。
第二に、UNHCRをはじめとする国連機関やNGOには、外部の専門知識が必要です。避難を余儀なくされた人々のニーズをよりよく理解するためにオンラインの動向を把握することや、独自のデジタルツールを開発することも含まれます。民間企業は、避難危機の際に緊急接続環境を提供してきたほか、難民に自社サービスを無償で提供してきました。世界の避難民人口が増え続けるなか、こうした支援を拡大することが欠かせません。
第三に、迫害や暴力から逃れてきた人々が直面する、さまざまなオンライン上の危害や危険に対処しなければなりません。人身取引ネットワークがオンライン上で自由に活動するのを阻止することから、ヘイトスピーチ、誤情報、偽情報を防止し削除することまで、課題は多岐にわたります。ソーシャルメディア・プラットフォームの、怒りをあおるアルゴリズムが人種差別や外国人嫌悪を拡散しています。これらの問題は広く記録され、認識されているにもかかわらず、対処に向けた取り組みはあまりにも不十分です。
第四に、明日のデジタル世界は難民を歓迎し、排除したり危険にさらしたりしてはなりません。国境管理にデジタル技術を用いる際には、安全な場所にたどり着くための新たな障壁を作るのではなく、庇護へのアクセスを促進すべきです。庇護手続きや家族再統合などを迅速化できるなら、あるいは人工知能が紛争、災害、経済的ショックに起因する人口移動の予測と対応に役立つなら、それに越したことはありません。脆弱な人々が安全を得て基本的権利を行使するのを妨げる結果となれば、失敗です。
テクノロジーへの大きな期待
難民や国内避難民自身もテクノロジーに大きな期待を寄せています。単なる利便性ではなく、命綱と捉えているのです。調査で挙がった要望は多岐にわたり、登録、法的地位や庇護申請の迅速な処理、支援を受けられる場所の確認、個人データの更新、身分証明書の発行、一般的な問い合わせや苦情などがあります。その実現には、デジタル環境が安全で、効果的かつ手頃な価格である必要があります。
最後に、難民も明日の世界を形づくる役割を担えます。コーダー、プログラマー、ウェブ開発者、ゲーマー、データサイエンティスト、管理者などになることができ、実際に多くの人がそうした職に就いています。2030年代の仕事の大半はまだ生まれていないというのが本当なら、生活の再建に取り組む避難民が未来に備えられるようにしましょう。その未来は遠くありません。訓練、機器、接続環境、デジタル職場への公正なアクセスがなければ、避難民コミュニティも受け入れ地域の人々も取り残され、グローバル化がもたらした恩恵とは何だったのかと問い続けることになります。
デジタル・イノベーターは、21世紀にふさわしい人道支援対応への刷新を後押ししなければなりません。1年足らず後に開催される2023年グローバル難民フォーラムは、イノベーターがアイデアや誓約、ひらめきを持ち寄り、私たちのデジタル戦略の目標実現を支援する絶好の機会となります。力を合わせて、人道支援を21世紀にふさわしい形へと刷新しましょう。
