産業メタバースがどのような形で実現するとしても、それを可能にする基盤技術の大半はすでに存在しています。
意思決定者は、産業メタバースがもたらす新たな機会と課題に、自組織がどう対応するかを検討しなければなりません。
世界的な議論を始めるため、産業メタバースがどのような姿になり得るのか、またどのような落とし穴を避ける必要があるのか、その構想を描きます。
産業メタバースという概念は、過去12か月間に大きな関心を集めてきました。簡潔に言えば、これまでにない水準の接続性とデータ分析を可能にする、没入感と相互接続性の高い仮想・物理の融合世界を指します。具体的な構想やその実現方法については、今なお幅広く議論され、不確かな点も多くあります。一方、産業メタバースのさまざまな構想を支える技術の大半がすでに存在することは明らかです。現在利用されている主要技術には、デジタルツイン、モノのインターネット(IoT)、人工知能、クラウドおよびエッジコンピューティング、ブロックチェーン、XR(拡張現実)があります。また、低遅延のデータ通信を実現する5Gネットワークやロボットシステムなど、それを支える技術インフラも稼働しています。
産業メタバースの出現に対し、意思決定者がどう対応すべきかは、まだ明確ではありません。しかし、すべての企業が産業メタバースについて判断を迫られることになります。こうした判断を支援し、意思決定者による世界的な議論を始めるため、産業メタバースで企業を待ち受ける可能性のある未来を描き、回避すべき落とし穴をいくつか示します。
産業メタバースの構想
働き方: 産業メタバースでは、デジタル領域の仕事の機会が豊富に生まれます。物理世界とデジタル世界が密接に結び付くことで、分散型の働き方に新たな可能性が広がり、働く人々は特定の場所に縛られにくくなります。人と機械の新たな相互作用も広がります。工具やロボット、機械は、自律的に、あるいは熟練した操作者が遠隔から操作します。人の作業とその実施環境はセンサーで捉えられ、完全にデジタル化されるため、人の投入要件を詳細に分析し、最適化できます。これにより、危険で不健康な環境での作業が減る一方、新たな雇用や革新的な分業、さまざまな技能を持つ人々の参加拡大が実現します。単純な指標を満たすため、あるいは人々やその貢献を細かく管理するために、データを不適切に使うことは避けなければなりません。
データとセキュリティ: 組織内ではデータをシームレスに共有でき、サプライヤーや顧客とは選択的に共有できます。セキュリティやプライバシー、データの偏り、データに基づく差別といった問題が解決される可能性があります。これにより、データのメタ分析や幅広いノウハウの集約、自動化されたAIソリューションが可能になります。さらに、異なるデータ領域の融合も促されます。対処すべき主なリスクには、相互運用性の欠如や、サプライヤー、顧客、従業員のデータに関する知的財産の保護があります。
競争: 産業メタバースは、幅広い補完的サービスを可能にします。その結果、専門事業者による豊かなエコシステムが形成され、多くの新しい革新的なサービスが産業メタバースに接続され、そこで利用されるようになります。避けるべきリスクは、少数のプレイヤーが市場を支配する高度に集中した状況と、産業メタバースを利用できる企業とできない企業との間に新たな技術格差が生じることです。
世界経済フォーラムはメタバースに関して何を行っているのか?
テクノロジーとオペレーション: デジタル化が高度に進めば、ソリューションを導入しやすくなり、工場やサプライチェーンの全面的なデジタルツイン化が加速します。また、輸送、都市計画、エネルギー管理など、関連インフラの運用や管理にも広がります。企業間のコミュニケーションは、シームレスなデータ共有と、企業内外での連携強化を基盤とします。これにより、異なる組織の工場同士がつながり、製造資源をより持続可能かつ強靱な形で活用し、需要の変化に対応できるようになります。サプライチェーンの混乱など、発生確率は低いものの影響の大きい事象が起きた際、人間のように適応できない可能性のある技術に過度に依存することは避けなければなりません。
顧客: 透明性やカスタマイズを顧客向けに提供するユースケースは、顧客満足度を高め、フィードバックを促します。広く利用できる、非常にリアルな製品のビジュアル化は、購入体験を向上させ、廃棄や返品を減らします。顧客データの不適切な取り扱いや、顧客を強制的に囲い込むことは避けるべきです。
私たちが描く構想は、より良い未来を目指す価値があるからこそ、明確に楽観的なものです。産業メタバースで明るい未来を実現するには、企業が自らの文化や戦略に合った判断を下す必要があります。そのため、産業界、政府、社会の意思決定者には新たな発想が求められます。産業メタバースがどのように発展し、統治されるかを積極的に形づくり、産業と社会全体の利益となるよう進展させていく必要があります。
世界経済フォーラムの産業メタバース、拡張労働力イニシアチブおよびメタバースの定義と構築イニシアチブについて、詳しくはこちらをご覧ください。
本ブログ記事の調査と執筆にあたり支援してくださったTim Jamboula、Connie Kuang、Martin Müller、Francesca Zanollaの各氏に感謝します。





