ChatGPTのような人工知能(AI)ツールは広く普及しましたが、製品設計プロセスにおけるAIの活用はあまり知られていません。
エンジニアリングと科学計算では、AIを活用して、あらゆる業界におけるイノベーションの新時代を切り開いています。
コンピューターシミュレーションでは、さまざまな製品設計の性能を理解するために、AIの活用が広がっています。
人工知能(AI)がデジタルサービスに与える影響は、急速に明らかになっています。たとえば、ChatGPT、Bard、そしてGitHub Copilotといったツールは、私たちの働き方や暮らしを変えつつあります。
あまり知られていないのは、研究、エンジニアリング、そして物理的な製品設計の本質をAIが一変させる可能性です。
エンジニアリングと科学計算は、今やイノベーションの基盤です。こうした手法では、現実世界を再現する詳細なシミュレーションモデルを実行するため、スーパーコンピューターのクラスター(ハイパフォーマンス・コンピューティング、略してHPCとも呼ばれます)が提供する膨大な計算能力を必要とすることがよくあります。
あらゆる業界で、研究開発(R&D)チームはデジタルシミュレーションを使い、物理世界を効果的に探究しています。用途は多岐にわたり、命を救う医薬品の発明、航空機設計の改善、持続可能なエネルギーの開拓から、自動運転車の開発、製造工程の改良まで、さまざまな可能性があります。
現在、AIにはエンジニアリングと科学計算を大幅に強化し、組織のイノベーションのあり方を変革する可能性があります。
R&Dの効率化
現在、エンジニアリングと科学計算に使われているコンピューターシミュレーションは、AIによる支援の恩恵をますます受けるようになっており(場合によってはAIに置き換えられ)、コストを大幅に削減するとともに、エンジニアが最適な答えをより速く見つけるのに役立っています。
シミュレーションの実行には多額の費用がかかることがあり、膨大なデータセットの処理や非常に複雑な計算の実行にスーパーコンピューターが必要となる場合も少なくありません。しかし、物理法則の働きを学習する機械学習(ML)モデルを構築できれば、毎回シミュレーションを実行する必要はありません。ML推論モデルがデータから答えを外挿できるためです。
これにより、特定の設計がどのような性能を発揮するかを、より速く、より低コストで把握できます。長期的には、機械学習、物理法則を組み込んだニューラルネットワーク、その他のAIベースのツールが、R&D開発における生産性を最大化するための標準ツールとして、すべてのエンジニアや科学者に使われるようになるでしょう。
AI支援エンジニアリングの時代
精度の高いAI物理モデルを作成する能力を身につけた組織は、確かな競争優位性を得るでしょう。こうした能力により、さまざまな製品設計が実際にどのような性能を発揮するかについて、物理学に基づく基本的な理解を確立できます。これは、組織が研究や製品開発で得た知識をどのように保持するかに大きな影響を与えます。
AI物理モデルは、物理的な物体の挙動に関するベストプラクティスの知識を取り込むことができます。こうした情報は従来、科学者、エンジニア、デザイナーなど、専門家の頭の中に蓄積されていました。
たとえば航空機エンジニアは、翼の形状に関する最適な設計手法について知識を蓄積しており、それを基に、デジタルシミュレーションで検討する設計案の種類を選んでいます。
世界経済フォーラムは、人工知能の倫理的な開発をどのように確保しているのでしょうか。
しかし、こうした情報を今ではAIに取り込むことができ、AIは設計案を絞り込んで提示できます。エンジニアはその案をさらにデジタルシミュレーションで検討できます。
特に重要なのは、企業が航空機の翼に関する知識をAIツールに学習させ、翼の設計に関するベストプラクティスのMLモデルを作成できれば、エンジニアが退職しても、その専門知識を保持できることです。
また、これは組織にはるかに高い俊敏性をもたらします。企業が強風下でも安定性の高い新型機を開発したい場合、MLアプリケーションによって翼の形状の最適な選択肢をすばやく導き出し、組織が新たな市場に参入するための試作機を迅速に開発できるようになります。
AIが物理的な世界の姿を形づくる
AIは物理世界の理解を助けるため、建物や航空機から家具、自動車に至るまで、あらゆる製品に新たな形状が生まれると考えられます。こうしたイノベーションを推進するのが、AIのもう一つの形態であるジェネレーティブデザインです。
ジェネレーティブデザインは、文章作成における生成AIとよく似た仕組みです。設計したいものについて基本的な指針(プロンプト)を与えると、ジェネレーティブデザインツールは多くの選択肢を出力します。その中には、自分だけでは思いつかなかったものも含まれます。
ソフトウェアに性能目標に基づいて設計を決めさせると、魅力的な可能性が生まれることがあります。たとえばジェネレーティブデザインは、非常に生物的な外観を持つ試作品を生み出しています。

科学とエンジニアリングにおけるAIへの移行を乗り越える
AIを取り入れる組織は、エンジニアリングと科学的発見を加速させると同時に、従来の手法では計算上実現が困難だった革新的なソリューションを開発できるでしょう。
AIには大きな可能性がありますが、あらゆる業界の組織は、社会への恩恵を最大化し、不必要なリスクを避けながら安全に移行を進められるよう、エンジニアリングと研究のベストプラクティスを確立する必要があります。
何よりも、AIの性能は学習に使う情報の質に左右されます。AIツールを適切な方法で賢くするために、組織は今後も必要な情報を提供する多くの作業を行わなければなりません。
また、AIに関する法的問題は、依然としてほとんど明確になっていません。組織は、正確性を確保するためにAIの出力を慎重に確認するとともに、倫理上の懸念がないかにも注意を払う必要があります。
AIの活用によって知的財産や機密情報が意図せず漏えいしないようにするため、セキュリティも重要な検討事項です。
新しい技術が登場したばかりの今、組織によるAIの利用に適切なガードレールを設けることは不可欠です。しかし、慎重な対策を講じれば、AIは研究開発に新たな可能性を安全に切り開き、組織の迅速化と俊敏性の向上、そして未来を切り開くより優れた方法の発見を後押しできます。
AI物理学の導入を支援することで、より優れた製品をより速く生み出し、R&Dのイノベーションプロセスを加速させ、知識の限界を探究して、新たなエンジニアリングの飛躍と科学的発見を実現できます。





