製造業は、持続可能性の必要性、技能不足、地政学的不安定など、多くの課題に直面している。
人工知能(AI)は、生産性と効率の向上、柔軟性の強化、労働力の能力拡張によって貢献できる。
新たなグローバルイニシアチブは、こうした機会への認識を高めることを目指している。
産業オペレーションを取り巻く環境は変化しており、製造企業は大きな圧力にさらされている。課題には、経済的圧力の高まり、持続可能性の必須課題、資源価格の変動、サプライチェーンの混乱に加え、能力面の課題の増加や人材不足が含まれる。
生産効率の継続的な向上は、グローバルに事業を展開する企業の競争力を確保するための重要な前提条件の一つと、常に考えられてきた。この要件は変わっていない。しかし、生産性を高める従来の手段は、効果が薄れている。新たな課題も現れており、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや地政学的不確実性の高まりがその例だ。これにより、サプライチェーン全体のレジリエンスと柔軟性の重要性が急速に増している。多くの産業企業は技能不足にも直面しており、2025年までに組織の90%に影響が及び、生産能力を阻害すると見込まれる。
同時に、気候変動と、パリ協定の1.5度目標達成に向けた取り組みにより、持続可能性と排出削減を重視する必要性が高まっている。これは製造企業の組織目標に大きな影響を及ぼす。
AIが製造業で果たす役割
データと先進製造技術の役割が拡大することで、業界が直面する課題に取り組む新たな機会が生まれている。しかし、多くの企業が過去10年間に実証実験を行ったものの、大半は期待された価値を実現する規模にまでソリューションを拡大できていない。たとえば、生産プロセスの可視化や、過去のデータに基づく将来の事象の予測にデータを活用してきた一方、AIを基盤とする自律制御システムに投資した企業はほとんどない。こうしたシステムには、はるかに大きな価値を引き出す可能性がある。
産業オペレーションにおいて、AIはシステムや機械がスマートにタスクを実行できるようにするために使われる。AIが役立つ主な方法は4つある。
1. 生産性の最適化
企業はAIを活用し、処理量と歩留まりを高め、加工コストを削減できる。活用例として、設備の効率と有効性を高める予知保全、機械やプロセスのパラメーターの自己最適化、製品品質向上のための自動検査を行うマシンビジョン、工場内の自律搬送を担う自律移動ロボット(AMR)が挙げられる。これらの活用によって、収益の大幅な増加や加工コストの二桁削減が期待できる。
2. 持続可能性の向上
AIは排出量を削減し、オペレーションの持続可能性を高めるのにも役立つ。たとえば、AIを活用したアプリケーションで、将来(例:次のシフト)のエネルギー消費量と排出量を予測したり、過剰なエネルギー消費や排出の原因となっている設備を分析・特定したりできる。また、AIは、たとえば生産工程内の最適なプロセスパラメーターや生産順序を決定することで、排出量を削減できる。
世界経済フォーラムは、人工知能の倫理的な開発をどのように確保しているのか。
3. 柔軟性の向上
サプライチェーンの混乱が続くなか、AIはオペレーションの機動性を高め、外部ショックの影響を軽減できる。たとえば、高度な需要予測、ネットワーク最適化の改善、高度な生産計画・スケジューリングを実現できる。
4. 労働力の能力拡張
最後に、AIは製造業が抱える能力面の課題や人材不足への対応にも役立つ。一方では、単調で反復的な作業を自動化し、労働力がより付加価値の高い活動に集中できるようにする。もう一方では、日々の業務で従業員の能力を拡張し、支援できる。たとえば、意思決定プロセスや人間とロボットの協働において活用できる。
産業分野におけるAIの応用可能性は、まだ十分に把握されていない。現在、多くの製造業者にとって最大の障壁は、AIの効果を十分に享受できるよう、効果的なAIのパイロットアプリケーションを拡大することだ。拡大が難しい原因はさまざまで、全体を統括する戦略の欠如、AIに関する能力やスキルの不足、データの利用可能性・品質・活用の制約、そして何より、AIを大規模に導入する方法を管理するための一般的なガイドラインの欠如が含まれる。
AIの導入は試行錯誤で進めるべきではなく、体系的なアプローチに従うべきだ
ジェイ・リー、オハイオ州卓越研究者、シンシナティ大学産業AIセンター創設所長
AI活用の道のりを歩む製造企業を支援
こうした課題に対処し、AIの可能性を最大限に引き出す道のりを製造業者に支援するため、世界経済フォーラムはボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と連携し、最近、新たなグローバルイニシアチブ「AIを活用した産業オペレーション」を立ち上げた。
その目的は、AIアプリケーションがもたらす機会への認識を高めること、最も有望なAIアプリケーションと導入に必要な前提条件を示すこと、産業オペレーションにAIを導入・拡大する方法をまとめた教育用ガイドブックを作成すること、そして、第四次産業革命センターの関連機関ネットワーク(例としてトルコや米国にある機関)でパイロット事業を育成し、AIの効果を実証することだ。
世界経済フォーラムは、あらゆる業界の製造企業に対し、このイニシアチブを中心とするグローバルコミュニティへの参加を呼びかけている。これにより、AIを活用した産業オペレーションへの変革を加速できる。





