植物性食品をより多く取り入れた食生活への移行により、富裕国は排出量の削減と炭素吸収に使える土地の拡大という「二重の気候メリット」を得られる可能性があると、新たな研究が示している。
ある国の食生活の変化が、世界各地の食料関連の土地利用と炭素のフットプリントにどのような影響を及ぼすかを、この研究は明らかにした。
動物性食品から離れれば、欧州連合全体よりも広い土地を解放できる可能性がある。
動物性食品は、炭素と土地のフットプリントがより大きく、植物性食品よりも多くの炭素と土地を必要とする。また、主に高所得国で消費されている。『Nature Food』に掲載されたこの研究は、54の高所得国が植物性食品をより多く取り入れた食生活に移行した場合、世界の食料システムがどう変化するかを調べている。Nature Foodに掲載されたこの研究は、54の高所得国が植物性食品をより多く取り入れた食生活に移行した場合、世界の食料システムがどう変化するかを調べている。
食生活を変えることで、高所得国は農業由来の排出量をほぼ3分の2削減できると、著者らは明らかにした。また、動物性食品から離れれば、欧州連合全体よりも広い土地を解放できる可能性があるという。
この土地をすべて自然の状態に戻せば、炭素を約1,000億トン吸収できる。これは世界の農業由来排出量の14年分に相当すると、著者らは指摘する。また、この水準の炭素吸収は、「公平な分担の原則に基づき、気温上昇を1.5Cに抑えるために高所得国が負うCO2除去義務を、果たせる可能性がある」としている。
米国、フランス、オーストラリア、ドイツでは、食肉と乳製品の生産・消費が盛んなため、炭素面での総利益のおよそ半分がこの4カ国に集まると、研究は指摘している。
「二重の気候メリット」
約80億人に上る世界人口を養うのは容易なことではない。世界の食料システムは、人間活動による温室効果ガス排出量全体の約3分の1を占め、地球上の居住可能な土地の半分が食料生産に使われている。
しかし、すべてのカロリーが地球に同じ影響を与えるわけではない。平均すると、動物性食品は植物性食品よりも10~50倍多くの排出をもたらす。一方、畜産は、世界のカロリー供給量の20%未満しか生産していないにもかかわらず、世界の農地のほぼ80%を占めている。
現在、高所得国の人々は、食生活の選択を通じて温室効果ガス排出量を削減する最大の可能性を持っている。食生活が最も肉中心であることが多いためだ。動物由来の製品は、高所得国では食料システム由来排出量の70%を占める一方、低・中所得国では22%にとどまる。
(2019年、Carbon Briefは食料システムをテーマにした1週間の特集記事を掲載し、食肉と乳製品の気候への影響や、食生活の変化が気候に及ぼすと予想される影響について、専門家の見解を紹介した。)
この研究は、54の高所得国がEAT-Lancetプラネタリー・ヘルス・ダイエットを採用した場合、食料生産の炭素フットプリントがどう変わるかを検討している。これは主に植物性食品を中心とする食事法で、「人間の健康と環境の持続可能性にとって最適な食事を構成する、さまざまな食品群の摂取量の幅を指針として示す柔軟なもの」だ。
ポール・ベーレンス博士は、論文の著者の一人で、ライデン大学に所属する。同博士はCarbon Briefに対し、この食事法は各国の「地域の生産状況や食文化」を考慮して国ごとに異なると語った。
この研究では、EAT-Lancet食事法を採用した場合の即時的な排出削減を調べるため、2010年の国連食糧農業機関(FAO)の統計データベースを用い、国レベルで食料・農業バイオマス産業連関データセット(FABIO)と結び付けている。
著者らは、食生活の変化によってどれだけの土地を余らせられるかも算出している。世界の作物地図と牧草地地図を土壌炭素・植生地図と組み合わせ、余剰となる土地を在来の草原と森林が混在する自然状態に戻した場合、土壌と植生が追加でどれだけの炭素を吸収できるかを定量化した。
54の高所得国での変化を調べるだけでなく、この研究は国境を越えた食料貿易も追跡し、ある国の食生活の変化が世界各地の食料関連の土地利用と炭素のフットプリントにどう影響するかを確認している。
分析対象は、FABIOで利用可能な54の高所得国である。例えば、チリは高所得国とみなされるが、インドはそうではない。
以下の地図は、54の高所得国がEAT-Lancetプラネタリー・ヘルス・ダイエットに移行した場合に、世界の農業由来温室効果ガス排出量がどれだけ減少するかを示す。濃い赤色は削減幅が最も大きいことを表す。低所得国での変化は、食料貿易への波及効果による。
この研究によると、高所得国は植物性食品をより多く取り入れた食生活に移行することで、農業由来排出量を62%削減できる。ソニア・フェルミューレン博士は、WWFのグローバル食料分野主任科学者で、この研究には参加していない。同博士は、この数字の意味を説明するため、次のように述べた。
「この数字を分かりやすく言えば、2040年までに世界の自動車とバンを100%ゼロエミッション化するというCOP26宣言に、すべての国が署名して実行するのとほぼ同じくらいの好影響です。」
土地の解放
動物性食品から離れれば、欧州連合全体よりも広い土地を解放できる可能性があると、この研究は明らかにした。その土地を自然の状態に戻せば、今世紀末までに約1,000億トンの炭素を吸収できる。これは2010年を基準とする世界の農業由来排出量の14年分に相当すると、著者らは述べている。
以下の地図は、54の高所得国がEAT-Lancetプラネタリー・ヘルス・ダイエットに移行した場合に、余剰地から期待される炭素吸収量を示す。濃い緑色は潜在量が最も大きいことを表す。低所得国での変化は、食料貿易への波及効果による。
排出削減と炭素吸収量の増加による利益の約半分は、米国、フランス、オーストラリア、ドイツの4カ国で合計して見込まれると、研究は述べている。
著者らはさらに、過去の研究によれば、産業革命前と比べた気温上昇を1.5Cに抑えるには、この分析対象である54の高所得国が今世紀末までに、累積で850億~5,310億トンのCO2を除去する必要があると指摘する。この幅は、必要なCO2除去量と各国に割り当てるべき量の不確実性を反映している。
これらの数値を踏まえ、この研究は、1,000億トンの炭素吸収によって「公平な分担の原則に基づき、気温上昇を1.5Cに抑えるために高所得国が負うCO2除去義務を果たせる可能性がある」と結論付けている。
ブラジル、インド、ボツワナなど多くの低・中所得国は、高所得国で食肉の消費が減れば、高所得国への食料輸出が減ると、この研究は明らかにした。研究者らによると、こうした国々では自国の食生活に変化がなくても、農業由来排出量が減り、炭素吸収のために土地を解放できるという。(この研究は、貿易縮小による経済的影響を評価していない。)
高所得国の食生活の変化による炭素吸収可能量の約3分の2は国内にあると、この研究は明らかにした。一方、ほぼ4分の1は他の高所得国にあり、約8分の1は低・中所得国にある。
ナインケ・スフルプ博士は、土地利用、ライフスタイル、生態系の変化を専門とする准教授として、アムステルダム自由大学に所属し、この研究には参加していない。同博士はCarbon Briefに対し、既存の研究は「世界全体が特定の食生活の変化を採用するという前提に立つ傾向がある」と述べた上で、「この研究が高所得国の食生活の変化に焦点を当てていることは、緩和の可能性という観点からも、気候正義の観点からも重要な視点を加えている」と語った。
炭素の吸収
この研究は、食生活の変化で解放された土地を、「自然を活用した気候変動対策」の一つである受動的再生によって自然の状態に戻すことを想定している。これは、土地を以前の状態に戻るままにする方法だ。ベーレンス氏はプレスリリースで、この手法には「水質、生物多様性、大気汚染、自然に触れる機会など、ほんの一例を挙げるだけでも」さまざまな相乗的便益があると説明している。
この研究は、受動的再生による炭素吸収の可能性を、地上部バイオマス炭素(AGBC)、地下部バイオマス炭素(BGBC)、土壌有機炭素(SOC)の蓄積量という3つの区分に分けている。それぞれ、地上の植物体、土壌下の植物体、土壌そのものに蓄えられる炭素を指す。
以下の図は、さまざまな食品について、炭素吸収の総量(左)と排出削減量(右)の可能性を示す。左右の赤い線は、図を比較しやすくするための固定値を示している。炭素吸収量は21世紀全体の合計、排出削減量は1年当たりで示されている点に注意されたい。
この図は、動物由来の製品、なかでも牛肉の炭素と土地のフットプリントが大きいことを示している。特に米国とオーストラリアでは、牛肉の国内生産と消費が盛んなため、牛肉の摂取を減らすことで大きな利益が得られると、著者らは指摘する。
フェルミューレン氏はCarbon Briefに対し、こうした国々の食生活の変化は、国を「一変させる」可能性があると語った。
「『食料システムの変革』という言葉は、軽々しく使われることが少なくないかもしれません。しかし、これらの地域での変化が、地域経済、景観、文化を全面的に変えることになるのは間違いありません。米国やオーストラリアに広がる広大な牧場が、同じく広大な自然再生地や別の用途の土地に置き換わると想像してみてください。そこはバイオマスやバイオエネルギーに使われるのでしょうか。それとも自然保護や生物多様性のために使われるのでしょうか。また、農村の人々はどのように新たな生計手段を築くのでしょうか。」
食生活の選択
地球に優しい食生活に切り替えれば、高所得国は1人当たりの炭素排出量を最も大きく削減できる可能性があると、この研究は結論付けている。しかし、個人に自らの炭素フットプリントへの責任を求めることは、議論を呼ぶ場合がある。
例えば著者らは、アルコール飲料や、コーヒー、カカオ製品、茶などの「嗜好品」が、食生活に伴う温室効果ガス排出量の5.8%を占めると指摘している。研究によると、こうした「ぜいたく品で栄養価の低い作物」は主に高所得国で消費され、排出削減と炭素吸収に向けて「無視できない」機会をもたらす。しかし、著者らは「社会学的・政策的な複雑さ」から、実際にこれらの製品の消費を減らすのは難しいとしている。
著者らはまた、内臓肉をもっと食べることも、食肉生産の副産物を活用することで、個人が食肉関連の炭素フットプリントを減らす有効な方法になり得ると指摘している。しかし、内臓肉は「慣習や消費者の好みにより、高所得国では一般に食べられていない」と著者らは述べる。
マシュー・ハイエク博士は、環境学部の助教としてニューヨーク大学芸術科学部に所属し、この研究には参加していない。同博士はCarbon Briefに対し、政府がより持続可能な食生活を促すためにできることを語った。
「先進国の人々は、世界平均を大きく上回る量の食肉や乳製品を消費しています……富裕国で食料消費に伴う排出量を減らすことは極めて重要です。食料の選択肢が豊富な消費者にとって、そうした選択は気候目標の達成に大きく関わります。健康的で持続可能な食品を、より広く、便利に、手頃な価格で選べるようにする政策が必要です。」
世界経済フォーラムは、世界の食料安全保障の確保に向けて何をしているのでしょうか。
また、ベーレンス氏はCarbon Briefに対し、「責任は高所得国が食料システムを変革することにある」と語った。プレスリリースでは、さらに次のように述べている。
「農業補助金を、生物多様性の保護と炭素吸収に取り組む農家へ振り向けることが不可欠です。公正な食料移行を実現するため、農業コミュニティを支えなければなりません。これを純粋主義的に進める必要はなく、動物性食品の摂取を減らすだけでも役立ちます。豊かな地域の人々の半数が食生活に含まれる動物性食品を半減させたらどうなるか、想像してみてください。環境面の成果と公衆衛生に大きな機会が生まれるのです。」





