植物にもワクチンを接種すべきか?

Bolivia's President Evo Morales (L) fumigates corn plants against locust plague in Yateirenda, in Santa Cruz, Bolivia, February 22, 2017. Freddy Zarco/Courtesy of Bolivian Presidency/Handout via REUTERSATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY. FOR EDITORIAL USE ONLY.
Emerging technologies could increase crop disease resistance.Image: REUTERS
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欧州の研究者が最近、化学農薬を作物向けの天然の「ワクチン」に置き換えられる可能性のある新技術を発表したとき、あまりにうまい話に聞こえた。そう思える理由の一つは、農業が複雑で、研究室では素晴らしく見える新技術も、圃場では期待どおりの成果を上げられないことが多いためだ。さらに、農業の「緑の革命」が掲げた肥料、殺菌剤、除草剤などの農業資材への信頼は、公衆衛生や環境への影響にかかわらず、これまでほとんど揺らいでこなかった。

それでも、植物ワクチン、遺伝子工学とは異なる遺伝子編集、植物と微生物の共生関係の操作など、新たな技術には、より持続可能な農業を実現しながら収量も増やせるかもしれないという魅力的な期待がある。今世紀後半に100億人を養い、しかも、限られた農地で、予測の難しい気候変動にもかかわらず、それを実現する必要があるため、今回はその期待に応える以外に選択肢はほとんどない。

病原体から植物を守るワクチンという考えは、農業ビジネス界で何十年も議論されてきたが、成果はあまりなかった。しかし近年、天然の遺伝子伝達物質を調整して特定の作物病原体を標的にできることが研究で示され、実現に近づいている。二本鎖RNA(dsRNA)は、植物をはじめ多くの生物で免疫系を活性化する重要な物質だ。現在進められている研究の一つでは、遺伝子工学によってこの天然の防御機構を改変している。たとえば、中国で害虫となっている吸汁性昆虫を標的とするdsRNAを備えた新しいワタ品種が開発された。

しかし、遺伝子工学は技術面と規制面の制約に直面しており、新たな病原体に迅速に対応する能力が限られている。また、特に食用作物では、世論の支持を得にくいこともある。研究が先月、Plant Biotechnology Journal誌に発表され、作物から病原体を採取して研究室でその遺伝子配列を解析し、その病原体を特異的に標的とする長いヌクレオチド配列を持つdsRNAを迅速に作製する方法が提案された。続いて細菌発酵槽を使えば、作物に散布するのに十分な量の標的dsRNAを短期間で生産できる。筆頭著者であるフランス国立科学研究センターの植物分子生物学者、マンフレッド・ハインライン氏は、新たな病原体の特定から標的散布剤の商業利用まで、6カ月以内で実現できる可能性があると見積もっている。

化学農薬とは対照的に、ハインライン氏らは「dsRNA剤は生体適合性と生分解性を備えた、自然界の一部である化合物であり、生物の内外や食品中に広く存在する」と記している。標的dsRNAは病原体の長いヌクレオチド配列と一致するため、その配列の一部が病原体内で変異しても、ある程度は効果を保つ。そのため、化学的処理を通常無効にしてしまう、進化による耐性が生じる可能性は低い。

ハインライン氏はいくつかの留意点を挙げている。厳密にはワクチンではない。ワクチンのように持続的な免疫を誘導するのではなく、病原体が存在する場合にのみ作用し、その場合でもdsRNAが生分解されるまでの10日または20日間しか効果が続かない。また、タバコモザイクウイルスを対象とした実験室での試験には成功しているが、研究を進め、他の一般的な作物病原体を対象とした圃場試験を行う必要がある。これには、dsRNAが植物に予期せぬストレスを与えないか、たとえば益虫に影響するなど標的外の作用がないかを確認することも含まれる。ただし、試験が順調に進めば、用途によっては5年以内という短期間で化学農薬に取って代わる可能性があると、ハインライン氏は推測した。

CRISPR遺伝子編集技術は、Science誌が選ぶ2015年のブレークスルー・オブ・ザ・イヤーとなり、すでに改変作物の圃場導入が始まっている。今後、その導入のペースは加速しそうだ。これは遺伝子工学より受け入れられやすい代替技術だ。遺伝子工学は、ある種の遺伝子を別の種に導入するため、規制上の制約に直面し、「フランケンフード」という評判も招いてきた。これに対し、遺伝子編集は遺伝子組み換えではない。CRISPR/Cas9という技術を使い、科学者は生物のゲノムから微小な遺伝子配列を正確かつ低コストで切り取ったり、同じ種の別個体から配列を加えたりする。こうしてできた生物には、理論上は自然交配によって生じ得なかったものは含まれておらず、これまで規制による遅れなく市場に投入されている。

CRISPR/Cas9の仕組み。Image: ロイター

遺伝子編集が注目される大きな理由は、農薬など高価な資材が担っている役割を植物自体に担わせられる可能性にある。たとえば小麦は、うどんこ病対策に通常、多量の殺菌剤を必要とする。しかし中国の研究者はすでに、この病気に耐性のある遺伝子編集品種を開発している。遺伝子編集技術は低コストであるため、市販の農薬を購入できない、あるいは入手できない発展途上地域にも役立つ可能性がある。そうした地域では、イネ、トウモロコシ、キャッサバなどの主食作物に甚大な被害をもたらす病気への対策として、現在、遺伝子工学がもう一つの有力な手段となっている。

しかし、今後の展開をより現実的に示しているのは、2015年に米国の圃場で栽培された、初の商業利用可能な遺伝子編集作物が除草剤耐性を持つナタネだったという事実かもしれない。これは、過去の農業技術の進歩が、農家を化学資材にいっそう強く依存させるだけの結果に終わることがあったと改めて示している。たとえば1990年代半ば、遺伝子組み換えのラウンドアップ・レディ作物の導入によって、除草剤グリホサートの使用量は15倍に増加した。

「農薬への耐性を克服することを進歩とみなすのは、持続可能な農業についての奇妙な構想だ……」と述べたのは、カリフォルニア大学バークレー校で環境政策を研究するマイワ・モンテネグロ氏だ。「世界保健機関がこの化学物質を『発がん性の可能性が高い』と判断し、オオカバマダラの個体数の激減との関連も指摘されているのに、農家が畑にさらに多くのグリホサートを散布できるようにすべきなのだろうか?」

この問いへの答えの一つが、3月に農業ビジネス大手(かつグリホサート製造元)のモンサントから示された。同社は1億ドルを投じて、ペアワイズという新興企業を設立した。同社は、ロイターの報道によると、トウモロコシ、大豆、小麦、ワタ、カノーラなどの商品作物を「モンサント専用に」遺伝子編集で改変することに重点を置いている。

新たなゲノム解析ツールによって初めて、植物の内部や周囲に生息する微生物群集を詳細に分析できるようになった。これは農業における、人間のマイクロバイオームに相当するものだ。その結果、こうした相利共生微生物の研究は、学術・商業研究の注目分野となり、農薬などの化学資材を生物農薬やバイオ肥料に置き換える可能性も期待されている。研究者は、リン、窒素などの栄養素を環境から取り込む、多くの作物を助ける微生物を紹介してきた。また、干ばつ、土壌の塩分、暑さ、寒さなどのストレスに耐え、害虫や病気に抵抗し、光合成を高める微生物も挙げられている。しかし、こうした有望な成果も、圃場では期待外れに終わることが多い。そこでは何百もの微生物種が植物と相互に作用しており、その仕組みを科学者たちは理解し始めたばかりだからだ。

植物と微生物の共生関係の古典的な例は、もちろん、ピーナッツやヒヨコマメなどのマメ科植物による窒素固定だ。これらの植物は根粒に特定の細菌を住まわせ、栄養を与える。細菌はその見返りに、空気中の窒素を取り込み、植物の栄養に変える。この共生関係は操作が比較的簡単そうに思える。実際、農家は何十年も前から、植え付けの際に少し余分な費用をかけ、大豆などの種子に有益な細菌を追加接種して窒素固定を促してきた。

「畑で初めて大豆を育てるときは、実にうまくいきます」と、ミネソタ大学の農業生態学者R・フォード・デニソン氏は言う。しかし、その後は、科学者にも完全には分からない理由で、土壌中に効率の低い細菌が増えていく。細菌は宿主植物により多くの支援を求める一方、見返りに供給する窒素は少なくなる。結果として農家は、進化の過程で自ら窒素を供給できるようになった植物に、逆説的にも窒素肥料を加えることになる。

しかし、農業マイクロバイオームの研究は本当に始まったばかりであり、持続可能な農業のために微生物を活用する、より高度な方法が必然的に開発されていくだろう。たとえば2003年、当時デニソン氏の研究室で博士研究員を務めていたトビー・キアーズ氏は、窒素固定を行う植物には、効率の低い細菌を見分けて飢餓状態にする能力があることを発見した。現在はアムステルダム自由大学で、植物が共生微生物をよりきめ細かく制御できるようにする研究に取り組んでいる。

「私たちが知りたいのは」とキアーズ氏は言う。「植物を育種して、菌類が栄養素を採取する方法を基本的に制御できるかどうかです。植物に栄養素が不足しているとき、必要なものを菌類から得られるように調整できるでしょうか」。キアーズ氏が研究する菌類は、すでに宿主植物に完全に依存している。そのため、「共生関係を調整して、植物がさらに主導権を握れるようにできると考えています」。最終的な目標は、植物と微生物が実質的に自ら農業を行える共生関係を作ることだ。「どこに植えても、どのような条件であっても、その共生関係が吸収を最大化できる」ようにする。

これまで農業では、作物の地上部分と、植物の成長を速めるために農家が投入できる農薬、除草剤、肥料などに注目が集まってきた。「そして今」とキアーズ氏は言う。「本当の革命は地下で起きると、人々は気づき始めていると思います」。

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