AIは農業を変革しうる――必要なデータを得られれば

The most consequential gap in agriculture today is not seeds, fertilizer or capital – it is data.
AI could make food systems more resilient – but only if the data gap is closed.Image: Cropin
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  • 世界では80億人を超える人口を養うのに十分な食料が生産されている。それでも、3億1,800万人が深刻な飢餓に直面している。

  • AIは農業と食料システムを変革しうるが、その基盤となるデータの隔たりをまず埋めなければならない。

  • 課題はもはや、単に食料を増産することではなく、食料システムをより可視化し、知的で持続可能なものにすることだ。

私たちは原子を分裂させ、ゲノムを解読し、世界中でインターネットを通じて60億人を超える人々をつないできた。それでも2026年、3億1,800万人が深刻な飢餓に直面している。これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック前に記録された人数の2倍を超える。

これは生産の失敗ではない。私たちは十分な食料を生産している。これは知性の失敗だ。食料システムを管理できるほど明確に把握できず、世界全体で1兆ドル相当の食品廃棄を招いている。今日の農業における最も重大な欠落は、種子でも肥料でも資本でもない。データだ。

世界最大級の消費財企業の一つでサステナビリティを統括する幹部は、同社が再生型農業の実践に数百万ドルを投じてきたと私に語った。しかし、「自分たちが達成していることを証明するデータがない」とも言う。潤沢な資源を持つ企業でさえ、自らの進捗を測定できない。

これは技術の問題ではない。必要なツールはすでにある。問題はデータであり、解決するまでは、農業における人工知能(AI)は燃料のないエンジンにすぎない。

AIは農業と食料システムの変革にどう役立つか

農業従事者向けの技術開発に携わって15年。人工知能(AI)は食料システムを変革できると私は考えている。ただし、その手順を正直に見定めることが条件だ。

AIで世界の食料システムを変革する6つの方法と、それが大陸や農地の各地で大規模にすでにどのように実践されているかを紹介する。

1. データ基盤を築く

多くの農業経済圏では、活用できるデータがそもそも存在しない。何百万人もの小規模農家は、記録をつけるとしてもノートに書き留めている。収量は勘で推定され、農場の情報はサプライチェーンの川下にいる人々から見えない。AIが機能するには、土壌、天候、作物の生育状況、投入資材の使用を結びつける、統合されたデジタル基盤を意図的に構築する必要がある。

メキシコの国立農業信託機関FIRAと連携し、アグテック企業Cropinの私たちは、40万人の小規模農家をデジタル化し、過去40年分の気候データ、最新予測、6か月先までの予報を重ね合わせた。こうして推測を、融資機関、農業資材の供給業者、政府機関が活用できる全国的なデータ基盤へと変えた。農業デジタル基盤(Agri-stack)は農業のデジタル公共インフラとして機能し、農家の成果を向上させ、国の情報アーキテクチャを変えた。この事例は、知的な運営を支えるデータの重要性を示している。

2. 食料安全保障を主権に基づくインテリジェンスへ

政府レベルのAIは、断片的なシグナルを、国が管理できるリアルタイムの全体像へと変えられる。

スリランカでは、外出禁止令、肥料の禁止、経済崩壊に打撃を受けた稲作農家が、農業をあきらめかけていた。Cropinはアジア防災センター(ADPC)と連携し、8,200人を超える農家に圃場単位のSMS助言を提供し、収量を30%増加させ、作物の損失を23%減少させた。

ナイジェリアでは、4万5,000ヘクタールを対象とするプログラムにより、関係者は収穫の数か月前から作物の生育状況、作付面積、推定生産量を把握できるようになった。季節ごとの賭けは、計算に基づく確かな見通しへと変わった。これが主権に基づくインテリジェンスだ。政府が自国の食料システムを管理できるほど明確に把握できる。

3. 気候変動を知るだけでなく、農業に気候変動への強靱性を持たせる

気候の混乱はすでに農業の経営環境となっており、災害による農業の損失は年間平均990億ドルにのぼる。干ばつ、洪水、季節外れの霜、変動するモンスーンはもはや異常事態ではない。農家が今日対処しなければならない構造的な要因だ。

インドのペプシコとともに、私たちは90%の精度の気象予測と45日先までの収量予測を構築し、対応を後手から先手へと切り替えた。病害を10日前に検知することで、栽培者は見当をつけずに農薬を散布するのではなく、対象を絞って対処できた。ペプシコの農場全体では、収量が25%増え、病害の脅威が80%低下した。価値は収量だけにあるのではない。サプライチェーンを守ることにもある。

4. 小規模農家の手にAIを届ける

およそ6億人の小規模農家が世界の食料の3分の1を支えている。その多くは、気候ストレスと金融排除が最も深刻な地域に集中している。それでも農業AIをめぐる議論は、大規模な商業農場向けのツールが中心だ。基盤に6億人もの保護されていない農家を抱える食料システムは、土台ではなく、脆弱性を抱えている。

スリランカとバングラデシュで、私たちはADPCとともに、8,200人を超える小規模農家に気候変動に配慮した助言を提供した。農家の導入率は90%で、収量は30%増加し、作物の損失は23%減少した。彼らは肥料の禁止、洪水、経済崩壊に同時に直面していた。

5. AIで再生型農業を測定する

6,000種の 植物のうち、わずか9%が世界の作物生産の66%を占める。集約的な単一栽培が土壌を劣化させ、農業は1970年以降、生物多様性の70%の損失を招いてきた。生物多様性のための年間7,000億ドルの資金不足を抱えるなか、再生型農業は構造的な解決策となる。しかし、導入は投資効果を示す証拠と測定手法の不足によって阻まれてきた。AIはその両方を解決できる。

FIRSTポテト・プログラムは、EIT Foodの支援を受けて欧州で実施され、農薬使用量を15%削減するとともに収量を5%増やすことを目指す。サステナビリティ責任者が必要とする検証可能なデータを生み出し、自然にプラスの影響をもたらすサプライチェーンの青写真となる。

6. 農場から始めてサプライチェーンの確実性を築く

食品を仕入れ、加工し、小売りする企業にとって、議論の焦点はイノベーションから生き残りへと移った。サプライチェーン全体での世界の食品廃棄額は、2026年だけで5,400億ドルに達すると予測される。小売業者や流通業者はここで莫大な損失を被り、利益率が大きく損なわれている。この不確実性は川下では管理できない。店頭に届く頃には手遅れだ。

米国の大手食品加工会社向けに、作物が成熟度75%に達した時点で収穫時期を予測するシステムを構築した。数か月先の調達計画を調整できる精度だ。ウォルマート向けには、過去の収量パターンを解読し、将来の供給量をモデル化して、天候任せの賭けだった調達を、経営判断へと変えた。供給の安定性を保証できる企業は、供給の安定性がますます失われるなかで、構造的な優位性を持つ。

農業の未来は、AIをめぐるデータの隔たりを埋められるかにかかっている

この6つの戦略は、一つの変革を構成する層であり、それぞれが下の層を前提としている。データが主権に基づくインテリジェンスを可能にし、それが気候変動への強靱性を高め、さらに小規模農家の包摂を可能にする。それが再生型農業への移行を支え、食料システムの持続可能性につながる。

農業のデータの隔たりを埋めることは、技術の話ではない。食料安全保障に関する決断だ。政府は資金を投じ、開発機関は要件として求めることができ、 アグリビジネスはそれを調達基準に組み込める。ツールはそろっている。いま問われているのは、予算を握る人々が数字の示す緊急性に応じて、この問題に取り組むかどうかだ。

ノーマン・ボーローグは緑の革命の父として、「空腹と人々の苦しみを抱えたまま、世界平和を築くことはできない」と述べた。彼は収量の問題を解決したが、それでも何百万人もの人々が飢えている。今日の問題は生産ではなく、可視性、インテリジェンス、持続可能性だ。農業におけるインテリジェンス革命が解決しようとしているのは、まさにこの問題である。ボーローグは豊かさをもたらした。今度は私たちが、それを手にするにふさわしいことを示さなければならない。

食と農業の未来は、明確な意図を持って築く必要がある。私たちはもはや作物を育てるだけではない。人類を支え続けるための知性を育んでいる。

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