金融犯罪と聞くと、実際の被害者も損失もない犯罪だと考える人は少なくありません。たとえば、インサイダー取引や、保険会社に対する保険金詐欺です。実際に「本物の」お金を失う人も、深刻な被害を受ける人もいない、と考えるのです。
残念ながら、この認識は真実から大きくかけ離れています。マレーシアの人身取引からルーマニアの売春、メキシコの麻薬戦争の犠牲者、世界各地の児童労働に至るまで、金融犯罪が人々にもたらす代償は現実のものです。そして、これは世界的な現象です。
金融犯罪は兆ドル規模の産業であり、関わる人々の暮らしに甚大な社会的・経済的損害をもたらします。さらに、多くの人が気づかないまま、日々この産業と接しています。金融犯罪とは、スーパーの駐車場であなたの車を洗いながら賃金を一切受け取れない人々のことです。クリスマスパーティーの準備中にあなたの爪を塗る人が、売上金をすべて家主に渡すよう強いられることもそうです。

汚職や金融犯罪は新しいものではありません。貨幣という概念が生まれて以来、何千年にもわたって社会の一部でした。新しいのは、金融犯罪者の手口の巧妙さと、マネーロンダリングを助けるためにテクノロジーを利用する能力です。犯罪者が最新技術を駆使して制度の網をくぐり抜け、国際的な犯罪ネットワークを動かすなか、「犯罪テック」の台頭を目の当たりにしています。
毎年、強制売春、テロ、麻薬取引などによる推定2.4兆ドルの収益が、世界の金融市場や銀行システムを通じてマネーロンダリングされています。現在、こうした活動のうち、世界の金融システムで検知されるのはごくわずかです。
2011年、国連薬物犯罪事務所の報告書は、こうしたシステムを毎年流れる犯罪資金のうち、法執行機関によって凍結・押収されるとみられる額は1%未満だと推定しました。それから6年が経っても、同程度に低い割合にとどまっていると考えられます。
銀行、金融サービス企業、公的機関は、この犯罪との闘いの最前線にいます。しかし犯罪テックの台頭に伴い、犯罪者やその取引を監視・追跡するため、さらに高度なツールが必要です。
だからこそ、金融犯罪との闘いを強化するため、私たちが利用できるあらゆる手段を活用することが極めて重要です。その手段の一つがデータです。
ビッグデータは、収集されるデータの精査から、企業や経済の成長にどう役立つかまで、近年大きな注目を集めています。しかし、今日の紛争の核心にもあります。データは21世紀の軍拡競争です。古くから言われるように、情報は力です。その影響の全容が見え始めたのは、おそらく今になってからです。
世界のデータ量は驚くべき速さで増加しており、膨大な情報の中から兆候を見つけ出すことは大きな課題になり得ます。データとその出所の信頼性を見極め、どう集約するか、最新の状態に保つにはどうするか、価値ある洞察をもたらす形にどう変換するか、といった課題が含まれます。
技術の進歩は、情報を迅速につなぎ合わせ、犯罪の証拠となるパターンを見つけて、悪意ある活動を未然に防ぐ助けになります。ビッグデータ分析ではすでに、位置情報やモバイル端末、ソーシャルメディアなど、さまざまな情報源から得た構造化・非構造化の生データを使い、不正行為を検知し、口座間に隠れたつながりを明らかにし、情報源と受益者の関係を追跡できます。
しかし、金融犯罪を支えるグローバルネットワークと、それがもたらす計り知れない社会的被害に実質的な影響を与えるには、公的機関と民間組織が連携し、国境を越えたデータ交換と情報共有の戦略を策定することも不可欠です。
こうした課題の一部に対処するため、20か国を超える国々が、公民連携による金融情報共有パートナーシップ(FISP)の構築に取り組むことを約束しました。これは、法執行機関などの公的機関と主要金融機関のグループを結びつけ、マネーロンダリングやテロ資金供与のリスクに、より効果的に対処するものです。こうした取り組みをさらに増やす必要があります。
金融犯罪への対処は、あらゆる政策立案者の最優先課題の一つです。違法な金融取引に効果的に立ち向かうことができれば、多くの社会問題にも対処できます。しかし、最善の意図を持っていても、規制だけでは問題の表面をなぞるにすぎないことが多いと認識する必要があります。金融サービス業界の関係者は、職務上求められる以上の取り組みを自らの責任として担う必要があります。
犯罪者の手口がますます巧妙になり、活動のオンライン化が進むなか、テクノロジーは犯罪を可能にする要因となっています。しかし、犯罪と闘ううえで最も強力な手段の一つにもなり得ます。官民の機関が協力し、テクノロジーを活用してこそ、人身取引業者、麻薬カルテル、売春組織との闘いに挑み、勝利を目指すことができます。



