ECBはインフレ目標を一貫して達成できていない――状況を変えるには

Two Euro coins are seen at the Money Service Austria company's headquarters in Vienna, Austria, November 16, 2017. REUTERS/Leonhard Foeger - RC1352E0B610
The ECB has undershot its inflation objective of “close to, but below 2%” for over a decade.Image: REUTERS/Leonhard Foeger
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欧州中央銀行の次期指導部交代は、同行の政策枠組みを見直す機会、いや義務ともいえる。ECBは、マリオ・ドラギ総裁時代に大きな成果を挙げた。とりわけ、2007~08年の世界金融危機のさなかにユーロ圏を安定させ、2012年のソブリン債務危機時には単一通貨の解体の可能性をめぐる憶測を終わらせた。しかし、消費者物価インフレを誘導するECBの戦略は、はるかに成果に乏しかった。

インフレに関するECBの政策には、リスクテイクの拡大、資本配分のゆがみ、格差の拡大、年金格差の拡大など、強い副作用があった。それでも、年間インフレ率は10年以上にわたり同行の「2%に近いが、2%を下回る」という目標を下回り、金融危機以降の平均はわずか1.2%にとどまっている。今日の不確実な政策環境のもとでインフレに関する信頼性を高めるには、ECBはルールを調整し、より柔軟なアプローチを採用すべきだ。

金融政策が経済活動やインフレに及ぼす影響は、ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』を1936年に出版して以来、激しい議論の的となってきた。こうした政策が実体経済や物価に波及する過程には常にほころびがあったが、金融危機とその後の経過によって大きな断絶が明らかになった。

ECBは大幅な利下げを行い、事実上無制限の長期資金供給オペを実施したが、危機後の数年間、追加融資を促すことはできなかった。銀行、企業、家計はバランスシートの修復と貯蓄の積み増しを進め、債務圧縮を図っていた。その結果、ユーロ圏のインフレ率は2014年と2015年にゼロ近くまで低下した。

ECBはこれに対し、金融緩和をさらに強化し、大規模な資産買い入れプログラムを導入した。これらの措置はユーロ圏の国債利回りをさらに押し下げ、資産価格を押し上げた。しかし、その後に生じた資産効果にもかかわらず、人々の支出は増えなかった。政策をめぐる不確実性が続いたうえ、金利がほぼゼロでは退職後に備えてより多く貯蓄しなければならないと認識されたためだ。

もちろん、ECBの政策がそれほど緩和的でなかった場合に経済がどうなっていたか、確かなことは分からない。しかし、金融政策が実際に設備稼働率を高め、失業率を下げることに成功したと仮定しても、予想されたインフレ率の上昇は実現しなかった。

フィリップス曲線が示す失業率とインフレ率の伝統的な逆相関は、崩れたか、少なくとも大幅に弱まったように見える。さらに、インフレ率が持続的に低い状態、いわゆる「低インフレ」はユーロ圏に限らず、労働市場や製品市場のグローバル化に伴う賃金・価格の動きの変化など、より広範な経済動向を反映している可能性が高い。ここ数十年で、アジアや東欧の数億人の労働者が世界の労働力に加わった一方、デジタル技術や人工知能の進歩は既存のビジネスモデルを変え続けている。こうした動向が賃金や物価にどう影響するかを経済学者はまだ十分に理解しておらず、ECBの政策枠組みにはこうした不確実性の高まりを反映させるべきだ。

インフレ目標を早くから採用したニュージーランド準備銀行やカナダ銀行は、中期的なインフレ率の目標範囲を1~3%に設定している。今日の状況を踏まえれば、ECBにとってもこのアプローチは妥当と思われる。同行は、中期的なインフレ目標に、エネルギーを除くコア消費者物価や、同行が重視するインフレ期待の指標を含みうる、より広い定義を組み合わせることができる。そうすれば、状況に応じて(たとえば商品価格ショックが生じた場合)、ECBの政策担当者は目標を上回る、あるいは下回るインフレを許容する柔軟性を高められる。

柔軟性を高めれば、インフレと金融安定の間にある政策上のトレードオフにもECBが対応しやすくなる。中央銀行は、好況時には風に逆らうように政策を引き締め、変動や不安が強まる時期には緩和することで、金融サイクルの平準化を図るべきだ。債務に支えられた金融バブルは、はじけると経済的・社会的な苦境をもたらすことを、歴史は繰り返し示してきた。宴の最中に、たとえ話の中のパンチボウルを取り上げるのは歓迎されないが、深刻な債務の二日酔いを防ぐことで金融サイクルの平準化が長期的な成長に資するという証拠は豊富にある。世界金融危機によって数百万人が職を失い、何十億もの貯蓄が失われて以来、バブル崩壊後の後始末を重視する「グリーンスパン・ドクトリン」は支持を失った。

現時点で、ECBが直面するユーロ圏の金融リスクの蓄積は管理可能な範囲にある。確かに、投資家の利回り追求により、社債や融資、そしてある程度は株式のリスクプレミアムが縮小している。不動産価格も大幅に上昇した。しかし、リスクテイクの拡大に民間債務の大幅な増加はまだ伴っていない。さらに、貿易戦争やハード・ブレグジットのリスクに関する政治的不確実性によって、金融資産価格は繰り返し打撃を受けている。

こうした動向から、ECBが金融政策を急いで引き締める必要はないと考えられるが、現在1.7%のインフレ率を引き上げようとして、政策をさらに緩和することには慎重であるべきだ。たとえばマイナス金利や対象を絞った資金供給オペを通じて信用拡大を加速させる措置は、将来、新たな金融市場のバブルをほぼ確実に招くだろう。したがってECBは、消費者物価に焦点を当て、金融サイクルを体系的に平準化する二本柱の戦略の採用を検討すべきだ。

中央銀行が長期にわたって一貫してインフレ目標を達成できなければ、信頼性を失うリスクがあり、市場の信頼を取り戻すために積極的な政策を採用し、「必要なことは何でもする」と迫られるかもしれない。思い切った措置の必要性を減らすため、ECBの次期総裁は、同行の比較的狭いインフレ目標を、より幅広い目標レンジに置き換えるよう働きかけるべきだ。

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