責任ある投資は、DEIやESGとともに、メディアで政治的な反発を受けています。
しかし、機関投資家の資産保有者と運用者を対象とした最近の調査によると、そのビジネス上の根拠は依然として強固です。
リスクと価値創出の機会を幅広く捉えることは、ビジネス上の合理性にかなうからです。
責任ある投資やESG、DEIなどの枠組みをめぐる否定的な報道にもかかわらず、実情ははるかに複雑です。大手テクノロジー企業でも同様です。
ベンチャーキャピタルやスタートアップのエコシステムに資金を提供する人々、すなわちリミテッド・パートナー(LP)に話を聞けば、実情は明らかです。過去6か月間に、調査の一環として、最大規模の機関投資家である資産保有者と運用者26者にインタビューしました。1兆5,000億ドル超の資産を運用するLPのうち、責任ある投資への取り組みを2年前より縮小する予定のところは一つもなく、大半は政治的な反発にもかかわらず、取り組みをさらに強化する計画です。とりわけアーリーステージ企業への投資では、リスクと価値創出の機会を幅広く捉えることがビジネス上の合理性にかなうからです。
過去10年間に起きた大手テクノロジー企業の破綻の一部は、リスクがいかに見過ごされがちかを明らかにしました。財務以外の要因であっても財務上重要なリスクは、見過ごせないはずです。FTXのような急成長企業の最近の崩壊や、WeWork、アフリカ最大のフィンテック企業であるFlutterwaveの事例は、ガバナンスの不備がもたらす影響を示しています。
ダイバーシティ、公平性、包摂(DEI)を適切に実践すれば、定着率向上などによる人事コストの削減と、セクシュアルハラスメント問題に対処する企業文化の改善の両方につながります。いずれも収益に直結するものであり、AppleとCostcoが最近、株主への説明で強調した点です。これに対し、Targetでは顧客が同社をボイコットしました。DEI施策の縮小に反発したためです。人権や環境への配慮は、規制不遵守による財務的影響や、評判が損なわれる可能性と結び付いています。顧客がサプライチェーンや持続可能性について、より多くの質問をするようになっているためです。
ESGを捉え直す
これらはいずれも、機関投資家の資産保有者と運用者が同意するビジネス上の根拠です。最大の目標は、責任ある投資と環境・社会・ガバナンス(ESG)を、実際に機能する形に捉え直すことです。
LPは、投資判断の際にESGの枠組みを、すべてに一律適用するチェック項目とは見ていません。幅広いESGリスクを分析するための枠組みであり、リターンに影響し得る具体的な要因を掘り下げる有用な出発点と捉えています。
昨年のベンチャーキャピタル(VC)におけるESGの試行から得た知見を踏まえ、LPはこの取り組みでVCを支援する方法をより洗練させています。方針、適切な投資枠組み、VCのプロセス全体への導入実績を含む、具体的な責任ある投資慣行を求める声も強まっています。LPはまた、VCファンド運用者とともに、より洗練された責任ある投資の手法を開発するパートナーとしての役割も担っています。LPによるスチュワードシップには、コンプライアンスの監視にとどまらない、実質的な支援が含まれます。これに伴い、ESGは単なるリスク管理から価値創出の枠組みへと転換しています。
適切なガバナンス、ポートフォリオの多様性の追跡、炭素会計(少なくとも欧州では)といった課題の一部は、非常に基本的なものとなり、多くのLPはもはやESGとして語らず、受託者としての中核的責任と見なしています。
言葉を変え、実践を改善する
VCとLPの資産クラスごとの専門性が高まる一方、米国ではESGに対する政治的な反発が強まり、全体として言葉遣いに変化が生じています。「ESG」や「企業の社会的責任」という言葉は、ますます「ウォーク主義」だとの非難を招くようになりました。また、任意参加の業界団体Climate Action 100+からの脱退や、国連の支援を受けるグラスゴー金融同盟ネットゼロ(GFANZ)からの脱退も見られました。政治色の強い言葉が飛び交う時代、「責任」は口にされる言葉よりも、意思決定に関わる行動、プロセス、要因の中に表れるようになっています。
世界経済フォーラムは、どのように世界の金融システムを改善しているのでしょうか。
金融・通貨システムセンターは、持続可能性やレジリエンスからイノベーション、デジタル化まで、世界の金融システム全体にわたる変革を理解するため、リーダーを招集します。
協力と知見の共有を促すことで、同センターはパートナーが金融システムを長期的な経済の安定と繁栄の共有に沿わせることを支援します。
実際、最も洗練されたLPが先導し、より幅広い責任への配慮を既存のVCプロセスに組み込むベストプラクティスが生まれています。LPは、形式的なチェックを超えて実践に移すため、より多くの証拠を求めるようになっています。事例研究や具体例を求め、若手からパートナーまでさまざまなチームメンバーと責任ある投資やESGについて話し合い、自ら実務にも関わります。各ファンド間で最良の実践例と失敗例を共有し、責任あるAIやデュアルユースといった具体的な課題から、責任ある投資全般まで、ワークショップや研修を開催しています。
力を合わせて
LP間の連携が全般的に進んでいることも分かりました。報告方法をそろえることは、ESGに関する年次報告の負担を減らす一歩です。プライベートエクイティのEDCIと並行して、Invest EuropeはVentureESGおよび欧州最大級の公的LP 7者とともに、この取り組みを主導し、成功させました。今回の報告期間には、欧州のスタートアップの大多数がこのテンプレートを使って報告する見込みです。これにより、報告負担を大幅に軽減し、今後のデータ比較を容易にできる可能性があります。
次の段階は、責任ある投資プロセスの調和に向けて協力することです。LPは、すべてのステークホルダーを考慮したリスクと機会の幅広い捉え方をどう標準化し、重要性に関する共通の語彙と理解をどう築けるでしょうか。これにより、競争の激しい環境で投資する際に責任について問いやすくなり、回答の質も高まります。同じ質問がより頻繁に投げかけられれば、変化の方向を混乱させることなく、ファンド運用者や創業者が行動を変える可能性が高まるからです。
欧州の規制は、時に扱いにくさを伴いながらも、これまでこの共通のアプローチを形作るうえで中心的な役割を果たしてきました。重要性が欠けていると批判されることも多いSFDRは、二つの重要な結果をもたらしました。欧州全域でVCやスタートアップがESGと責任ある投資を重視するようになり、優れたサステナビリティ報告の姿も明らかになりつつあります。規制要件の多くは具体性に欠けていましたが、LPがそれを資産クラスに応じた期待へと置き換えたことで、VCの投資方法や投資先ポートフォリオとの協働に実際の好影響が生まれました。さらに重要なのは、こうした影響が欧州の国境を越えていることです。米国のVC運用者が欧州でLP資金を調達する機会が増えるにつれ、より高い水準のESG慣行を満たす必要があります。
この共通のアプローチを築く次の段階は、LP間の対話と実践共有に適した場を設けることです。何がうまくいき、何がうまくいかないのか、いつ、なぜ重要なのか、何が問題になり得るのかを互いに話し合って初めて、VCエコシステム全体でより多く取り組む規範が生まれます。



