金融危機下の労働市場の柔軟性:スペイン企業レベルの実証分析

A worker walks past steel rolls at the ArcelorMittal steel plant in Sestao, Spain, November 12, 2018. REUTERS/Vincent West - RC1C72F35FF0
A worker walks past steel rolls at the ArcelorMittal steel plant in Sestao, Spain,Image: REUTERS/Vincent West
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景気後退期に、労働市場の柔軟性を高めれば経済に恩恵がもたらされるという考えには、賛否双方に有力な根拠がある。本稿では、2008~09年の信用収縮期におけるスペインのデータを用いて、この問題に関する新たな実証結果を示す。信用制約を受ける企業は、技術的に労働を資本で代替できる限り、解雇や採用に関する規制が厳しくない場合に、より速く成長する。これらの結果は、より柔軟な労働法を支持する根拠となる。

経済学者や政策立案者は、市場制度の質が経済パフォーマンスにプラスの影響を与えると考える傾向がある。そのため、構造改革が、財政支援を必要とする国々への支援条件となることは多い。構造改革のパッケージには通常、労働市場を自由化したり、より柔軟にしたりする措置が含まれる。たとえば、労働者の採用や解雇を容易にする措置である。こうした措置は、自由化を進める国に大きな経済的利益をもたらすとされている(Dustmann et al. 2014)。景気後退期には、「創造的破壊」を促し、成長の見込みがある企業が成長を続けられるようにすることで、より柔軟な労働市場が国の経済に大きな利益をもたらすという有力な根拠もある(Caballero and Hammour 1994)。深刻な景気後退期に、労働市場の柔軟性(たとえば、労働者を採用・解雇する能力)は企業の成長にどの程度有益なのだろうか。また、こうした柔軟性は企業の銀行融資を受ける能力とどのように相互作用するのだろうか。

近年の研究に基づき、本稿では、柔軟な雇用保護法制、すなわち柔軟な労働市場が、信用収縮期にそれ以外の点では健全な企業に利益をもたらすという新たな実証結果を示す(Laeven et al. 2018)。信用制約を受ける企業は、技術的に労働を資本で代替できる限り、解雇や採用に関する規制が厳しくない場合に、より速く成長するという頑健な事実を明らかにする。分析には、構造的に失業率が高い国であるスペインのデータを用いている。

スペインの労働規制には企業規模ごとに明確なルールがあり、従業員が50人を超える企業では雇用保護が著しく厳格になる。ここでは、二つのルールが重要である。第一に、集団解雇の場合、従業員が50人を超える企業では交渉期間が2倍長く、通常、従業員一人当たりの退職金も高くなる。第二に、従業員が50人を超える企業で集団解雇を行う場合、影響を受ける労働者への影響を緩和するための社会計画を伴わなければならない。さらに、こうした企業は、認可を受けた再就職支援会社を通じて、少なくとも6か月間の特別な訓練・再配置計画も実施しなければならない。これは、限界的な労働者を採用する費用がこうした企業では高いことを意味する。将来、その労働者を解雇(または余剰人員整理)する可能性があるためである。その結果、解雇規制が厳しい企業は、成長を続けるために追加の労働者が必要になっても、採用に踏み切りにくくなる。

2008~09年の信用収縮により、企業の借入コストは急激かつ大幅に上昇した。スペインの銀行が危機の影響を一様に受けたわけではなく、多額の資本増強を必要とした銀行もあり、その規模は全体でGDPの約1.1%に達した。こうした措置の一部は危機の始まりと同時に実施されたが、その後の統合措置や国有化の大半は危機の期間を通じて行われた。この間、貯蓄銀行は商業銀行への転換を余儀なくされ、欧州金融安定ファシリティは複数の銀行の資本増強に金融支援を提供した。総計71行の銀行が何らかの介入を受けた。危機の間、信用供給は全般的に減少したが、影響を受けた貯蓄銀行による新規融資は、とりわけ大きく減少した。経営の弱い銀行は、健全な銀行よりも大幅に高い平均金利を課すことで信用を割り当てた(Bentolila et al. 2018)。そのため、影響を受けた銀行から借り入れていた企業は借入金利がより大きく上昇し、事業を続けるために労働を資本で代替する誘因が強まった。

借入制約が厳しくなり、労働規制が緩和される状況で、労働を資本で代替したい企業のうち、それを実行できるのは、資本を労働で容易に置き換えられる企業、すなわち労働者と機械の代替性が高い(「高シグマ」)企業に限られる。したがって、生産要素の一方を他方で代替できる企業を特定することが重要である。(部門別に推計した代替弾力性は、コークス製造部門の0.4から建設部門の2.0までの範囲で、中央値は0.9である。)バランスシートへのショックを受けると、銀行は借り手への融資を減らす。多くの研究は、投資プロジェクトの情報が不透明で不確実性も高いため、この過程で小規模企業ほど深刻な影響を受けると論じている(Berger and Udell 1995)。この企業規模の影響を踏まえると、主要取引銀行にショックが生じた後、従業員が50人未満の企業は、銀行がそれらの企業への信用を相対的に大きく引き締めるため、成長面でより大きな打撃を受ける可能性がある。図1は、サンプル企業の信用ショック前後の成長率を示している。2007年までは小規模企業と大規模企業がほぼ同じペースで成長していたが、2008年にショックが発生すると、小規模企業の売上高成長率が大幅に大きく低下したことが明確にわかる。これは、小規模企業の信用制約がより厳しくなったことと整合的である。

しかし、図2が示すように、成長率のこの乖離は、資本と労働を容易に代替できない部門(「低シグマ」部門)の企業によって生じている。一方、資本と労働を代替できる部門(「高シグマ」部門)では、影響を受けた企業のうち従業員が50人未満の企業のほうが、従業員が50人を超える企業よりも相対的に高い成長を示している。このことは、二つの生産要素を代替できない場合には、企業規模の影響が雇用保護の影響を上回り得ること、また、信用制約がある状況で柔軟な雇用保護法制の恩恵を受けるのは、労働を資本で代替できる企業に限られることを示唆している。

図1 小規模企業と大規模企業の売上高成長率の差

注:シグマが高い(低い)とは、資本と労働の推定代替弾力性が中央値を上回る(下回る)ことを指す。縦軸の売上高成長率は、年ごとのパーセント差で示している。Image: VoxEU

図2 低シグマ部門と高シグマ部門における小規模企業と大規模企業の売上高成長率の差

注:シグマが高い(低い)とは、資本と労働の推定代替弾力性が中央値を上回る(下回る)ことを指す。縦軸の売上高成長率は、年ごとのパーセント差で示している。Image: VoxEU

分析には、危機前後のスペイン企業約110,000社の完全な貸借対照表情報を収録し、従業員1人から1,000人超まで、企業規模の全分布を網羅するOrbisデータセットを用いる。このデータセットには銀行と企業の取引関係に関する情報も含まれており、危機の間に深刻なバランスシート問題を経験した銀行と融資関係にある企業を特定することで、企業レベルの信用制約の厳格化を信頼性高く測定できる。サンプル企業の全体の26%は、危機の間に政府介入を必要としたスペインの71行のうち、いずれかの銀行と融資関係にある。

主な発見は、労働と資本をより容易に相互代替できる部門では、従業員が50人未満のスペイン企業は、負の信用ショックを受けた際、同様に信用制約を受けている大規模企業よりも金融危機の間に相対的に速く成長したということである。この結果は、キャッシュフローや純資産など、時間とともに変化し、信用ショックや企業規模別の労働規制がなくても企業成長に影響し得る企業固有の要因にかかわらず確認される。企業規模以外の企業間・部門間の違いを調整した場合にも、この結果は明らかである。従業員50人という基準に近い小規模企業と大規模企業を比較した場合、外部資金への依存度など、業界のその他の基礎的な特性を調整した場合、さらにサンプルを単一の銀行と融資関係にある企業に限定した場合にも、主な効果は確認される。また、労働と資本の代替性が高い部門において、雇用保護が比較的緩やかな企業は雇用の伸び率が高い一方、投資の伸び率は高くない。これは、作用している基本的なプロセスを裏付ける。重要なのは、危機の開始前に売上高と生産性の伸びが相対的に高かった企業では、主な効果がはるかに顕著に現れる点である。これらの結果を総合すると、雇用保護の柔軟性は、資本の使用者費用に外生的なショックを受けた企業が労働を資本で代替し、成長を続けられるようにすることで、企業に利益をもたらすことが示唆される。

データから明らかになった傾向は、柔軟な労働法の導入を支持する一つの根拠となる。こうした労働市場改革は個人の雇用喪失を伴う可能性があるものの、経済全体としては、銀行部門に根ざす深刻な景気後退から企業がより速く回復できるようにする。金融危機以降、スペインは実際に、労働市場の柔軟性を高め、とりわけ企業の解雇費用を軽減することを目指す労働市場改革のパッケージに着手した。これにより平均的な企業の賃金総額が減少し、景気回復と、極めて高かった失業率の低下がもたらされた。こうした改革を全体として成功させるには、雇用創出や再分配を通じて、企業が得る利益を解雇された労働者と分かち合うことが不可欠である。

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