経済学の講師によると、世界経済は、より根深い4つの要因にあおられ、インフレ率が恒常的に高くなる時期に入りつつあります。
その要因とは、脱グローバル化、気候変動、賃金・物価スパイラル、流動性の高い世界市場です。
解決策を見いだすには、環境悪化や経済ナショナリズムの影響など、インフレの根深い原因に対処する必要があります。
物価上昇率は多くの国で低下し始めていますが、依然として主要経済国の一般的な2%の目標を大幅に上回っています。英国では、インフレ率は目標を上回った状態が2021年8月から続き、2桁台になったのは2022年8月からです。
2021年、私はインフレ率が高止まりすると警告した経済学者の一人でした。主要中央銀行や複数のシンクタンクが当時、急速な物価上昇は長く続かないと述べ、高インフレは「一時的」かもしれないと主張していた時期のことです。高インフレが経済に定着し、英国をより貧しい国にしてしまう前に、対策を講じるべきだと私は訴えました。
残念ながら、それが現実になりました。現在の高水準からインフレ率はまもなく低下し始めると私は考えていますが、政府の2%目標に戻すのは容易ではありません。
中央銀行は最近の急速な物価上昇の説明として、ウクライナ戦争やエネルギー価格の急騰をよく挙げます。しかし、米国と英国のインフレ率は、戦争が始まる前から40年ぶりの高さに達していました。実際、世界経済は今、より根深い4つの要因にあおられ、インフレ率が恒常的に高くなる時期に入っています。
1.「脱グローバル化」
インフレの長期的な要因の一つは、経済をめぐる冷戦です。米国ではトランプ政権が、中国に対する貿易制裁の導入に向けた初期の取り組みを主導し、現政権は中国製品への米国の依存を終わらせることにさらに強い意欲を示しているようです。世界有数のエネルギー・商品輸出国であるロシアと西側諸国との経済関係も、同様に衰退局面に入っています。
こうしたグローバル化の逆行は、国際関係に限られません。政治家はしばしば、地域経済と世界とのつながりを弱めることで、雇用を守り、産業を再生し、国内の貿易赤字を減らすと約束します。そのために、関税や官僚的な手続きに伴う費用を引き上げ、国内産業に補助金を出します。
しかし、こうした政策は、影響を受ける国々の報復を考慮できていないことがあります。報復は市場を縮小させ、商品の価格を押し上げ、インフレを加速させます。政治家は、こうした決定が国内価格に及ぼす影響の可能性について、率直に語るべきです。
例えば、ブレグジットをめぐり、英国の政治家は義務を負うことなく、統一された欧州市場のあらゆる恩恵を得られると約束しました。当然ながら、EUは英国の市場アクセスを縮小して報復しました。その結果、物価上昇、投資の縮小、人員削減が起こり、最終的には関係するすべての国、とりわけ英国でGDPの成長経路が低下しました。
2. 気候変動
最近の「サラダ危機」では、供給不足によって食品価格が急騰しました。これは一度きりではありません。天候はますます不安定になり、生産を妨げ、さらには自然災害の発生可能性も高めています。
感染症のパンデミックと同様、こうした事象は生産を混乱させ、企業が対応し、乗り越えるには大きな費用がかかります。増加したコストは消費者に転嫁されます。また、炭素税などの政府の施策に伴うコストも消費者が負担します。
3. 賃金・物価スパイラル
中央銀行は、インフレへの対応が遅れ、賃金・物価スパイラルがさらなる物価上昇を招くのを許したとして、広く批判されています。高インフレで賃金が上昇し、それが需要と支出を押し上げ、さらにインフレが進む現象です。英国のようなサービス産業中心の経済に最も深刻な影響を及ぼす悪循環です。
最近の労働者のストライキ(英国)や、米国での急速な賃金上昇は、高インフレに対する予測可能な反応であるだけでなく、インフレを強めてもいます。賃金・物価スパイラルに対処しなければ、インフレ率は長期にわたり上昇する可能性があります。
4. 流動性の高い世界市場
流動性とは、経済の中に存在する資金の量です。2008年の世界金融危機後、中央銀行は量的緩和(QE)と呼ばれる複雑な仕組みを通じて、主要経済国により多くの資金を供給しました。
世界経済フォーラムは、より効率的で、強靱かつ包摂的で、公平な金融システムの実現にどのように貢献しているのでしょうか。
金融・通貨システムセンターは、持続可能性や強靱性からイノベーション、デジタル化に至るまで、世界の金融システム全体の変革を理解するため、リーダーたちを招集しています。
協力と知見の共有を促すことで、同センターは、長期的な経済の安定と繁栄の共有に向けて、パートナーが金融システムを整合させる支援をしています。
銀行部門を支え、低金利を通じて家計や企業を助ける妥当な施策として始まったものは、2010年代に依存性の高い習慣となりました。現在、量的緩和による流動性は、米国と英国でGDPの40%に相当しています。
経済理論では、これほど極端な流動性はインフレを引き起こすと考えられます。この予測は現実には起こりませんでしたが、世界経済に問題をもたらしています。
量的緩和はあらゆる資産の評価額を押し上げました。不動産から株式、美術品、さらにはビットコインに至るまで、今や私たちは「あらゆる資産バブル」の中にいます。これは格差を拡大させただけでなく、中央銀行のインフレ対策にも影響を及ぼしています。金利の高止まりが続けば、低金利時に借り入れた家計や企業、さらには国全体が破綻しかねません。最近の銀行破綻は、インフレ対策として中央銀行が金利引き上げにどこまで頼れるかには限界があることを、厳しく警告しています。
インフレ高止まりへの解決策
現状では、中央銀行や政府がインフレと闘うのは困難です。インフレを抑えるために金利をさらに引き上げ、その後長期間にわたり高水準に保てば、住宅ローンなどの借入金利上昇を負担できず、家計、年金基金、銀行、株式市場、場合によっては政府までが破綻するおそれがあります。これは、インフレ対策の主要な手段の一つである金利変更が、その効果や信頼性を失いつつある可能性を意味します。
残念ながら、経済に奇跡的な解決策があることはまれですが、インフレの根深い原因への対処に取り組めば、政府の2%目標に向けてインフレ率を引き下げる助けになります。
環境悪化とそのインフレへの影響に対処するには、政府、企業、消費者による変化が必要です。慎重に設計された移民政策は、人材や技能の不足を和らげ、生産を押し上げ、インフレを抑える可能性があります。貿易戦争がGDPに及ぼす影響には、技術、人材、インフラへの投資を通じて対処できます。ブレグジットなど、経済的な自傷行為やその他の経済ナショナリズムを撤回することも役立つでしょう。政治家は、さまざまな選択が地域の企業や人々に及ぼす影響について、率直に語る必要があります。
総じて、高インフレ、金利上昇、不確実性が続くこの時期に、長期的な損害を防ぐことが重要です。物価上昇の影響を特に受けやすい脆弱な人々を守るべきです。これで短期的にインフレが低下するわけではありませんが、根深い原因への対処が進む間、より多くの人々や企業が生活費危機を乗り越えやすくなります。




