技術革新が組み合わさり、新たな金融エコシステムである「フィンターネット」が生まれつつあります。
新たな報告書は、この新しい金融環境の進化を後押しする4つの主要な動向を明らかにしました。
これらがアクセシビリティ、信頼性、規制の観点から実際にどのように展開されるかを探ることが、フィンターネットの発展にとって重要になります。
金融システムは、その基盤を再構築する技術的なメガトレンドによって、大きな転換期を迎えています。これらの変化は、報告書「Pathway 2035 for Financial Innovation: Your Navigator」(スイス金融イノベーション・デスク(FIND))が発表したもので、Finternet: The Financial System for the Futureというビジョンを示した国際決済銀行(BIS)の知見を土台としています。FINDは、人工知能(AI)、デジタル信頼、デジタル資産、量子耐性技術という、明日の金融環境を形作る4つの重要なテーマを特定しました。
これらの相互に結びついた柱は、より速く、より安全で、世界のニーズにより柔軟に対応する新たな金融エコシステム(私たちが「フィンターネット」と呼ぶもの)の基盤を形成します。特にAIは、より効率的で強靱な金融の未来を実現する触媒として、極めて重要な役割を担うでしょう。
1. AI:明日の金融システムの頭脳
AIは金融分野を変革しており、前例のない効率性とパーソナライゼーションをもたらすことが期待されています。しかし、その世界的な普及は、異なる規制アプローチによって特徴づけられています。米国では、限定的な規制が急速な技術進歩を促すため、イノベーションが優先されています。対照的に、欧州連合は倫理と説明責任を重視し、中国は国家安全保障を確保するため、AI開発と厳格な国家統制のバランスを取っています。こうした異なる道筋は、AIの責任ある成長を確保するためには世界的な協力が必要であることを浮き彫りにしています。
AIにおける高品質な研究開発(R&D)は、ごく少数の国に集中しつつあります。ICAIN(International Computation and AI Network)は、スイスが主導する協働プロジェクトであり、AIが持続可能な開発のための計算資源へのアクセスを民主化できることを示す事例です。世界の専門知識を結びつけることで、ICAINは国連の持続可能な開発目標に沿ったプロジェクトを支援しており、AIが協働的に応用された場合の変革の可能性を示しています。

オープンファイナンスとオープンデータも、フィンターネットのビジョンを実現する上で重要な役割を果たします。標準化されたAPIにより、金融サービスと非金融サービスをシームレスかつ相互運用可能な形で提供でき、プラットフォーム間の競争とイノベーションを促進します。Global Open Data Trackerなどのツールは、世界中のイニシアチブの進捗状況を明らかにし、金融包摂と公開型の協働を促進しています。
AIが再構築された金融エコシステムに組み込まれることは、極めて重要な節目を意味します。この相互接続されたシステムは、プライバシーとセキュリティを高めるだけでなく、イノベーションと協働を促進し、金融機関と消費者の双方に新たな機会をもたらします。
2. デジタル資産:国境のない金融の新たなフロンティア
デジタル資産は、非効率性に対処し、24時間365日の資本へのアクセスを可能にすることで、国境のない経済を生み出しています。これらの資産は、多くの場合、ブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)に基づいており、決済から投資、サービスへのアクセスまで、幅広い用途を包含しています。
その歩みは、2009年のビットコインの誕生に始まります。ビットコインは、サトシ・ナカモトによる2008年のホワイトペーパーに続いて生まれ、デジタル金融における転換点となりました。今日、デジタル資産には暗号資産、トークン化された現実資産、さらにはステーブルコインや中央銀行デジタル通貨(CBDC)といった革新的な資産が含まれます。

ブロックチェーン技術は、リアルタイムの透明性とアトミック合成可能性を備えており、これらの進展を支えています。アトミック合成可能性とは、1つの取引が複数のスマートコントラクトへの呼び出しを伴い、そのすべての部分が成功した場合にのみ取引が成立することを意味します(カウンターパーティリスクを低減し、清算機関の資源を解放します)。しかし、エコシステム内の断片化は依然として課題です。統合台帳のアプローチを通じて公的ネットワークと民間ネットワークを橋渡しすることで、透明性、中立性、競争力、オープン性を損なうことなく、拡張性と安全性を備えたソリューションを提供できます。このインフラは分散型金融(DeFi)を支え、従来の金融サービスを再構築する許可不要のアプリケーションを可能にします。
イノベーションと強固な規制監督を組み合わせたシステムを構築することで、世界の金融システムはデジタル資産を活用し、成長と包摂の新たな機会を切り開くことができます。
3. デジタル信頼:取引における信頼の再定義
信頼は金融の礎であり、デジタル社会においては、その在り方も進化しなければなりません。自己主権型アイデンティティ(SSI)(個人が自らの個人データを管理できるようにする分散型デジタルIDのこと)や自己管理型ソリューション (仲介者への依存をなくす、またはその依存度を下げた形で、利用者がデジタル資産を保管・管理できるシステム)は、個人や組織が自らのデータや資産を確信と自律性をもって管理できるよう後押ししています。
銀行は、データ交換のための安全で信頼できる枠組みを構築するための専門知識を活かし、この変革を主導するのに独自の立場にあります。しかし、依然として課題があります。サイバー犯罪の世界的なコストは50%増加すると予測されており、2024年の9.22兆ドルから2028年には13.82兆ドルに達する見通しです。このことは、場当たり的な対策ではなく、脆弱性に対処する包括的なデジタル信頼の枠組みが緊急に必要であることを浮き彫りにしています。
デジタル信頼の枠組みを採用することで、金融機関は摩擦を減らし、顧客エンゲージメントを高め、信頼に基づく取引の新時代を築くことができます。同時に、安全で利用者中心のやり取りに関する世界的な基準を策定することは、バランスの取れた包摂的なエコシステムの基盤を築くことになるでしょう。
4. 量子耐性:金融の未来を守る
量子コンピューティングは、これまで解けなかった問題の解決策を提供し、計算のあり方を変革する態勢にあります。しかし同時に、今日の金融システムを守る暗号化手法にリスクをもたらすものでもあります。
量子コンピュータは、広く使われている暗号プロトコルを破る可能性を秘めており、取引、データ、デジタル資産の安全性を脅かします。完全に機能する(耐障害性のある)量子コンピュータは、米国国立標準技術研究所(NIST)によれば、2030年代初頭に利用可能になると予想されています。量子コンピューティングがデジタル通信と金融データに現実的な脅威をもたらすかどうかは、「もしも」の問題ではなく「いつ」の問題です。「今収集して後で復号する(Harvest now, decrypt later)」型の攻撃は、すでに始まっている可能性があります。
これに対処するため、金融機関は、耐量子暗号(PQC)や量子鍵配送(QKD)を含む量子耐性暗号技術の導入を進めています。これらの手法は、量子を用いた攻撃に耐え、重要インフラを保護するように設計されています。

HSBCによる、トークン化された金を対象とした量子耐性暗号に関する最近のパイロットプロジェクトは、金融機関がこれらの課題に向けてどのように備えているかを示しています。同社の試験により、ブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)は量子による脅威に対して脆弱であるものの、システム全体を刷新することなく、暗号化を適応させてレジリエンスを確保できることが実証されました。
例えば、NISTが2024年に初の耐量子暗号標準を導入したことは、世界的な影響をもたらす重要な進展を示しています。これらの動きは、国際協力とともに、量子時代の到来に向けて金融セクターを備えるうえで極めて重要です。
AI、デジタル信頼、デジタル資産、量子耐性技術の融合は、世界の金融にとって転換点となります。AIと量子を組み合わせることで、生産性の向上とエネルギーコストの削減が実現します。ディープフェイクやあらゆる種類の詐欺への対策には、デジタル信頼が鍵となります。これら4つの柱は互いに深く結びついており、効率性、安全性、適応力を優先する未来を形作ります。
この枠組みの中で、フィンターネット(金融と相互接続されたデジタルエコシステムの融合)のような概念は、並行して絡み合う道筋を示しており、機会と課題の両方をもたらします。これらの要素が実際の応用においてどのように結びつくかを探ることは、この歩みの中心であり続けてきましたし、今後もそうあり続けるでしょう。
世界経済フォーラムは、世界の金融システムをどのように改善しているのでしょうか?
金融・通貨システムセンターは、持続可能性や強靱性からイノベーションやデジタル化に至るまで、世界の金融システムにおける変革を理解するため、リーダーを結集させています。
協力と知見を促進することで、同センターはパートナーが金融システムを長期的な経済の安定と共有された繁栄に沿わせる支援を行っています。
これらの技術が進化するにつれ、金融システムの運営方法が再定義され、信頼、アクセシビリティ、イノベーションが重視されるようになります。サイバーセキュリティや規制の整合性といった課題に対処しつつ、その潜在能力を最大限に引き出すには、産業や国境を越えた協力が不可欠となるでしょう。
2035年への道のりは、複雑であると同時に有望です。イノベーションを推進し、パートナーシップを育み、進歩を共通の価値観に沿わせることで、金融セクターは世界の繁栄と信頼の新たな時代を切り開き、すべての人に利益をもたらす未来を形作ることができます。



