1996年以降、FRBの政策担当者は概ねインフレ率を2%前後に設定してきた。インフレ率が継続的に低すぎると、経済にリスクをもたらす可能性があるためだ。
しかし、2%という目標を裏付ける強力な理論的・実証的根拠はない。一部の報告によると、1980年代にニュージーランドの財務相が何気なく述べた発言に由来するという。
インフレ率のような経済指標に目標を設けると、その指標の有用性が損なわれるという懸念がある。
FRBの主な目標は物価の安定を確保することだ。ある程度のインフレがあれば、景気を刺激する必要が生じた際に金利を引き下げられる。
何が数字の2をこれほど特別にしているのだろうか?中央銀行の総裁にとっては実に重要な数字だ。そして、その後ろにはパーセント記号が付く。
それは事実上の、あるいは公式の目標インフレ率として、少なくとも1990年代以降、米連邦準備制度理事会、欧州中央銀行など多くの同様の機関が掲げてきた。
しかしここ数カ月、米国などでインフレが急上昇し、FRBと各国の同様の機関は、インフレ率を目標水準に近づけるため、金利を大幅に引き上げざるを得なくなった。
私は、インフレ率のような主要経済指標の動向を研究してきた経済学者として、低く安定したインフレが経済の健全な機能に不可欠だと考えている。では、なぜ目標は2%なのか。3%ではだめなのか。ゼロではどうだろうか?
急上昇するインフレ
米国のインフレ率は2022年のピークを7月に記録し、年率9.1%に達した。消費者物価がこれほど速く上昇したのは、40年以上前の1981年以来だった。
2022年3月以降、FRBはインフレを抑制しようと積極的に取り組んできた。そのために、FRBは政策金利を引き上げてきた。2022年3月に実質ゼロ%だった金利は、現在4.25%から4.5%の範囲にある。
大半の経済学者は、インフレ率が8%に近づくのは高すぎると考えているが、適切な水準はいくらだろうか。物価上昇がそれほど問題なら、インフレ率ゼロを目指せばよいのではないか?
物価の安定を維持する
低い失業率と並ぶFRBの中核的な使命の一つは、物価の安定を維持することだ。
1996年以降、FRBの政策担当者は概ねそうした立場を取ってきた。つまり、そのための目標はインフレ率2%前後だという立場だ。2012年1月、当時のベン・バーナンキ議長はこの目標を公式に定めた。また、後任の2人も、現議長のジェローム・パウエル氏を含め、FRBがインフレ率2%を適切な目標水準とみなしていることを明らかにしてきた。
しかし、ごく最近まで問題だったのはインフレ率が高すぎることではなく、低すぎることだった。2020年、インフレ率がわずか1%を上回る程度だったとき、パウエル議長はそれを懸念材料だと指摘し、FRBは2%を上回る水準まで上昇することを容認すると述べた。
FRBがインフレ率を押し上げようとするのは直感に反すると感じる人も多いだろう。しかし、インフレ率が継続的に低すぎると、経済に深刻なリスクをもたらす可能性がある。
こうしたリスク、すなわちデフレ・スパイラルを引き起こすことが、FRBのような中央銀行がインフレ率ゼロを目標に決して採用しない理由だ。
デフレの危険性
国内総生産(GDP)が減少する景気後退期に経済が縮小すると、生産されるあらゆるものへの総需要も減少する。その結果、物価は上昇しなくなり、下落し始めることさえある。これはデフレと呼ばれる状態だ。
デフレはインフレの正反対で、物価が時間とともに上昇するのではなく、下落する。最初は、物価の下落や低下は良いことのように思える。同じものをより安く買えて、購買力も高まるのだから、そう望まない人がいるだろうか?
しかし、デフレは実際には経済に深刻な打撃を与えうる。大型連休中のセールのような一時的な値下がりではなく、数週間、数カ月、あるいは数年にわたって物価が下がると人々が感じると、後でもっと安く買えることを期待して、実際に購入を先延ばしする。
たとえば、現在6万米ドルの新車を買おうと考えているとする。デフレ期には、もう1カ月待てば、この車を5万5,000ドルで買えると気づく。その結果、今日その車を買わない。ところが1カ月後、車が5万5,000ドルで販売されるようになっても、同じ理屈が当てはまる。来月さらに1カ月待てば5万ドルで買えるのに、なぜ今日車を買うのだろうか。
こうした支出の減少は生産者の収入を減らし、失業につながる可能性がある。さらに、企業も物価が一段と下がると見込んで、支出を先延ばしする。この負の連鎖、つまりデフレ・スパイラルは、失業の増加、さらなる物価下落、いっそうの支出減少を招く。
要するに、デフレはさらなるデフレを引き起こす。米国史の大半において、デフレの時期は通常、景気後退と同時に起きている。
何事もほどほどに
デフレの罠を避けるには、ある程度のインフレが必要だということは明らかだろう。では、どれくらい必要なのか。1%、3%、あるいは4%だろうか?
その可能性はある。インフレ率の目標をちょうど2%とすることに、強力な理論的・実証的根拠はない。その由来はやや不明確だが、一部の報告によると、単にニュージーランドの財務相が何気なく述べた発言がきっかけだったという。1980年代後半、テレビのインタビューでのことだ。
さらに、インフレ率のような経済指標に経済目標を設けると、その指標の有用性が損なわれるとの懸念もある。イングランド銀行に勤務していた経済学者チャールズ・グッドハートは、自身の名を冠した法則を提唱した。「測定指標が目標になると、もはや優れた測定指標ではなくなる」というものだ。
FRBの中核的な使命は物価の安定であるため、目標の数字そのものは本質ではない。重要なのは、景気刺激が必要な場合に金利を引き下げる余地を確保できるだけ高く、かつ消費者の購買力を大きく損なわない程度に低いインフレ率へと、FRBが経済を導くことだ。
多くのことと同じように、肝心なのはほどほどにすることだ。



