ASPIRESプロジェクトは、学問とジェンダーに関する固定観念が、女子が物理学の高等教育に進むうえで障壁となっていると指摘する。
数学の要素があるため女子は物理を学びたがらないと考える人は多い。しかし、数学のAレベル試験受験者の39%は女子であるのに対し、物理では23%にとどまる。
教師や親からの支援が不足していることも、物理を選択する女子の数を減らしている。
ジェンダーやSTEM科目に対する認識を変えることは、学校内外で女子に物理を開かれた科目にするための重要な一歩だ。
「私自身の経験から言うと、物理は女子が好んで選ぶ科目ではありません。やりたがらないのです……難しい数学がたくさん出てくるので、女子はそれを避けたいのだと思います」と、英国政府の社会的流動性委員会の委員長で中等学校の校長でもあるキャサリン・ビルバルシン氏は、2022年4月27日、下院科学技術委員会で述べた。
このような発言は非常に残念だ。女子がAレベルや大学で物理を学ばない理由は複数あるが、「数学をやりたくないから」はその一つではない。
むしろ、教師や親からの支援が少ないことや、こうした科目を一般に誰が選ぶかについての固定観念が理由に含まれる。
成績を比べる
ビルバルシン氏は、「難しい数学」が女子の物理選択を妨げていると述べた。だが、もしそうなら、数学を選ぶ女子もずっと少ないはずだ。ところが2019年、数学のAレベル試験受験者の39%は女子だったのに対し、物理では23%だった。このことから、女子が物理を選ばない理由は、数学よりも物理そのものに関係していると分かる。
さらに、数学と物理では女子も男子も同程度の成績を収めている。2019年には——標準試験が実施された最後の年——物理のAレベルでA*を取得した女子は8.5%、男子は8.8%だった。A評価を取得したのは女子の28.7%、男子の27.6%だった。GCSEの結果にも同じ傾向が見られる。しかし、より高いレベルで科学を学び続けることを選ぶのは、女子より男子のほうが多い。
ASPIRESプロジェクトは、10歳から成人初期までの生徒たちを追跡し、科学に関する志望を調査してきた。このプロジェクトは中等学校を通じて、科学者になりたいと答える割合は女子より男子のほうが高いことを明らかにした。この差は中等学校の在学中に広がり、最も大きな開きは13年生で見られた。
教師が生徒に寄せる期待は、どの生徒がより高いレベルで物理を学ぶかに大きな影響を与えていることを示す証拠がある。ASPIRESプロジェクトは10歳から18歳までの間、教師が自分に科学で良い成績を期待していると答え、また教師が自分の科学の理解度に関心を持っていると感じる割合は、女子より男子のほうが大幅に高いことを明らかにした。女子は男子と同程度の成績を収めているにもかかわらず、物理を学ぶには「自分は十分に賢くない」と感じることが多いと、調査で分かった。
ジェンダーに関する固定観念
物理では、男子は女子より生まれつき優れているという固定観念がある。そして、こうしたメッセージは、意図的か無意識かを問わず、学校や家庭、メディアを通じて今も若者に伝えられている。よく知られた例として、テレビ番組『ビッグバン★セオリー』がある。男性の物理学者とエンジニア4人と、少し抜けた女性の隣人が登場する。
この調査結果は、英国物理学会(IOP)の「Limit Less」報告書によっても裏付けられている。同報告書は、女子が物理は男子により向いているとよく言われることを明らかにした。
IOPによる別の報告書は、公立・私立のいずれの学校制度でも、共学より女子校で物理を履修する女子の割合が高いことを示している。ジェンダーに基づくメッセージが弱まる環境では、女子の参加率が上がる。女子が物理に参加するうえでの障壁を取り除くことは極めて重要だ。私たちは、
サウスイースト物理学ネットワーク(SEPnet)に参加している。これは、多様性を重視しながら物理学の卓越性を促進するため、9つの大学の物理学部門が連携する組織だ。
SEPnetでは2017年に「固定観念を打ち破る」プログラムを立ち上げ、科目選択に影響するジェンダーの固定観念への生徒の意識を高め、それに立ち向かう力を身につけられるよう支援している。また、ジェンダーに関する固定観念や言葉遣いがもたらす害について教師の理解を促し、それに対処するための資料やツールを提供する教員研修も行っている。
IOPは、物理学におけるジェンダー不均衡に取り組む複数のプロジェクトを実施している。「Limit Less」キャンペーンは、あらゆる背景を持つ若者が物理学を通じて可能性を発揮できるよう支援する。「ジェンダーバランス改善プロジェクト」は、学校と協力し、学校環境全体のバランスを改善する方法を特定する研究プロジェクトだ。
こうした取り組みにもかかわらず、ビルバルシン氏の発言は、女子も男子も物理を学ぶ能力があり、本質的に関心を持っているという考えを当たり前のものにするまでには、まだ長い道のりがあることを示している。社会全体として、物理などのSTEM科目とジェンダーの関係についての認識を変えていく必要がある。

