昨年のダボス会議で、 安倍晋三首相は、日本経済の活性化への取り組みを改めて表明する機会を捉え、その一環として、労働力に占める女性の割合を高めることを掲げた。それ以来、野心的な「ウィメノミクス」政策には批判も寄せられており、率直に言えば、私も懐疑的な見方を示した最初期の経営幹部の一人だった。政権は、2020年までに企業の指導的地位の30%を女性が占めることを目指している。これは、ほぼあらゆる国際的基準に照らしても大胆な日程だ。
しかし、誤解のないように言っておきたい。今後5年以内に、女性が経営幹部職の15%、20%、あるいは30%という恣意的な基準を超えるかどうかは、本質的な問題ではない。安倍氏の取り組みは、正しい方向への重要かつ切実に必要な一歩であり、私はその意図と、意欲的な目標が示す方向性を称賛する。
計画の大胆さは、巧みなコミュニケーション戦略でもある。もし1%、5%、あるいは10%の穏健な「改善」を求めていたなら、ウィメノミクスは今なお一面記事を飾り、世界的な注目を集めていただろうか。おそらくそうではない。
女性リーダーはどこにいるのか?
日本では、労働力に占める女性の割合が段階的に上昇してきた。とりわけ、この数四半期は増加が顕著だ。実際、働く日本人女性の割合は、フランスや米国の女性の割合を上回っている。(経済協力開発機構の 2014年の統計 によると、日本人女性の就業率は63.4%で、米国の63%、フランスの61.2%を上回る。)日本に歴史的に根付いていた、典型的な「サラリーマン」と専業主婦という分業は何年も前に姿を消し、二度と戻ることはない。
しかし、働く日本人女性のうち管理職に就く人はごく少数で、男女間の賃金格差は先進工業国の中でも最大級だ。安倍氏が変えようとしているのは、まさにこの状況である。従業員300人超の全企業に、女性管理職の数値目標を設定するよう義務づける法案を提出している。
基準を示す
ルノー・日産アライアンスには、この分野で豊富な実績がある。私たちは、女性の登用状況について毎年最新情報を公表している数少ない企業の一つだ。従業員や採用候補者が、私たちの進捗を確認できるようにしている。
前四半期、 私たちは 、2013年度に日産の世界全体の管理職に占める女性の割合が10.6%となり、2012年度の10.3%から上昇したと発表した。日本の日産では、該当する職位に占める女性の割合は7.1%で、前年の6.8%から上昇し、2004年度の水準(1.6%)の4倍を超えた。日産は、世界全体と同じ比率となるよう、この数値を2017年までに10%に引き上げることを目指している。
目標の10%を達成するため、私たちは女性向けのキャリア開発・メンタリングプログラムを設けた。在宅勤務の取り組みを導入し、従業員向け保育施設も拡充してきた。日産は現在、厚木のテクニカルセンターで、国内最大級の企業内保育施設の一つを運営している。
日産は国内市場で業界のベンチマークとなっており、女性管理職の割合は日本の大手製造業の全国平均の2倍を超える。東京証券取引所は、女性の支援と登用を評価し、日産を過去2年連続で「なでしこブランド」に選定した。この評価は、国内有数の大学を卒業する「優秀な」女性人材を採用する力にも直ちに結びついている。
日本の日産では、管理職に占める女性の割合を高めるために特別な取り組みを進めてきたが、私たちの多様性推進の取り組みは世界規模で行っている。日産のパートナー企業であるルノーでは、2013年に世界全体の管理職に占める女性の割合が18.4%となり、前年の17%から上昇した。同社の世界的な重要ポスト2,000人のうち、女性は19.3%を占め、2012年の17%から上昇した。
これらの数字は業界全体より良好だ。しかし、それで十分だろうか。そうではない。男女間の格差解消にはまだほど遠く、これは今も私の最優先課題の一つだ。

ジェンダー平等に取り組む理由
才能ある女性を採用し、昇進させることは、社会にとって正しいだけでなく、日本にとって経済的にも不可欠だ。内閣府によると、日本の人口は2060年までに少なくとも30%減少し、2013年の1億2,700万人から、半世紀足らずで8,700万人になる。一方、総人口に占める高齢者の割合は、同じ期間に25%から40%近くに上昇する。最も支援を必要とする市民を支えられるのは、働く年齢にある日本人全員が十分に貢献する場合に限られる。
男女間の格差を解消することは、顧客にとっても正しい取り組みだ。 新車購入の80%で、女性が「影響力を持つ」とされている。コンサルティング会社フロスト&サリバンによると、女性は車を自ら購入するか、男性の購入に対して「拒否権」を持つ。世界全体の新車購入5件のうち4件で、女性がこうした影響力を持つという。
女性にとっての魅力を高めるため、日産は昨年、「Ladies First」販売店プログラムを開始した。Ladies First販売店では、通常の2倍または3倍の女性スタッフを配置している。フラッグシップ店の府中店には、洗練された内装、授乳室、子どもが遊べる広々としたスペースがあり、女性や初めて車を買う人にとって、より親しみやすい買い物体験を目指している。日産は2015年度末までに、Ladies First販売店を日本全国に300店舗展開する。
フランスでは、エンジニアリングとデザインの段階から女性の参画を進めている。アライアンスとして初めて、ルノー・キャプチャーの製品チームを男女同数で構成した。クロスオーバー車のエンジニアリング、デザイン、マーケティング、販売を担うチームメンバーの半数が女性で、ルノー車として最も高い割合だった。キャプチャーは現在、欧州で最も人気のあるコンパクトクロスオーバー車だ。
女性の採用は、日本にも、私たちの会社にも、世界経済にも有益だ。取締役会に少なくとも1人の女性がいる企業は、女性がいない企業より株主資本利益率が高い。 クレディ・スイスの報告書によると、2005年から2011年までのデータを分析した結果、そうした傾向が示された。
私たちは、安倍政権が意欲的な目標を堅持し、進捗状況を透明性のある形で公表するよう期待している。ルノー・日産、そして日本が男女間の格差を完全に解消する日を楽しみにしている。
著者:カルロス・ゴーンは、世界経済フォーラムのジェンダー・パリティ・プログラムのパートナーであるルノー・日産アライアンスの会長。
画像:2015年1月5日、東京証券取引所(TSE)の大発会で、日本の株式市場の成功を祈願して鐘を鳴らす前に、式典用の着物を着た女性が写真撮影に応じている。東京。REUTERS/Yuya Shino
