世界の発展に根を下ろす従来型エネルギー生産者の積極的な参加なくして、グリーン移行は実現できない。
アゼルバイジャンのエネルギー戦略は、再生可能エネルギー事業と革新的なグリーンインフラを導入し、国営石油会社を統合型の国際エネルギー企業へ転換することだった。
「対話の精神」をテーマに、スイス・ダボスで開催される世界経済フォーラムの2026年年次総会では、環境保護と経済成長をいかに両立させるかに焦点が当てられる。
世界のエネルギー情勢は転換点を迎えている。低炭素の未来を目指す世界的な競争のなかで、エネルギー移行は環境上の必要性であると同時に経済の変革となっており、従来型エネルギー生産者も関与しなければならない。彼らのインフラ、専門知識、投資能力は、世界のエネルギー安全保障に不可欠だ。
アゼルバイジャンはこの考え方に沿って、再生可能電力の発電を拡大し、送電網を近代化し、全国で「グリーン復興」を進めることで、エネルギー安全保障を守りながら炭化水素生産国が脱炭素化を進められることを示してきた。
世界のエネルギー動向と行動の必要性
安定した需要の増加を背景に、世界のエネルギー供給は拡大し、2014~2023年に13%増加した。
工業化、人口増加、経済成長により、今後25年間で需要はさらに拡大する。特に、経済協力開発機構(OECD)に加盟していない新興国やアジア諸国で増加が見込まれる。

この成長は、世界の二酸化炭素排出量を77%増加させた。その増加は1990年以降に起きており、協調した行動が急務であることを浮き彫りにしている。

これを受け、140カ国を超える国々が、世界の排出量の大半を対象とするネットゼロ目標を掲げている。現実的なアプローチには、既存システムの環境負荷を抑えながら、クリーンエネルギーと効率化を急速に拡大することが含まれる。
気候変動に国境はない。公正な移行には、各国の協力が欠かせない。
世界経済の変化と地政学的不確実性のなか、エネルギー安全保障と気候変動へのレジリエンスはアゼルバイジャンの優先課題となった。こうした状況を踏まえ、システムの信頼性や経済の安定を損なわずに再生可能エネルギーを統合する移行の方針が形づくられている。
同国は、「クリーンな環境とグリーン成長」という目標を「アゼルバイジャン2030」戦略に組み込み、再生可能エネルギーの開発を重視している。同国のエネルギー効率基金は、環境負荷の低減と産業効率の向上に取り組む事業を支援し、融資、助成金、補助金を提供している。
アゼルバイジャンは炭化水素産業を引き続き活用する一方で、再生可能エネルギーの開発も並行して進めてきた。
2007年以降、電力の純輸出国である同国は、発電施設の近代化と送電網の強化によって、エネルギー安全保障をさらに高めてきた。2023年までに発電量は293億キロワット時(kWh)に達し、過去10年間で25.5%増加した。


2016年の戦略ロードマップによると、政府はエネルギーミックスを多様化し、再生可能エネルギーの発電を増やす計画だ。アゼルバイジャンの陸上再生可能エネルギー資源の技術的ポテンシャルは135ギガワット(GW)、洋上のポテンシャルは157 GWである。
このため同国は、発電量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに約40%に引き上げることを目指している。
再生可能エネルギーインフラとグリーン回廊の整備
過去5年間、アゼルバイジャンは再生可能エネルギーの導入で目に見える進展を遂げてきた。
ガラダグ太陽光発電所(230メガワット(MW)):2023年に稼働を開始した、カスピ海地域最大の太陽光発電施設。
カラバフと東ザンゲズールの水力発電: 32基が270 MWの設備容量で稼働を開始し、500 MWへの拡張が計画されている。
キジ・アブシェロン風力発電所(240 MW):ACWA PowerとSOCARが開発中で、2025年後半にフル稼働する予定。
ビラスバル(445 MW)およびネフチュチャラ(315 MW)の太陽光発電事業:COP29で資金調達を完了し、年間17億kWhを超える発電を見込む。
シャファグ太陽光発電所(240 MW):解放地域で初の産業規模の太陽光発電事業。年間発電量は5億kWhを見込む。
アゼルバイジャン共和国国家統計委員会によると、過去5年間で水力発電所の発電量は2.8倍に増加し、太陽光発電量は12.6倍という大幅な伸びを記録した。

各国の移行戦略は、国境を越えて地域の脱炭素化にも寄与し得る。戦略的な地理的位置、既存の送電網、確立されたエネルギー連携を有するアゼルバイジャンは、カスピ海地域と、さらには中央アジアや欧州を結ぶ架け橋となる独自の立場にある。
こうした背景から、アゼルバイジャンは3つの主要なグリーンエネルギー回廊の開発を積極的に進めている。
カスピ海・黒海・欧州回廊。
アゼルバイジャン・トルコ・欧州回廊。
中央アジア・アゼルバイジャン・欧州回廊。
2022年、ブカレストでアゼルバイジャン、ジョージア、ルーマニア、ハンガリーがグリーンエネルギーの開発と送電に関する戦略的パートナーシップ協定に署名したことは、欧州へのグリーンエネルギー回廊の開設に向けた重要な一歩となった。
3つのグリーンエネルギー回廊を合わせると、最大10 GWの再生可能電力を送電できる可能性があり、国境を越えたクリーンエネルギー送電の将来の拠点として、アゼルバイジャンの役割を強化する。
国営石油会社の統合型エネルギー戦略
アゼルバイジャン共和国国営石油会社(SOCAR)は、エネルギー安全保障、移行に向けた取り組み、デジタル化、イノベーションを統合した先見性のある戦略を進めている。
デジタル変革の推進、データに基づく意思決定の強化、業務の最適化、全社的な効率向上でも、顕著な進展が見られる。
ペトキム石油化学コンビナート:インダストリー4.0の導入が評価され、世界経済フォーラムのグローバル・ライトハウス・ネットワークから「未来の工場」に認定された。
STAR製油所:グローバル・ライトハウス・ネットワークで初めて認定された石油精製所で、操業効率と持続可能性を実証している。
SOCARカルバミド工場:AIを活用した生産最適化(2024~2025年)により、ガス、電力、水の使用量を削減し、1,300万ドルの付加価値を生み出した。
世界経済フォーラムはクリーンエネルギーへの移行にどう取り組んでいるのか?
SOCARの脱炭素化とグリーン化への取り組み
2023年の国連気候変動会議(COP28)で、SOCARは石油・ガス脱炭素化憲章に署名し、その運営委員会に加わった。同社は意欲的な脱炭素化目標を掲げており、以下が含まれる。
2030年までに通常のフレアリングをゼロにする。
2030年までに上流部門の排出原単位を30%削減する。
2035年までに企業の排出原単位を30%、絶対排出量を20%削減する。
2035年までに上流部門のメタン排出量をほぼゼロにすることを目指す。
2050年までにネットゼロを達成する。
SOCARは、デジタル技術とデータに基づくソリューションを通じてこれらの取り組みを支援する。その一つであるメタンAIプラットフォームは、石油・ガス脱炭素化憲章で取り上げられた。同プラットフォームは複数の情報源から得た資産データを一つのシステムに統合し、国連の石油・ガスメタン・パートナーシップ(OGMP)に沿った報告、リアルタイム監視、迅速なメタン削減を支援する。
2024年、SOCARはOGMP 2.0に参加し、より高精度なメタン排出量の算定と、バリューチェーンの透明性向上に取り組むことを約束した。同年、SOCAR Green LLCを設立し、より広範な移行を支援するグリーンおよび低炭素プロジェクトを管理している。
2025年3月、同社はグリーンファイナンスの枠組みをさらに強化するため、発行した。SOCAR Greenを通じた再生可能エネルギーおよび低炭素投資に充てる資金として、バクー証券取引所で5年物グリーンボンド2億ドルをクーポン率6%で発行した。
公正で均衡の取れたエネルギー移行の実現
エネルギー移行は現実的で、包摂的かつ公平でなければならない。再生可能エネルギーの導入が拡大する一方、新興市場を中心に、資材の制約や出力の間欠性の問題が残っている。
国際エネルギー機関の最新データによると、2024年時点で世界では推定7億3,000万人が依然として電力を利用できなかった。これは2023年よりわずか1,100万人少ないだけで、2025年の暫定推計も同様の傾向を示している。必要なのは現実的で実現を後押しする政策だ。
規制には、次のことが求められる。
生産を罰するのではなく、イノベーションを促す。
炭素回収、グリーン水素、エネルギー効率化ソリューションなどのクリーン技術を拡大する。
責任ある生産と消費を促進する。
公正な移行は脱炭素化と経済発展のバランスを取り、どの地域社会も取り残さないようにする。従来型エネルギー企業には、持続可能でレジリエントかつ包摂的なエネルギーシステムへの転換を主導する責任がある。
エネルギー安全保障と気候目標の両立
世界的なエネルギー移行は、環境上の要請であると同時に、地政学的・経済的な変化でもある。炭化水素から単純に脱却するのではなく、既存の生産者とインフラが引き続き不可欠となる段階だ。
アゼルバイジャンの近年の取り組みは、この現実を反映している。再生可能エネルギーの発電を拡大し、全国でグリーン復興を進め、新たな越境エネルギー回廊を開発することで、同国は国内の移行を地域のエネルギー市場のより広範な変化に合わせている。
SOCARの脱炭素化への取り組み、再生可能エネルギー投資、そしてそれを可能にするインフラでの役割が、この方向性を後押ししている。
従来型の石油・ガス生産者から統合型エネルギー企業へのSOCARの進化は、既存の事業者がエネルギー安全保障と気候目標をいかに前進させられるかを示している。同様の圧力に直面する他のエネルギー生産国にとって、現実的な移行モデルとなる。
