エネルギーをめぐる経済の不確実性が高まると予想されるなか、欧州では薪の価格が急騰しています。
燃料として木質ペレットを使うことへの関心がすでに高まるなかで、薪の需要も増えています。
木材価格の上昇は、サプライチェーンの問題や地政学的緊張が引き起こしている歪みの一例です。
ある国の大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻を支持しており、欧州へのエネルギー供給が途絶えたことを武器化しているとして、最近、薪を割る自分の姿を撮影させました。「欧州の人々を寒さに凍えさせはしない」と、にやりと笑いながら語りました。「兄弟たちを助けよう。」
義母は彼よりずっと先を行っていました。プラハの自宅用に薪ストーブを買ったばかりで、燃料にする丸太を備蓄していたのです。これは珍しいことではなく、また、一部の人々が望むほど意気消沈するようなことでもありませんでした。厳しい状況に対する、ただ現実的な対応です。
ある意味、欧州で薪の需要が急増していることは、先行経済指標として機能しています。同地域はエネルギー不足に備えています。主要な供給源であるロシアからのガスパイプライン供給が、ウクライナをめぐる地政学的な対立のなかで途絶え、即座に利用できる代替手段もないことから、今後は先行きが不透明な状況が予想されます。
ドイツでは、「薪、木質ペレットなど」の価格が前年同期比で86%上昇しました。ブルガリアでは、薪の価格がほぼ倍増したことを受け、最近、EU域外への木材輸出を停止する決定が下されました。
最近、ある人がポーランドのラジオ局に話したところでは、今では薪を買うより古い家具を解体して燃やすほうが安くつくかもしれないとのことです。オランダでは、夏が終わる前から供給業者の在庫が底をつき始めていました。インフレ率が比較的穏やかなスイスでさえ、薪の価格は先月約26%上昇しました。

この薪の備蓄が進む一方で、石炭に代わる、よりクリーンな燃料として木質ペレットを使うことへの関心は、すでに地域で高まっていました(EUでは昨年、ペレット消費量が過去最高を記録)。しかし、この市場分野の供給全体は最近、ロシアから輸入される木質ペレットに対するEUの禁輸措置によって逼迫しました。
暖房用の丸太や燃料用ペレットだけが、地政学の影響を受けている木材製品ではありません。木材パルプの製造に必要なエネルギーの価格が上がり、各地でトイレットペーパーの価格が高騰しています。ドイツのあるトイレットペーカーメーカーは、パルプの代替としてコーヒーかすを使う試みを始めました。
生活費と環境コスト
木材は、サプライチェーンの乱れや紛争が、生活費危機が世界の多くに影響を及ぼすなかで、あらゆるものの価格を歪めている状況を、とりわけ顕著に示しています。パンから中古車に至るまでです(スイスでは先月、中古車価格が16%上昇しました)。
異例の木材需要の高まりは、経済問題にとどまらず、環境にも影響を及ぼします。
ハンガリーでは、薪の需要増加に対応するため伐採規制を緩和したことを受け、先月、数千人が参加する抗議活動が起きました。参加者のなかには、文字どおり木に抱きつく人々もいました。

木質ペレットも懸念の種となっています。燃料として木材を燃やすことは、使用した木を植え直す限りカーボンニュートラルだと喧伝されてきましたが、その方法が実際にどれほどクリーンで持続可能なのかについて、重大な疑問が提起されています。
研究によると、エネルギー生産のために木材を燃やすと、発電量1キロワット時あたりの二酸化炭素排出量は化石燃料より多く、排出分を吸収できるよう新たな木を速やかに育てることが不可欠です。
「エネルギー利用のための森林伐採は持続可能ではなく、エネルギー自立にもつながらない」と、ドイツ選出の欧州議会議員が最近、発言したと報じられました。
薪への需要には、ほかの影響もあります。木材を燃やすことで生じる大気汚染は問題となり得るうえ、薪の盗難も問題になっています。より広い視点では、木材価格の高騰は過剰伐採や違法伐採を促しかねません。また、燃やした木材は、長期間にわたって炭素を貯蔵できる建築用材として使えなくなります。
それでも、丸太を安定して供給することは、この冬のエネルギー使用を抑え、欧州をロシアからのエネルギー自立に近づける取り組み全体にとって重要となりそうです(欧州企業はすでにエネルギー使用量を目に見える形で削減していますが、家庭での習慣の変化は把握がより難しいことが分かっています)。
たとえばフランス政府は、行動の変化を通じてエネルギー使用量を10%削減するよう呼びかけており、近隣諸国と同じく、薪の販売も増加しています。
もちろん、この国が同じ状況を経験するのは今回が初めてではありません。しかも、それほど昔のことでもありません。
1974年、別の種類のエネルギー危機のさなか、フランスのヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領は、凍えるようなエリゼ宮を薪だけで暖めることにして、模範を示そうとしました。昼食に誰が訪ねてくるとしてもです。
木材、持続可能性、エネルギー需要に関する関連記事
背景をさらに知るため、世界経済フォーラムの「Strategic Intelligence」プラットフォームから関連記事をご紹介します。
木質ペレットは燃料としてどれほど「環境に優しい」のでしょうか。この記事によると、多くの科学者や自然保護団体は、ペレットを燃やすことによる汚染は石炭と同程度だと述べています。また、代わりの木が育つまで安心して待てる時間は、もう残されていないかもしれません。 (Wired)
「木材は無限に役立つ」。この研究によると、米国では木造住宅が大量の炭素を貯蔵しています。そのため、将来の建設量の推計は、同国の総炭素貯蔵能力を理解するうえで重要です。 (Science Daily)
薪による住宅暖房が一時しのぎではない地域もあります。インド・トリプラ州の村に住む人が書いたこの記事は、地元の人々にとって薪が実用面でも文化面でも重要であることを紹介しています。 (India Development Review)
この記事によると、ベルギー国民の約64%がエネルギー料金を払えなくなることを懸念しています。平均的な家庭の年間費用が前年の10倍に達すると見込まれるなかでのことです。 (Social Europe)
「停電の危険は現実にある」。ドイツの送電網規制当局の長官は、ガスが不足した際に、今年これまでに国内で購入された電気ファンヒーターがすべて稼働すれば、深刻な問題になりかねないと警告しています。 (Clean Energy Wire)
象徴的でありながら重要な動きとして、エネルギー節約に役立てるため、エッフェル塔をはじめとするパリの記念碑や公共施設が、今後は照明を早めに消すとこの記事は伝えています。 (Smithsonian Magazine)
欧州のエネルギー危機への政策対応について経済学者を対象に行ったこの調査では、石油・ガス企業の超過利潤への臨時課税案に半数近くが賛成し、消費者価格の上限設定には半数近くが強く反対したことが分かりました。 (LSE Business Review)
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