ほとんどの風力発電所は数十基、場合によっては数百基の風車で構成されており、それぞれの風の流れが互いに影響を及ぼすことがある。
しかしMITのエンジニアによると、風力発電所は個々の風車の制御を最適化する方法から離れ、代わりに風車群全体の気流をモデル化することで、発電量を増やせるという。
新しいシステムは、迅速かつ容易に導入できる可能性がある。
世界中のすべての風力発電所に導入されれば、年間の発電量を310億キロワット時以上増やせる。これは、風車を追加費用なしで3,600基増設するのに相当する。
世界の電力の5%超を生み出す風車は、ほぼすべてが個別に独立して稼働する設備であるかのように制御されている。実際には、その大半は数十基、場合によっては数百基の風車からなる大規模な風力発電所の一部であり、それぞれの後流が互いに影響を及ぼすことがある。
今回、MITなどのエンジニアは、新たな設備投資を必要とせず、風車群全体の気流をモデル化し、それに応じて個々の風車の制御を最適化することで、こうした風力発電所の発電量を増やせることを明らかにした。
個々の発電所における発電量の増加は、全体で約1.2%、風速が最適な場合で3%と、控えめに見えるかもしれない。しかし、このアルゴリズムはどの風力発電所にも導入でき、気候目標の前倒し達成に向けて、風力発電所の数は急速に増えている。世界の既存の風力発電所すべてで発電量が1.2%増えれば、風車を3,600基以上新設するのに相当し、約300万世帯に電力を供給できるほか、発電事業者の収益は年間約10億ドル増えると研究者らは述べる。しかも、実質的に費用はかからない。
この研究は、本日学術誌Nature Energyに掲載された。研究を主導したのは、MIT土木・環境工学科のエスター・アンド・ハロルド・E・エジャートン助教、マイケル・F・ハウランド氏である。
「既存の事業用規模の風車は、ほぼすべてが『貪欲に』、つまり個別に制御されています」とハウランド氏は言う。「貪欲に」とは、近隣の風車に悪影響を与えない独立した設備であるかのように、それぞれが自らの発電量だけを最大化するよう制御されていることを指すと説明する。
しかし実際には、風車は土地(陸上・洋上)の利用や、アクセス道路、送電線などのインフラに関する経済的な利点を得るため、風力発電所内で意図的に近接して設置されている。そのため、風車は風上にある別の風車が生み出す乱流を伴う後流の影響を強く受けることが多い。個々の風車の制御システムは、現在この要因を考慮していない。
「流体力学の観点からすると、風力発電所で風車を近接して設置するのは、しばしば最悪の選択です」とハウランド氏は言う。「総発電量を最大化する理想的な方法は、風車を可能な限り離して設置すること」だが、それでは関連コストが増加する。
そこで、ハウランド氏と共同研究者らの研究が役立つ。彼らは、大気中の風の流入と各風車の制御戦略に応じて、発電所内の各風車の発電量を予測する新たな気流モデルを開発した。このモデルは流体力学に基づく一方、予測誤差や不確実性を減らすため、風力発電所の運転データから学習する。既存の風力発電所の風車の物理的な配置やハードウェアを一切変更せずに、さまざまな風況における発電所内の気流と各風車の発電量を、物理法則に基づきデータで補強したモデルで分析し、その時々に各風車に最適な向きを見つけた。これにより、個々の風車だけでなく、発電所全体の発電量を最大化できる。
現在、各風車は風向と風速を常時感知し、内蔵の制御ソフトウェアでヨー角(垂直軸まわりの角度)を調整して、風にできるだけ正対するようにしている。しかし新しいシステムでは、たとえば、ある風車をその最大出力の位置からわずかにずらすことで、つまり個々の最大出力角度から20度ほどずらすことで、風下にある1基以上の風車の発電量が増え、最初の風車のわずかな出力低下を補って余りあることをチームは発見した。こうした相互作用をすべて考慮する集中制御システムを用いたところ、条件によっては風車群の出力が最大32%高まった。
インドの実際の事業用規模の風力発電所で数カ月にわたる実験を行い、まず予測モデルを検証した。その際、ヨー角の向きに関する幅広い制御戦略を試し、その大半は意図的に最適でないものとした。実際の発電所とモデルの両方で、最適でないものも含む多くの制御戦略を試すことで、研究者らは真の最適戦略を特定できた。重要なことに、モデルは試験した大半の風況について発電所の発電量と最適な制御戦略を予測でき、予測が発電所の真の最適運転戦略を捉えるという確信が得られた。これにより、新しい風況や新しい風力発電所に最適な制御戦略を設計する際、毎回ゼロから計算し直さずにモデルを活用できる。
続いて同じ発電所で数カ月にわたる第2の実験を実施し、モデルが予測した最適な制御だけを適用した。その結果、アルゴリズムが現実にもたらす効果は、シミュレーションで見られた全体的な発電量の改善に匹敵することが確認された。試験期間全体の平均で、システムはすべての風速において発電量を1.2%増やし、秒速6~8メートル(時速約13~18マイル)では3%増やした。
試験は1カ所の風力発電所で行われたが、研究者らによると、このモデルと協調制御戦略は既存または将来のどの風力発電所にも導入できる。世界の既存の風車群に当てはめると、全体の発電量が1.2%改善し、年間310億キロワット時以上の電力が追加で生み出されるとハウランド氏は推定する。これは風車を追加費用なしで約3,600基増設するのに相当する。さらに、風力発電所の運営者の収入は年間約9億5,000万ドル増えるという。
得られるエネルギー量は、風車の間隔や配置の形状、その場所における年間の風況の変化など、さまざまな要因によって風力発電所ごとに大きく異なる。しかし、いずれの場合も、チームが開発したモデルは、特定の場所で期待できる効果を明確に予測できるとハウランド氏は述べる。「風力発電所ごとに最適な制御戦略も期待できる発電量も異なります。だからこそ、風力発電所群全体の最適化に広く使える予測モデルの開発に取り組みました」と同氏は付け加える。
しかし、新しいシステムは迅速かつ容易に導入できる可能性があると同氏は言う。「追加のハードウェアを設置する必要はありません。実際にはソフトウェアを変更するだけで、大幅な発電量の増加が期待できます」。同氏によると、1%の改善でも、約100基を備える一般的な風力発電所なら、風車を1基減らしても同じ発電量を得られる。これにより、その1基の購入、建設、設置にかかる通常数百万ドルの費用を節約できる。
さらに、後流による損失を減らすことで、将来の風力発電所では風車をより密に配置できるようになり、風力発電の出力密度を高め、必要な土地(または海域)を減らせる可能性があると同氏は指摘する。出力密度の向上と設置面積の縮小は、温室効果ガス排出削減という喫緊の目標達成に役立つ可能性がある。この目標の達成には、陸上・洋上の両方で風力発電の大幅な拡大が求められている。
さらに、新たな風力発電所の開発が最も進んでいるのは洋上であり、「後流による損失の影響は、洋上風力発電所でかなり大きくなることが多い」と同氏は言う。つまり、洋上風力発電所の制御にこの新たな手法を用いた場合、その効果は大幅に大きくなる可能性がある。
ハウランド氏によると、ハウランド研究室と国際研究チームは、モデルのさらなる改良を続けるとともに、モデルから導き出す運転指示の改善にも取り組んでいる。自律的な協調制御を目指し、特定の条件下で可能な限り高い出力を追求している。
「この論文は風力発電の大きな前進を示しています」と、今回の研究には参加していないジョンズ・ホプキンス大学の機械工学教授、チャールズ・メネヴォー氏は言う。「変動の大きい風力資源のもとで、風車群を効果的に制御する新たな発想と方法論を示しています。最新の物理法則に基づく後流モデルを用いたヨー制御戦略を適切に実装し、データ駆動型の手法で補完すれば、風力発電所の出力を増やせることを示しています」。実際に稼働中の風力発電所で実証された点は、「提案された手法の今後の導入と規模拡大を促すうえで特に重要です」と同氏は述べる。
研究チームには、スペイン・ナバラ州のシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジー・イノベーション・アンド・テクノロジーのヘスス・バス・ケサダ氏、フアン・ホセ・ペナ・マルティネス氏、フェリペ・パロウ・ララニャ氏、インド・ハリヤナ州のReNew Power Private Limitedのニラジ・ヤダブ氏とジャスビプル・チャウラ氏、以前は同社に所属し現在は米国務省気候問題担当大統領特使室に在籍するバルン・シヴァラム氏、ならびにカリフォルニア工科大学のジョン・ダビリ氏が参加した。この研究はMITエネルギー・イニシアチブとシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーの支援を受けた。


