地政学的要因や需要の増加、持続可能性よりもエネルギー安全保障とレジリエンスを優先する国々の動きが、エネルギー転換の足かせとなっています。
2025年の世界経済フォーラム「持続可能な開発へのインパクト会合」では、専門家パネルが、こうした動向がエネルギー転換に及ぼす影響について議論しました。
パネルは、エネルギー安全保障の追求と足並みをそろえつつ、投資とイノベーションを促す明確な政策がエネルギー転換に必要だと結論づけました。
エネルギー転換は進んでいます。ただし、その歩みは緩やかです。
世界経済フォーラムのエネルギー転換指数2025のスコアは1.1%上昇し、過去3年間の平均の2倍となりました。しかし、化石燃料から再生可能エネルギーや低炭素燃料への移行には、政策、地政学、資本市場、テクノロジーなど、多くの逆風があります。
エネルギー安全保障とレジリエンスの確保は、今や地政学上の重要な優先課題となっています。需要の増加や紛争、先行きへの警戒感が高まるなか、各国は自国経済を守ろうとしています。JPモルガン・チェースの新たな報告書によると、世界が一丸となってエネルギー転換を進めるのではなく、分断とブロック化が進むと見込まれています。
エネルギー転換の現在の勢いを評価することが、ニューヨークで開かれたサステナブル・インパクト会合2025のパネル「エネルギー転換:加速か、減速か?」のテーマでした。司会を務めたのは、コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センターの創設所長、ジェイソン・ボルドフ氏です。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)でイノベーションと公共政策を教える教授のデビッド・G・ビクター氏、オベロン・フューエルの社長兼最高経営責任者(CEO)、レベッカ・ブードロー氏、そしてリニューの会長兼CEO、スマント・シンハ氏がパネルに加わりました。
エネルギー転換は前進を続ける
「トランプ政権が税額控除や税制優遇措置を撤回したことで、エネルギー転換は終わった、あるいは終わりつつあると言われています」と、ビクター氏はパネルで述べました。「実際には、多くの地域で基礎的な状況は非常に良好です。」
マーク・トウェインの言葉を借りれば、エネルギー転換の終焉を伝える報道は誇張されています。
デビッド・G・ビクター
同氏は、米国で再生可能エネルギーの導入が一時的に減速すると予測する一方、世界の他の地域ではエネルギー転換が勢いを保つと見ています。再生可能エネルギーや関連する低炭素技術をリードする地域として、欧州と、今や世界最大のエネルギー生産国となった中国を挙げました。
「これらが世界規模のテクノロジーであり、世界中で取引できることを認識するのは非常に重要です。全体として、これはエネルギー転換にとって大きな朗報です」と、ビクター氏は付け加えました。
この動きを主導しているのは電力部門です。持続可能な航空燃料、炭素回収、クリーン燃料などの技術も、ビジネスモデルやコストの課題を抱えながら、勢いを増し始めています。
「イノベーションには常に逆風がつきものです」と、ブードロー氏は強調しました。「テクノロジーは課題の一部にすぎません。確かに困難はありますが、イノベーションは起きます。テクノロジーだけでなく、規制、市場、金融商品など、実現に必要なあらゆる要素でイノベーションが進むのです。」
エネルギー安全保障、手頃な価格、気候目標は両立する
エネルギー転換を推進するうえで、エネルギー安全保障、レジリエンス、手頃な価格が気候対策より重視されているように見えるかもしれません。しかし、それによって世界的な進展が遅れているわけではないと、シンハ氏は述べました。
「むしろ、野心は高まっていると感じます。地政学的に不安定な今、手頃な価格とエネルギー安全保障が、以前にも増して強い推進力になっているからです。これらがエネルギー転換を、むしろさらに速く進めています。」
同氏は、エネルギーの純輸入国として大きな存在であるインドが、エネルギー源をより強く管理できるよう、国内のエネルギー開発を強化してきたと強調しました。
「再生可能エネルギーはすべて自国の領土内で稼働することを踏まえ、主要なエネルギー需要を満たすために世界の他の国々にどれほど依存するのか、政策立案者はより深く考えるようになっています。
「エネルギー転換が気候変動、エネルギーの手頃な価格、エネルギー安全保障のいずれを理由に進むとしても、最終的には同じ結果にたどり着くでしょう。」
世界経済フォーラムは、クリーンエネルギーへの移行をどのように後押ししているのでしょうか。
エネルギー・マテリアルセンターは、エネルギー、マテリアル、産業システムを変革する複雑な移行について理解を深めるため、リーダーをつなぎます。エネルギー安全保障、手頃な価格、持続可能性がどのように交わるかを探る場を提供しています。
バリューチェーンや地域を越えた協働を通じて、同センターはパートナーが連携し、安全で低炭素かつ公平な移行に向けた実践的な解決策を見いだすための共通の道筋を築きます。
国内回帰とコスト上昇
ビクター氏は、エネルギー・イノベーションを国内に移転、あるいは国内に回帰させることで、イノベーションが阻害され、価格上昇やサプライチェーンへの影響を招くおそれがあると警告しました。
「クリーンエネルギーへの移行のうち、特にうまく進んできた分野を考えてみてください。太陽光、ある程度の蓄電池、原子力技術などです。これらが成功したのは、世界規模のテクノロジーだったからです。」
世界市場を主導するには、大きな市場シェアを築き、学習曲線に沿ってコストを引き下げる必要がありました。
米国のように化石資源とインフラをエネルギー自立に活用できる国がある一方、天然資源に乏しい国には、エネルギー安全保障のために別のアプローチが必要だとシンハ氏は述べました。
「私たちは独自の並行サプライチェーンを構築しなければなりません。そのコストは、中国から調達する場合と比べてインフレ要因になります。しかし、そのインフレ分を安全保障と照らして考える必要があります。少なくともインドの場合、サプライチェーンを中国から分散させたいと考えています。」
ビクター氏は、解決策としてサプライチェーンの多様化を提唱しました。「エネルギー安全保障は、自給自足、つまりすべてを国内でまかなえることと同一視されてきました。それはまったくの誤りです。安全保障をもたらすのは多様性であり、それ以外にありません。
「より多様な供給源が必要ですが、それはリチウムやレアアースのすべてを国内で生産するという意味ではありません。商品市場がより効果的に機能できるよう、市場の仕組みに多様性と柔軟性を持たせる必要があります。」
適切な枠組みをつくる
天然資源やサプライチェーン、同盟へのアクセスを確保するために最善を尽くすとともに、この新たなエネルギー情勢で成功するには、適切な政策枠組みを整えることが不可欠です。
オベロン・フューエルのブードロー氏は、次のように述べました。「テクノロジーは、最も簡単な部分であることもあります。テクノロジーと科学は、重力や熱力学の法則に従います。一方、規制環境には、何ができて何ができないかを定める法則がありません。」
リニューのシンハ氏が指摘したように、明確な政策の欠如は、エネルギー転換を推進する力学に悪影響を及ぼしかねません。
「ビジネスリーダーにとって最悪なのは、政策の不確実性です。不確実性があれば、長期的な投資判断は難しくなります。政策の予見可能性がある分野を見つけ、そこに投資を集中させるのです。」
電化への支援は大きく広がってきましたが、政治的不確実性によって、グリーン水素やアンモニアなどのクリーン燃料の開発が妨げられています。
ビクター氏は次のように指摘しました。「産業界全体と政策立案者は、ブルー水素を含むあらゆる選択肢を視野に入れず、グリーン水素に過度にとらわれるという、重大な戦略上の誤りを犯しました。」
シンハ氏はこう付け加えました。「欧州や極東の国際市場への販売を特に念頭に、グリーン水素やグリーンアンモニアを生産するプロジェクトを数多く立ち上げました。しかし、各国は予算への別の需要や財政赤字を理由に、今では計画を後退させています。そのため、私たちは多くのプロジェクトを保留せざるを得ませんでした。」
明るい見通し
現在の不安定な状況にもかかわらず、パネリストたちは、エネルギー転換は正しい方向に向かっていると合意しました。ブラジルで開催予定のCOP30は、世論の監視が強まるなか、誓約と行動を勢いづけると期待されています。
実務的な観点から、ビクター氏は勢いを保ち続ける必要性を強調しました。
「もっと多くのプロジェクトが必要です。すでに採算が取れるプロジェクトもあり、特に大規模な電力分野ではそうです。分子を扱う分野ではまだで、プロジェクトを増やし、もっと一般的なもの、率直に言えば退屈なものにする必要があります。退屈になれば、通常の金融商品で資金調達できるようになります。興味深いものや大幅な脱炭素化には、いずれも多額の資本が必要だからです。ここで本当の障壁となっているのは、資本集約度です。」
ブードロー氏は、移行を推進する規制当局の重要な役割を改めて強調しました。「規制当局には目標を設定してほしいのです。ただし、そこに至る方法は指示しないでください。どの分子をつくるか、どのテクノロジーを使うか、電子をどう生み出すかを決めないでください。目標を定め、イノベーターや技術者、知識と経験を持つ人々に任せてください。」
リニューのシンハ氏は次のように締めくくりました。「最も重要なのは確実性です。その国が何をするのか、少なくとも今後5年または10年のロードマップを策定してください。そして、それを変更しないことです。計画があり、その計画に確実性があれば、企業部門は物事を実現するうえで最も力を発揮できます。」
JPモルガン・チェースは最近の報告書で、私たちが入った「新たなエネルギー安全保障の時代」では、エネルギーシステムへのアクセス、制御、レジリエンスを最適化できる国々が成功すると指摘しました。このバランスを適切に実現するには、政策立案者、規制当局、テクノロジー企業、投資家が、国境や地域を越えて強い結びつきを築き、これまで以上に緊密に連携する必要があります。
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