新たなブレークスルーにより、がん手術、食品安全検査、精密農業などに使える軽量で安価なマルチスペクトルカメラが実現する可能性がある。
研究者らは、前例のない範囲の光周波数を検出できる光検出器を実証した。この成果は、電磁材料を用途に合わせて設計し、チップ上にスペクトルフィルターを形成することで実現した。
一般的なカメラが捉えるのは可視光だけで、これは利用可能なスペクトルのごく一部にすぎない。たとえば赤外線や紫外線の波長に特化したカメラもあるが、スペクトル上の離れた領域の光を捉えられるものはほとんどない。そうしたカメラにも、製造が複雑で信頼性に欠ける、動作速度が遅い、持ち運びが難しいほど大型である、価格が数十万ドルに達するなど、多くの欠点がある。
本日、学術誌Nature Materialsで報告されたように、デューク大学の研究者らは、単一チップ上に実装できる新型の広帯域光検出器を実証した。これにより、数兆分の1秒でマルチスペクトル画像を撮影でき、価格も数十ドルに抑えられる。
この技術はプラズモニクスと呼ばれる物理学に基づく。ナノスケールの物理現象を利用して、特定の周波数の光を閉じ込める技術だ。
「これができるとはまったく明らかではありませんでした」と、デューク大学の電気・コンピューター工学准教授、マイケン・ミッケルセンは語る。「実際、予備実験で光検出器が機能しただけでなく、検出速度を何桁も高められる新たな予想外の物理現象が見えているのは、実に驚くべきことです。」
微小な銀の立方体
ミッケルセンと大学院生のジョン・スチュワートらのチームは、幅わずか100ナノメートルの銀の立方体を作り、薄い金の層の数ナノメートル上にある透明な膜に配置した。光がナノキューブの表面に当たると、銀の電子が励起され、光のエネルギーを閉じ込める。ただし、特定の周波数に限られる。
銀ナノキューブの大きさと、金の基層からの距離によって、その周波数が決まる。一方、吸収される光の量は、ナノ粒子間の間隔を調整することで制御できる。大きさと間隔を精密に調整すれば、研究者はシステムを任意の電磁周波数に応答させられる。
この基本的な物理現象を商用マルチスペクトルカメラに活用するには、それぞれ異なる光周波数に調整した微小な個別検出器を格子状に並べ、より大きな「スーパーピクセル」を作る必要がある。
その実現に向けた一歩として、チームは750~1900ナノメートルの波長に調整した4つの個別光検出器を実証した。プラズモニック・メタ表面が入射光のエネルギーを吸収して熱を帯び、その真下にある窒化アルミニウムという焦電材料の層に電圧を生じさせる。その電圧を、最下層のシリコン半導体接点が読み取り、信号をコンピューターに送って解析する。
より安価で高速な光検出器
ミッケルセンによると、こうした焦電材料を使った商用光検出器は以前から作られてきたが、常に2つの大きな欠点があった。特定の電磁周波数に焦点を合わせられず、十分な電気信号を生むために必要な厚い窒化アルミニウム層のせいで、動作速度が非常に遅かった。
「しかし、私たちのプラズモニック検出器は任意の周波数に調整でき、大量のエネルギーを閉じ込めてかなりの熱を生み出します」とスチュワートは語る。「効率が高いため、窒化アルミニウム層を薄くでき、処理速度が大幅に上がります。」
焦電材料を利用するカメラの検出時間は、現在の標準で約53マイクロ秒だ。ミッケルセンのプラズモニクスを基盤とした手法では、わずか数ナノ秒で信号が生じ、約2,000倍高速だった。ただし、実験装置によって検出時間が制限されていたため、新しい光検出器はさらに高速に動作する可能性がある。

マルチスペクトルカメラで何ができるのか?
ミッケルセンは、この技術に基づく商用カメラにいくつかの用途を見込んでいる。光検出器の製造工程が比較的速く、安価で、規模を拡大しやすいためだ。
外科医は手術中にマルチスペクトル画像を使い、がん組織と健康な組織を見分けられるかもしれない。食品や水の安全検査担当者は、危険な細菌が鶏むね肉を汚染したかどうかを見分けるのに利用できる。
ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団の支援を受け、ミッケルセンは最初の応用先として精密農業に注目している。植物は肉眼では緑や茶色にしか見えないことがあるが、葉や花に反射する可視光以外の光には、価値ある情報が豊富に含まれている。
「『スペクトル指紋』を取得すれば、物質とその組成を正確に特定できます」とミッケルセンは語る。「植物の種類が分かるだけでなく、その状態も判断できます。水が必要か、ストレスを受けているか、窒素含有量が少なく肥料が必要か、といったことです。植物のスペクトル画像を調べるだけで、これほど多くのことが分かるのは本当に驚きです。」
マルチスペクトル画像を活用すれば、肥料、殺虫剤、除草剤、水を必要な場所だけに使えるため、精密農業が可能になる。水と費用を節約し、汚染も減らせる。
マルチスペクトルカメラを搭載したドローンが農地の状態を地図化し、その情報をトラクターに送る様子を想像してほしい。そのトラクターは、農地の各所に肥料や殺虫剤を量を調整しながら散布するよう設計されている。
現在の肥料生産工程は、世界のエネルギー消費量の最大2%、世界の二酸化炭素排出量の最大3%を占めると推定されている。同時に、研究者らは肥料の50~60%が無駄になっていると推定する。肥料だけを考えても、精密農業にはエネルギーの節約と温室効果ガスの削減に大きな可能性がある。さらに、米国農務省によると、毎年推定85億ドルの直接的なコスト削減も見込まれる。
すでに複数の企業がこうしたプロジェクトに取り組んでいる。たとえばIBMはインドで、衛星画像を使って同様に作物を評価するプロジェクトを試験運用している。しかしこの方法は非常に高価で用途も限られるため、ミッケルセンは地上や安価なドローンから農地を撮影できる、安価な携帯型検出器を構想している。
「米国だけでなく、肥料、殺虫剤、水が不足しがちな低・中所得国にもたらす影響を想像してください」とミッケルセンは語る。「限られた資源をどこに使えばよいかが分かれば、作物の収量を大幅に増やし、飢餓の軽減にも貢献できるでしょう。」
この研究は、空軍科学研究局と国防科学・工学大学院フェローシップ・プログラムの支援を受けた。


