AIとデジタル化は、2030年までに世界の電力需要の伸びの約10%を占めると予測されており、産業界には低炭素電力の確保が求められています。
それでも、産業部門のエネルギー転換は続いており、分野によって進展の速さには差があります。
以下では、産業のエネルギー転換の勢いを測定可能な進歩につなげる5つの方法を紹介します。
削減が困難な分野である鉄鋼、セメント、化学、アルミニウム、海運、航空、トラック輸送、石油・ガスは、世界の排出量の約40%を占めています。これらの分野は、世界のインフラ、製造業、貿易の基盤でもあり、急速に変化する環境に直面しています。
世界全体の排出量は2024年に過去最高を記録し、0.9%増加して約380億トンに達しました。AIとデジタル化は、2030年までに世界の電力需要の伸びの約10%を占めると予測されており、産業界には低炭素電力の確保が求められています。一方、電力以外のエネルギー需要は、削減困難な多くの分野で依然としてエネルギー使用の最大割合を占め、炭素集約型燃料に大きく依存しています。
世界経済フォーラムの「産業転換の拡大:削減困難な分野と2025年のネットゼロ進捗」報告書は、ネットゼロ産業トラッカーの枠組みに基づき、これらの分野の脱炭素化に向けた基盤がすでにおおむね整っていることを示しています。大幅な排出削減に必要な技術はすでに存在するか、開発が進んでいます。ネットゼロ産業トラッカー2024によると、産業排出量のおよそ半分は成熟したソリューションで削減できますが、残りにはさらなるイノベーション、より強力な政策支援、そして導入を可能にするインフラが必要です。
企業のネットゼロ戦略も広がっています。アクセンチュアの「デスティネーション・ネットゼロ2025」報告書によると、売上高上位2,000社の41%がネットゼロ目標を掲げています。しかし、低炭素素材の短期的な調達は依然として不十分で、多くの生産者が確かな需要シグナルを得られていません。各市場では、エネルギーコストの上昇、資金調達の厳格化、政策の不確実性が引き続き進展を遅らせており、サプライチェーン、政府、金融機関、消費者が連携して行動する必要性が浮き彫りになっています。
産業転換を前進させる5つの方法
削減困難な分野で勢いを測定可能な進歩につなげるには、5つの優先課題が重要です。
1. 低炭素燃料と素材の需要を生み出す
産業転換に必要な技術の多くは技術的に実用化可能ですが、明確な需要シグナルがなければ、企業は大規模プロジェクトへの投資に慎重なままです。現在、低炭素燃料と素材の需要は小規模で分散しています。発表済みのクリーン水素またはCCUSプロジェクトのうち、最終投資決定(FID)に至ったものは10件に1件未満であり、オフテイクの弱さと政策の分断を反映しています。
複数の国が炭素価格制度を拡大したり、炭素国境調整などの措置や、EUのETS2、ブラジルのETSのような分野別の遵守規則を通じて、検証済みの炭素強度を市場アクセスの条件としたりしています。こうした仕組みの進化に伴い、炭素の透明性は競争力の中核的な要素になりつつあります。検証済みの排出データによって、製品が市場要件を満たすかどうかが決まるケースが増え、貿易の流れと投資判断の両方に影響しています。
買い手の信頼を築き、投資を呼び込むには、より明確な基準、一貫した認証、連携した調達モデルなど、より強い需要シグナルが不可欠です。
2. 規模拡大に必要なインフラを整備する
産業転換は、それを支えるインフラなしには成功しません。送電網の混雑、CO₂の輸送・貯留能力の不足、水素パイプラインの不足、許認可手続きの遅れは、いずれもプロジェクトの遅延やコスト上昇につながっています。
多くの地域では、産業転換を可能にするシステムの整備はまだ初期段階にあります。プロジェクトには、信頼できるクリーン電力へのアクセス、貯蔵ソリューション、近代化された港湾、統合型産業ハブが必要です。こうした共有資産がなければ、水素供給、炭素回収・利用・貯留(CCUS)ネットワーク、または大量の再生可能電力に依存する施設は、規模拡大に大きな障壁を抱えることになります。
こうした制約は、長期的な計画、連携した政策、そして大規模な官民投資の必要性を示しています。世界の送電網への投資額は現在、年間約4,000億ドルですが、BNEFのネットゼロシナリオでは、2030年までに年間8,000億ドルを超える水準に引き上げる必要があります。産業の脱炭素化が進むかどうかを左右する要因として、技術の準備状況よりもインフラ整備が重要になりつつあります。
3. クリーンな産業プロジェクトの資本コストを引き下げる
経済性の確保は、産業転換における最大の障壁の一つです。高金利、変動の激しいエネルギー価格、政策の不確実性により、クリーン技術プロジェクトの資金調達コストが上昇しています。特に、水素を活用した製鉄、持続可能な航空燃料、低炭素アンモニアやメタノール、炭素回収システムなど、資本集約型のソリューションでその影響が大きくなっています。多くの市場では、資金調達環境がプロジェクトの最終投資決定を妨げる主な要因となっており、意欲のある企業でさえ、社内で資本獲得を競わなければなりません。
資本コストを引き下げ、投資家のリスクを低減できるかどうかが、どの地域や分野で転換が進むかを左右します。政策の安定性、ブレンデッド・ファイナンスのモデル、差額決済契約(CfD)、長期オフテイク契約はいずれも、プロジェクトの融資適格性を高めます。2025年に2.2兆ドルに達すると見込まれるクリーンエネルギー投資は、先進国と中国に集中しており、将来の産業需要において中心的な役割を担う新興市場が取り残されています。世界的な転換には、各地域で大規模導入を支える資金調達環境を整えることが不可欠です。
4. 市場投入可能なソリューションを優先しつつ、イノベーションを促す
転換には、すぐに実行できる取り組みと長期的なイノベーションの両方が必要です。電化、エネルギー効率の向上、素材のリサイクル、再生可能エネルギーの統合など、市場投入可能なソリューションは、今すぐ実質的な排出削減を実現できます。
同時に、クリーン水素、持続可能な燃料、鉄鋼・セメント製造のプロセス革新、高度な炭素回収システムといった次世代技術が商業的に成熟するには、継続的な投資と政策支援が必要です。
実証済みの技術と新興技術のバランスを取ることが不可欠です。将来のソリューションに過度に依存すれば遅れを招く恐れがあり、イノベーションへの投資が不十分であれば長期的な進歩が妨げられます。連携した二本立てのアプローチが必要です。
5. 地域間で政策と基準を整合させる
今年は、ハイブリッド型政策モデルへの移行が見られました。自主的な取り組みやインセンティブが、遵守を求める規制とますます融合していますが、進展には依然としてばらつきがあります。地域によって進む速度もアプローチも異なります。欧州では、EU ETSの拡大など、排出量への義務的な価格付けの枠組みや分野別規則が拡大しており、CBAM、ReFuelEU、FuelEUが含まれます。米国では引き続き、主にインフレ抑制法によるインセンティブが中心で、カリフォルニア州のキャップ・アンド・トレード制度やクリーン燃料基準など、州のプログラムも併存しています。アジア、中東、ラテンアメリカの一部では、UAEのMRV制度やサウジアラビアの自主的炭素市場
など、初期段階の炭素市場や情報開示制度が整備されています。こうした多様性は、グローバル企業にとって複雑な環境を生み出します。制度の分断は、規制遵守を難しくし、コストを増やし、長期投資に必要な見通しを妨げます。測定の枠組み、報告基準、長期的な政策の方向性について整合性が高まれば、企業はより確かな見通しを持って計画し、投資できるようになります。
産業のエネルギー転換を左右する決定的な10年
削減困難な分野全体で2050年までにネットゼロとの整合を達成するには、約30兆ドルの追加投資が必要であり、今後10年間で、産業界が求められる規模で成果を上げられるかどうかが決まります。
転換はもはや、技術的に実現可能かどうかの問題ではありません。必要な手段はすでにあり、意欲も高まっています。今必要なのは、システム全体の整合です。低炭素生産に報いる市場、導入を支えるインフラ、規模拡大を可能にする資金調達、そして明確さをもたらす政策枠組みが求められます。
今後10年間は、重工業を漸進的な改善から真の変革へと移行させる決定的な時期となります。5つの優先課題を指針として、産業部門がネットゼロ経済を主導できる立場を築くことができます。

