水素は、インドが運輸関連の排出量を削減する取り組みにおいて重要な要素である。
ケララ・グリーン水素バレーのような産業クラスターは、重要な水素インフラの整備を加速させるうえで大きな役割を果たし得る。
ケララ州で進む水素モビリティの革新は、他州がグリーン交通施策の拡大に伴う課題を克服する指針となり、同国の2070年ネットゼロ排出目標の達成にも貢献し得る。
インドが2070年までにネットゼロ排出を達成するという野心的な目標に向けて進むなか、運輸部門の脱炭素化に有望な解決策の一つが水素自動車である。
運輸部門は、インドのカーボンフットプリントの約8.4%を占めており、特にトラックやバスなどの大型車両の電動化は長年にわたり困難を伴ってきた。こうした車両には長い航続距離と大きな積載能力が必要だが、バッテリー式電気自動車ではその要件を満たすのが難しい。水素燃料電池車は、クリーンで効率的な代替手段となる。再生可能エネルギーを使って製造すれば、水素はゼロエミッションの燃料となり、長距離輸送や大型輸送に適している。
水素自動車には、従来の電気自動車に比べていくつもの利点がある。航続距離が長く、燃料補給も短時間(多くの場合わずか数分)で済むため、車両の稼働停止時間を最小限に抑えながら商用車両群を運用できる。さらに、水素はエネルギー密度が高く、より大きな積載量を可能にするため、バッテリー式電気自動車の制約となる重量の問題を克服できる。インドにとって水素は、運輸関連の排出量削減の鍵となる。
水素モビリティを主導するケララ州
豊かな自然と先進的な環境政策で知られるインド南西部のケララ州は、交通分野での水素導入を先導している。2021年、同州の排出量はCO₂換算で1,720万トンに達し、そのほぼ半分は運輸部門に由来していた。ケララ州はすでにインドで電気自動車の普及をリードしており、乗用車の5.2%、二輪車の13.5%が電動車である。今、州はバス、トラック、さらには船舶も含む水素自動車の導入を検討し、環境に配慮した取り組みをさらに進めている。
2050年までのネットゼロ排出に向けた州の取り組みが、インドにおける水素導入の先駆けとなる基盤を築いてきた。ケララ・グリーン水素バレー・プロジェクトは、新・再生可能エネルギー研究技術庁(ANERT)が主導するもので、「産業クラスターの移行」イニシアチブに加わった最も新しいメンバーの一つでもある。同プロジェクトは、水素の完全統合型エコシステムの構築を目指す。この取り組みにより、ケララ州は他州のモデルとなり、水素が部門横断的な排出削減にもたらす可能性を示すことができる。
旅客輸送:州内最大の公共交通車両群として5,600台以上のバスを運行するケララ州道路交通公社(KSRTC)は、運行に水素バスを導入する先駆的な取り組みを進めている。これは公共交通におけるクリーンエネルギーの利用を促すだけでなく、交通排出量の削減に取り組む他州にとっても重要な模範となる。
貨物輸送:ケララ州は、水素を動力とする大型トラックを貨物輸送部門に導入し、ディーゼルトラックに代わるよりクリーンな選択肢を提供している。長距離を走行し、重い荷物を運べるこれらの車両は、州のグリーンモビリティ戦略の重要な柱である。
水上輸送:コチ・ウォーター・メトロ・プロジェクトでは、ケララ州の統合交通システムの一環として、水素船の導入を検討している。この取り組みは、水上交通にゼロエミッションの解決策を提供し、州のクリーンモビリティ推進をさらに進めることを目指す。
ケララ州は、強力な政策、連携、啓発活動を組み合わせ、水素導入の障壁に取り組んでいる。インドの国家グリーン水素ミッションに沿って、州は水素ステーションへの補助金、水素製造への税制優遇、ケララ・グリーン水素バレー構想への支援を提供している。民間部門との連携を通じて、水素車両群を拡大するとともに、グリーン水素卓越センターを通じた研究を促進している。
インドで水素を動力とする輸送を拡大する
水素バス、列車、大型トラック、船舶は、ゼロエミッションの未来に向けた大きな転換を示すものであり、インドのクリーンエネルギーシステムの礎となる。こうした導入は、雇用創出、イノベーション、再生可能エネルギーインフラへの投資など、大きな経済的・社会的利益をもたらす可能性がある。また、インドの成長都市が抱える根強い課題である都市大気汚染への対策としても重要な解決策となる。
しかし、この可能性を実現するには、主な障壁を克服する必要がある。
インフラの不足:水素自動車の普及には、広範な水素ステーション網が不可欠である。しかし、ステーションの設置費用は1カ所あたり約200万ドルに上り、大きな課題となっている。これは電気自動車の充電ステーションの設置費用(約5万ドル)を大幅に上回る。
製造コストの高さ:グリーン水素の製造コストの高さは、広範な普及を妨げる大きな障壁であり、主な要因は電解装置技術の費用と規模の経済を実現する必要性にある。現在の推計では、グリーン水素の製造コストは1キログラムあたり3.5~5ドルである一方、従来燃料と競争するための損益分岐コストは1キログラムあたり2ドル未満とされる。
技術の成熟度:水素燃料電池システムは、特に大型車両向けに、信頼性を確保して大規模導入を実現するため、耐久性と効率のさらなる向上が必要である。
こうした課題に対処するには、産業クラスター単位での連携が鍵となる。ケララ・グリーン水素バレーは、水素製造の拡大、必要なインフラの導入加速、イノベーションの促進に最適な立場にある。これにより、ケララ地域は水素の可能性を最大限に引き出し、気候目標を達成しながら持続可能な経済成長を推進できる。
今後の道筋
世界の水素経済は急速に拡大しており、各国が水素技術やインフラに投資している。ケララ州の先駆的な取り組みは、この世界的な動きにおける主要な担い手としての同州の立場を確立し、よりクリーンで環境に優しい交通システムの構築に貢献している。世界経済フォーラムなどの国際機関と連携することで、ケララ州は水素導入の目標を前進させるだけでなく、持続可能なモビリティの実現に向けた世界的な取り組みも支援している。
ケララ州で進む水素モビリティの革新は、他州がインフラ不足を克服し、グリーン交通施策を拡大する指針となり得る。インドが水素導入の目標を達成するには、政策枠組みの強化と、的を絞った官民連携が不可欠である。ケララ州の水素モビリティに関する経験は、国レベルの取り組みに活かされ、よりクリーンで持続可能なエネルギーの未来に向けた広範な推進に貢献するだろう。


