国営石油会社(NOC)は多様な役割を担い、複雑な国家的使命を果たしています。
気候変動への対処を後押しするため、環境・社会・ガバナンス(ESG)報告の改善が急務です。
ステークホルダー資本主義指標は、NOCがESGに関する責任を果たすための枠組みとなります。
国営石油会社(NOC)とは、国が全額または過半数を出資する石油・ガス会社です。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、NOCは世界の石油・ガス生産の50%を占め、確認埋蔵量のほぼ60%を管理しています。石油資源の豊富な国では、エネルギー生産は一般にNOCが主導しています。その中には、国のエネルギー部門で中心的な役割を担い、特に新興国市場において、国のエネルギーミックスの選択をある程度左右するNOCもあります。
さらに、特に新興国では、国の発展という観点から、NOCは多様な役割を担い、複雑な国家的使命を果たしています。収益を上げ、利益を優先する純粋な事業体であるNOCもあれば、雇用創出や社会的ニーズへの対応など、幅広い公共機能の遂行に重点を置くNOCもあります。
高まるESGの機運と、それが国営石油会社
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、今後20年以内に、世界の平均気温は1.5ºCという転換点に近づきます。環境災害を防ぐ唯一の方法は、炭素排出量を大幅に削減することです。
減少傾向にあるとはいえ、化石燃料の需要は今後も続くと予測されており、IEAは最も気候変動対策に意欲的なシナリオ(排出量ネットゼロ)の下で、2050年までに石油需要は日量約2,400万バレル、天然ガス需要は1兆7,500億立方メートルに減少すると見込んでいます。現在はそれぞれ日量約1億バレル、4兆1,000億立方メートルです。
エネルギーミックスから温室効果ガス(GHG)排出を削減・除去する必要性が高まる中、再生可能エネルギーが現在世界のエネルギーミックスの14%を占める一方で、必要な投資額は大きく、エネルギー需要も増加しています。世界のエネルギーミックスから炭化水素を一夜にして排除することはできません。多くの新興国は、時間をかけて排出量の少ないエネルギーミックスへ移行する間も、炭化水素に依存し続けると見込まれます。
その結果、特に気候変動に関して、ESG報告と情報開示の透明性および説明責任を高める必要性が増しており、今日、世界中の投資家やその他のステークホルダーにとって重要な優先課題となっています。とりわけ石油・ガス業界は、ESG実績についてステークホルダーから厳しい目を向けられています。世界の石油・ガス業界では、国際石油会社(IOC)がESG課題への対応を主導していると一般に見なされています。再生可能エネルギーを含むクリーンエネルギーや新エネルギーのソリューションへポートフォリオを移行するIOCが増えているためです。
IOCとは異なり、NOCは一般に、石油から再生可能エネルギーへ迅速かつ大幅に移行できるだけのポートフォリオの柔軟性が限られています。NOCは、低炭素投資と国の経済発展・成長、さらに地域住民が手頃な価格でエネルギーを利用できるようにすることの間で、三つの課題のバランスを取らなければなりません。
したがって、NOCにとって、最も適切なESG測定指標の評価と採用を開始し、ESG実績を開示することが極めて重要です。これにより、投資を引き続き呼び込み、ステークホルダーの期待に応え、長期的な持続可能な価値創造への取り組みを維持できます。
ステークホルダー資本主義指標を用いたESG報告の透明性向上の必要性
現在、ESG実績を測定するための、比較可能で透明性の高い指標を備えた、世界共通の合意済みESG枠組みはありません。2020年9月、世界経済フォーラムと四大会計事務所の各社は、「ステークホルダー資本主義の測定:持続可能な価値創造に向けた共通指標と一貫性のある報告」を公表しました。主要な民間ESG基準設定機関の間での収れんを加速させ、ESG指標の報告の比較可能性と一貫性を高めることを目指しています。
既存の基準と開示情報を基に、私たちのステークホルダー資本主義指標(SCM)は、優先度の高い21のサステナビリティ課題と関連するESG指標を中核項目として特定しました。指標は、ガバナンスの原則、地球、人々、繁栄という4つの柱に分類されています。
世界150社を超える企業がSCMコミュニティに参加しており、国際的に受け入れられるサステナビリティ報告基準の策定を提唱することで、ESGを取り巻く状況の変革に重要な役割を果たす可能性があります。現在、複数のNOCを含む石油・ガス会社18社が、これらの指標への準拠を表明し、または指標に基づく報告を行っています。
COP26では、国際財務報告基準(IFRS)が、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を発表しました。同審議会はSCMの取り組みを活用し、金融市場向けのサステナビリティ開示に関する包括的なグローバル・ベースラインを策定します。その後ISSBは、最初の2つの基準案を公表しました。
国営石油会社のESGの優先課題と独自の視点
NOC独自の視点を認識し、EYはフォーラムの石油・ガスコミュニティと協力して、NOCとの対話シリーズを開催しました。SCMへの認識を高め、NOC特有のESGの背景への理解を深めるとともに、NOCが連携してESGの実績、理解、報告を強化する機会を探ることを目的としました。
ESG枠組みと指標の採用過程を共有する中で、多くのNOCは、ESG報告と情報開示が持続可能な価値創造戦略を明確に示す重要な一歩だと認めました。しかし、業界に複数の異なるESG枠組みや主要業績評価指標(KPI)が存在することは大きな課題であり、それらはNOC特有のESGの背景を反映する柔軟性に欠けることが少なくありません。現在の指標はリスクと影響に焦点を当てており、次のような考慮事項への対応が不十分です。
社会経済面での貢献―― 国の開発・変革プログラムへの貢献。
手頃な価格でのエネルギーへのアクセスによる経済成長の促進と、基本的な社会ニーズへの対応。
炭化水素の炭素強度を低減して生産する能力、および炭素回収などの最新技術を活用して炭素排出量を削減する能力。
その結果、NOCのESG報告実務は、報告・開示するESG KPIの選択から、サステナビリティ報告への取り組みを示すために単一または複数のグローバル枠組みを採用することまで、さまざまです。NOCを取り巻く各国固有の状況も、ESGへの取り組みにいくつかの課題をもたらしています。
炭化水素の使用に伴う排出量――算定と報告:炭化水素の使用による排出量を測定する現在の方法では、炭化水素をより低排出の用途に振り向けるための取り組みを示すことが難しくなっています。
サプライチェーンと社会的リスク:グローバルな事業、機会、パートナーシップがNOCにサプライチェーンや社会面の課題をもたらすことがあり、他の国内ステークホルダーと協力して対処する必要があります。
新エネルギー分野への多角化:新たな形態のエネルギーに投資する一方で、NOCは国への財政的貢献を維持し、雇用を支え、(低下する可能性のある)収益とのバランスを取るため、化石燃料の生産を続ける必要があります。
透明性確保のための保護策:ESG実績の積極的な追跡と開示をためらう背景には、排出量をすでにESG報告し、具体的な排出削減計画を策定している大手石油会社に対する活動が活発化している事例も、一因としてある可能性があります。
文化と意識の変革:NOCは、規制遵守にとどまらず、透明性を促進し、ESG実績と開示をESG報告プロセスに組み込む必要があります。
ESG報告への包摂的なアプローチ
ESG報告をめぐる世界的な機運が高まっており、多くのNOCは、それぞれの目標に沿ってネットゼロの公約を実行に移そうとしています。強固なESG報告と実績は、NOCが操業に対する社会的ライセンスを維持するだけでなく、ブランド価値を高め、世界各地の資本市場や消費者市場へのアクセスを確保することにもつながります。ESGへの配慮がますます重要になっているためです。




