中東欧のエネルギー転換に向けた責任ある戦略では、化石燃料の需要とエネルギー安全保障も考慮しなければならない。
正当な理由がある場合、低炭素化の推進は従来型エネルギーへの投資によって補完することもできる。
地政学情勢が激動するなか、一貫性と信頼性のあるアプローチが不可欠だ。
2025年初頭に世界のエネルギー市場を追っていた人々にとって、経済、政治、気候をめぐる情勢と、それが業界に及ぼす潜在的な影響を把握するのは容易ではない。
これらの各分野で政策が現在乖離しているため、エネルギー企業が進むべき道を見定める環境はますます複雑になっている。専門家が幅広いエネルギー転換シナリオを想定するなか、市場参加者は将来の市場動向への確信を弱めながら賭けに出ている。
政策が緩和されるとの見方から、業界の一部はエネルギー転換への意欲をすぐに引き下げた一方、低炭素分野での成長の約束を急速に実現しようとする企業もある。この乖離に業界の他の企業はどう対応すべきだろうか。化石燃料へ回帰するのか、それとも政策の焦点を改めるのか。あるいは、エネルギー転換の目標について、これまで以上に幅広い足並みの一致が必要なのだろうか。ひとつ明らかなのは、今が特異な局面であり、こうした課題や不確実性に対処するには、戦略的な柔軟性と現実的な姿勢の両方が求められるということだ。
エネルギー部門が直面する世界的な出来事や野心的なネットゼロ目標は誰もが認識しているが、中東欧(CEE)と定義するこの地域には、独自の要因がある。
CEEの経済成長とエネルギー需要は欧州の他地域より底堅く、増加するエネルギー需要、投資への期待、脱炭素化の取り組みのバランスを取る必要がある。この傾向の違いを示す例として、S&PはCEE地域の石油需要が2024年から2040年の間にわずか17%縮小すると予測している。これに対し、西欧では40%の縮小が見込まれている。
ロシアによるウクライナ侵攻と、それに続く地政学的な分断によって、地域のエネルギー供給網は大きく変化した。そのため、輸入先を迅速に切り替えるだけでなく、供給の安全を確保するインフラも整備する必要が生じている。ポーランドを例にとると、東の隣国に依存していた内陸中心のパイプライン網と鉄道網は、わずか数年で海上輸送へと切り替わった。これにより新たな投資が必要になった一方、システムにボトルネックや脆弱性も生じている。
CEE地域はEUの規制枠組みに属し、EUのエネルギー転換への取り組みを共有している。しかし、この地域では、当地で成果を上げ、インフラや物流の実情にも適合する道筋、脱炭素化の手段、排出削減技術をなお定める必要がある。
現実的なエネルギー転換
前述の地域要因に、世界的なエネルギー需給の不均衡と地域ごとのエネルギー競争力の乖離が重なり、エネルギーのバリューチェーンを見直し、ORLENが持続的な競争優位を築ける分野を定める必要が生じている。当社の新戦略は、一見相反する傾向、すなわち地域での化石燃料需要の強さ、エネルギー安全保障への懸念、エネルギー転換への意欲にも対処することを目指している。
従来型の炭化水素分野でも、低炭素燃料や排出削減技術でも、過度に野心的な目標を掲げたり、政策の変化に応じて両者の間を行き来したりするのではなく、現実的な対応を呼びかけている。当社は「責任あるエネルギー転換」を戦略の柱のひとつに据え、この現実的な姿勢を示すいくつかの指針を定めた。
低炭素投資や取り組みは、当社資産のエコシステムに適合するものとする(すなわち、事業セグメント全体で価値を生み、システム内の相乗効果を活用する)。個別の脱炭素化施策をいくつも展開する従来の手法に代えて、コストと資源を最小限に抑える統合システムの構築を目指す。
さらに、戦略的な柔軟性を確保し、時間の経過とともに資本配分を改善できるよう、これらのプロジェクトは拡張性と次の段階を念頭に置いて開発する(例:炭素強度をさらに低減する可能性、グリーン水素を追加する選択肢)。
ORLENのエネルギー転換の取り組みを加速できる態勢を整えるため、施策は当社戦略の期間を大きく超える時間軸で策定する。これにより、低炭素化の開発が商業的に実現可能かどうかと、コンプライアンスコストや炭素税への負担を管理できる。
一貫性と信頼性のあるアプローチを重視する。投資や取り組みは、長期的な戦略との整合性を持ち、資本配分の指針を満たす必要がある。
イノベーションを加速し、開発リスクを管理するため、とりわけ新技術や産業分野において戦略的パートナーシップを推進する。
この「責任ある転換」は、開発の指針だけで定義されるのではなく、主に従来型事業への選択的な投資方針によって形づくられる。市場の基礎条件が健全な分野では、引き続き事業を成長させる。これには、特に従来石炭に依存してきた当地域で移行期の燃料として機能するガスとLNGへの投資(上流から中流、下流まで)が含まれる。
また、EUの他地域の市場状況とは異なり、CEE地域では電気自動車の普及が遅いと予想され、現在の普及率は西欧平均の6.5%に対し、同地域では0.8%と推定されている。このことから、当面は燃料販売事業と製油所での原油処理が続くと考えられる。西欧や南欧では能力の合理化が進んでおり、対照的だ。当社のバリューチェーンの他の部分も、より底堅いとみられる。例えば、基礎化学品市場が世界的に低迷しているにもかかわらず、CEE地域はポリマーの純輸入地域であり続けており、経済成長が多くの化学製品用途で需要を支えるだろう。
これは、エネルギー転換の目標が従来型エネルギー分野の成長領域と絡み合う、当社のアプローチの複雑さをさらに示している。
激動する世界における安定した戦略
エネルギー企業の戦略ビジョンや目標を定めることは、かつてないほど難しくなっている。企業は今、地域ごとに異なる競争力、規制要件、そして商業的な実現可能性がまだ証明されていない低炭素燃料や技術の複雑さに対応しなければならない。野心的な脱炭素化目標を、施策や道筋とともに発表することは業界標準となった。しかし、それによって信頼性や経済的な現実性への疑問も生じている。
当社の新戦略は、低炭素化への意欲を単に表明するものではなく、株主価値、エネルギー安全保障への責任、エネルギー転換の目標の間で均衡を見いだすことを意図している。エネルギー転換の課題と機会に責任ある姿勢で長期的に取り組み、激動し不確実な世界への対応に現実性と柔軟性の両方を確保する戦略だ。

