過去1年間、世界経済と人々の暮らしは、収束の兆しが見えないエネルギー危機によって激しく揺さぶられてきた。
世界のエネルギー需要を満たすことはこれまでになく困難になっており、CO2排出から脱却する必要性もまた、かつてないほど切迫している。
公共部門と民間部門の6人の世界的リーダーが、エネルギー安全保障の強化と世界的なグリーン転換に関する見解をフォーラムと共有した。
潤沢で手頃な価格のエネルギーの時代は終わりを迎え、エネルギー安全保障は世界中の人々と政府にとって急速に懸念事項となりつつある。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの衝撃に、ウクライナでの戦争と深刻化する気候変動が重なり、世界のエネルギーシステムは動揺している。
クリーンで信頼性が高く、気候中立的なエネルギー源への移行の必要性は、この課題をさらに複雑にしている。石炭をさらに掘り出したり、天然ガスをさらに燃やしたりするのでは、もはや十分ではない。地球とそこに暮らす人々を危険にさらすことなく、エネルギー安全保障を実現する方法を見いだす必要がある。
グリーン転換とエネルギー安全保障
この課題は困難ではあるものの、克服可能である。すでに有望な技術が登場しており、一定の行動変容と賢明な規制と組み合わせることで、長期的なエネルギー安全保障をもたらすことができる可能性がある。
例えば、クリーン水素は、今日私たちが使用している多くの汚染燃料に代わる可能性がある。これらの汚染燃料は、世界規模の産業において燃焼されると大きな被害をもたらしている。太陽光や風力といった再生可能エネルギーのコストは急速に低下しており、従来の化石燃料と価格面での競争力を高めつつある。
現時点では、これらの技術のいずれか単独では、膨大な(そして拡大し続ける)世界のエネルギー需要と、低迷する供給との間にある大きな隔たりを埋めることはできない。
これほどの規模の移行は、いずれか一つの政府や部門だけで完了させることはできない。そのため、求められる迅速なペースで変化を実現するうえで、官民パートナーシップが重要となる。
フォーラムは、エネルギー転換をどのように捉えているか、また急激に高まるエネルギー需要を、気候変動を加速させることなくどのように満たすかについて、民間部門と公共部門の6人のリーダーに話を聞いた。
「エネルギー危機は大きな変革の好機だが、現状に満足してはならない」
ロベルト・ボッカ(Roberto Bocca)、エネルギー・素材担当責任者、世界経済フォーラム執行委員会メンバー
エネルギーは経済の生命線である。あらゆるものが動き、あらゆるものがエネルギーによって伝達される。私たちは、エネルギーが不足して初めてその重要性を実感する。
エネルギー危機は大きな変革を遂げる好機である。しかし、現状に満足してはならない。失う時間はない。エネルギー転換は加速させる必要がある。
エネルギーは供給だけの問題ではないと理解する必要がある。効率性と需要側にどう対処するかが、エネルギー転換にとって非常に重要である。
現時点での明るい材料は、問題を理解していることであり、優れた人材と潤沢な資本があることだ。
「原子力は、供給と需要の間の隔たりを埋めるための優れた解決策である」
アンナ・ボルグ(Anna Borg)、ヴァッテンフォール社長兼最高経営責任者
課題の大きさを考えると、化石燃料を使用しない技術を一つも排除する余裕はない。
短期から中期的には風力と太陽光が主な技術となるが、中期的には、特に小型モジュール炉の助けを借りれば、原子力が供給と需要の間の隔たりを埋めるための優れた解決策になると考えている。
重要なのは、その技術と、それを運用するための知識と資本を実際に現実のものとすることであり、今まさにそのペースを上げる必要がある。
「エネルギー転換は今日の経済的機会である」
アンドリュー・フォレスト(Andrew Forrest)、フォーテスキュー・メタルズ・グループ創業者兼会長
この世界が必要とする以上のエネルギーを生産し、エネルギーコストを引き下げ、エネルギー供給を拡大するための技術は、今まさに私たちの手中にある。必要なのはリーダーシップだけである。
技術の進歩以上に重要なのは、リーダーシップの進歩である。エネルギー転換は今日の経済的機会であり、私たちはこれを掴むためにリーダーシップを必要としている。従来の後ろ向きな管理手法の考え方をやめるリーダーシップが必要である。
「アフリカのインフラ格差を埋めるには1,000億ドル以上の資金が必要である」
レイラ・ベナリ(Leila Benali)、モロッコ政府エネルギー省エネルギー転換・持続可能開発大臣
私たちの頭の中にあるこのトリレンマ(三重苦)、すなわちエネルギーの持続可能性、安全保障、そして手頃な価格の両立は、今年とりわけ切実な問題となった。
21世紀において、特にアフリカではインフラ整備の取り組みに勝利しなければならない。アフリカでは6億人が電気や近代的なエネルギー形態を利用できずにいる。気候変動課題に資金を供給するための3.4兆ドルの投資格差のうち、アフリカのインフラ格差だけでも1,000億ドル以上の資金が必要である。
資金供給と投資機会との間の格差を埋めることは極めて重要である。
「気候変動への対策は必要不可欠である」
コンラート・カイザー(Conrad Keijzer)、クラリアント社最高経営責任者
化学産業において極めて重要なのは、協力し合うことである。バリューチェーン全体の脱炭素化を目指す場合、業界内の一社だけでそれを成し遂げるのは非常に困難である。
技術的な解決策は既に存在しているため、私は楽観的である。ただし、その多くにはコストプレミアムが伴うことを認識する必要がある。気候変動は現に起きている。気候変動への対策は必要不可欠であり、私たちは基本的にそれを実現しなければならない。
「政府は、クリーンエネルギーへの投資が予測可能な事業となるよう、制度を整える必要がある」
ファティ・ビロル(Fatih Birol)、国際エネルギー機関(IEA)事務局長
世界はこれほど深刻で複雑なエネルギー危機を、これまで一度も経験したことがない。
今日私たちが目にしているのは、現在の世界的なエネルギー危機が、クリーンエネルギーへの移行を加速させているということである。これまで、こうしたグリーンエネルギー技術は主に気候変動を理由に推進されてきたが、現在ではエネルギー安全保障が非常に重要な推進力となっている。
投資家がまず注目するのは、十分な収益が得られるかどうか、そしてプロジェクトの予測可能性があるかどうかである。そのため政府は、クリーンエネルギーへの投資が予測可能な事業となり、同時に十分な収益をもたらすよう、必要な制度を整える必要がある。


