前世紀の進歩に石油が不可欠だったように、重要鉱物は今世紀のエネルギー転換に欠かせない。
重要鉱物への依存が高まるなか、供給の継続性や、それがもたらす地政学的影響への懸念が広がっている。
世界経済フォーラムの新たな論文は、こうした懸念は誇張されている可能性があると指摘する。
排出量を大幅に削減する「エネルギー転換」が進展している明確な兆しが、いま見え始めている。もちろん、朗報が世界のあらゆる地域で現実になっているわけでも、同じ速度で進んでいるわけでもない。技術革命が世界中で一斉に起きることはないからだ。それでも、変化の兆しは明白だ。
エネルギー転換はいま、銅(電線に使用)、リチウム(電池に使用)、希土類鉱物(モーターに使用)などの重要鉱物の需要を押し上げている。今後、転換が加速し、より広く進展するにつれて、こうした重要鉱物の需要は急増すると見込まれる。供給側は需要に追いつけるだろうか。また、一部の国は供給を統制し、地政学的影響力を行使するだろうか。

本日、世界経済フォーラムが招集したエネルギー転換の専門家グループが、この問いに答えるための枠組みを提示する新たな論文を発表する。重要鉱物への依存の高まりを警戒すべきなのか、また政府や産業界はどう対応できるのかに焦点を当てている。
多くの人にとって、重要鉱物への依存の高まりは深刻な懸念材料であり、エネルギー転換を脅かしかねない。エネルギー転換が化石燃料、とりわけ石油への経済的・政治的依存を揺るがし始めたばかりの一方で、危機を唱える人々はファウスト的な取引が形作られつつあると見る。重要鉱物への新たな依存が、地政学的な力の新たな源になり得るというのだ。
輸入に依存する国や企業は、供給国がその力を悪意ある目的に使うことを懸念するかもしれない。中国はすでに、ほとんどの重要鉱物について、原料と加工済み製品の供給を突出した形で支配している。危機を唱える人々は、中国の支配が強まり、サプライチェーンの信頼性が低下すれば、政治面と経済面の双方に影響が及ぶ恐れがあると警告する。さらに、重要鉱物の採掘や加工から収入を得る政府が、その収入を政治的な混乱を引き起こすために使う可能性もある。こうした「資源の呪い」は石油をめぐって懸念されてきたが、重要鉱物でも起こり得る。
問われているのは、排出削減の目標だけでなく、電気自動車や電池、電力設備などの新産業がサプライチェーンの確保に苦慮するなかで生まれる投資や雇用も含めた、エネルギー転換の将来だ。
この新たな論文は、不安定な依存関係への恐れにとらわれないための4つの理由を示している。
1. 需要と供給を世界的な視点で捉える必要がある
これらの重要鉱物はすべて世界市場で取引されるため、供給と需要を世界的な視点で捉えることが不可欠だ。さらに、その多くは世界経済に占める役割がごく小さく、危機をあおる懸念の根拠となる過去の記録も乏しい。確かに急速に成長しているが、出発点はごく小さい。適切なインセンティブがあれば、多くのことが急速に変わり得る。
リチウムを考えてみよう。世界経済が新型コロナウイルス感染症のパンデミックから回復し、電池への投資が急増していた2021年後半、リチウム価格は6倍に跳ね上がった。リチウムが新たな石油になるとの警告に続き、リチウムのサプライチェーンをめぐる不安が広がった。しかし、市場は反応し、供給が拡大し、需要は予想を下回ったため、価格は以前の水準まで下がった。
この世界的な視点から得られる教訓は、市場が機能できるところでは、その働きを生かす必要があるということだ。政策立案者は、供給と需要のデータの透明性を高めるインセンティブを設けたり、新たな供給を促す価格シグナルを送り、投資家がリスクをヘッジしやすくする先物市場を後押ししたりできる。また、政策戦略が幅広く多様なシナリオに基づくようにし、どのシナリオが最も現実的かを評価することもできる。そうすれば、リスクを評価し、特定するための指標を策定できる。
2. 供給の拡大が鍵
そのためには、新たな鉱山や採掘技術への立地と投資を促進する必要がある。多様な供給源への投資を促す信頼できる政策を提示し、新たな生産・加工施設を責任ある形で立地できるよう支援することなどが考えられる。供給源の多様化も重要だ。

多様化をナショナリズムと混同してはならない。供給拡大に向けた世界的な取り組みのうち、とりわけ米国を含め、あまりにも多くが鉱物供給に国旗を掲げることに注力している。クリーンエネルギーへの大規模な公的資金投入に必要な政治的支持を築き、維持するため、ある程度、国内回帰を受け入れる必要があった。しかし、形成されつつある政治的な同盟は、容易に望ましくない結果を招きかねない。サプライチェーンは混乱し、分断され、世界市場における柔軟性の価値が損なわれるだろう。信頼性が揺らぐにつれて、コストは上昇する。
他の重要鉱物と比べて、銅にはいくらか警戒する確かな理由がある。1世紀以上にわたり、世界は銅鉱山の増設を試みてきたが、需要に追いつくのに苦労してきた。需要の急増に加え、残された鉱床の品位低下が、その難しさを増すだろう。
3. 需要の柔軟な対応力を高める
石油であれ鉱物であれ、危機を唱える人々は供給に注目しがちだ。しかし、大きな驚きはたいてい需要から生じる。ここでは、ほとんどの重要鉱物に大きな可能性がある。需要の性質が化石燃料とは異なるからだ。石油の場合、世界全体で必要とする量は1日あたり約1億バレルで、毎日必要となる。わずかな供給の滞りが、大幅な価格上昇やパニックにつながる。
ほとんどの重要鉱物は、プロジェクトのライフサイクルで一度だけ、設備の建設時または設置時に使われる。そのため、燃料市場より需要の変化に敏感に反応できる可能性がある。需要の柔軟な対応力があれば、悪意ある行動に出かねない不安定な供給業者を牽制できる。
この論文では、リサイクル分野の大きな機会と進展についても少し掘り下げている。世界各地に導入されたクリーンエネルギー機器のほとんどは、まだ寿命を迎えていないため、重要鉱物の多くの市場ではリサイクルの動きがほとんど見えていない。
4. イノベーション
クリーンエネルギー革命は、クリーンであるためのコストを引き下げるイノベーションと政策によって実現している。コストの低下は、革命を持続させるために必要な政治的支持を築き、維持しやすくする。同じことが重要鉱物の供給と利用でも起こり得るし、起こさなければならない。そうしたイノベーションの多くは公共財であり、公益のための支援を必要とする。例えば、新たな採掘・抽出技術には大きな可能性がある。イノベーション政策が大きなリスクを取り、従来の手法だけでなく、革新的な新アイデアの実験を促すなら、その可能性はさらに広がる。
エネルギー転換に伴い、重要鉱物への依存は高まる。しかし、石油産業との比較からは、過度に警戒するより、慎重に対応すべきだと分かる。
適切な政策は市場の機能を高め、需要と供給の不均衡を是正するシグナルを生み出す。石油が枯渇するから石油時代が終わるわけではないのと同じように、リチウム、銅、ニッケルが不足しても、クリーンエネルギーの時代が停滞するとは限らない。

