COP23の気候会議では、電動シャトルが町中で代表団を運び、持続可能なエネルギーとグリーン技術を示していました。しかし農家の張図陵さんにとって、グリーン技術は、ほこりっぽい空気と生育不良の作物を意味します。
張さんは、中国北部にある大規模鉱山の近くに住んでいます。そこでは、バッテリーの重要な原料である天然黒鉛が採掘されています。張さんは、リチウムイオン電池がもたらす見えにくい社会的・環境的な代償を証言できます。リチウムイオン電池は、再生可能エネルギーの貯蔵、電気自動車、モバイル電源を可能にするまさにその装置です。
バッテリー市場の規模は、2025年までに1,000億ドルに達すると予想されています。2040年までに、企業や家庭で太陽光発電を蓄えるバッテリーは、世界のエネルギー貯蔵容量の57%を占めるでしょう。
気候変動対策に取り組む人々もこの動向に注目しています。地球温暖化を1.5度未満に抑えるため、2015年のパリ協定は、2030年までに世界の道路を走る電気自動車を1億台増やす必要があると示しました。これは現在の台数の50倍に当たります。
逆説的ですが、この目標の実現は、人々にも環境にも意図せぬ害を及ぼす可能性があります。先週ボンで開かれたCOP23での議論は、行動へと移りつつあります。バッテリーが気候目標の妨げではなく支えとなるには、次の5つの障壁に対処する必要があります。
電気自動車用バッテリーのカーボンフットプリント
電気自動車を動かすバッテリーは、2025年までにリチウムイオン電池市場の90%を占めると予測されています。電気自動車のライフサイクル全体、つまり原材料の調達から製造、使用、リサイクルまでの炭素排出量が、ガソリン車やディーゼル車より多くなる主な理由はバッテリーです。その要因は3つあります。

第一に、電気自動車の製造は、平均して、内燃機関車の製造と比べて地球温暖化への影響が2倍大きく、エネルギー消費量も2倍です。これは主にバッテリーによるものです。原材料の採掘から製造時に消費する電力まで、バッテリーの生産には多くのエネルギーが使われます。電気自動車が大型で、航続距離が長いほど、動力に必要なバッテリーセルが増え、それに伴って炭素排出量も増加します。
第二に、電気自動車は使用時、そのバッテリーに供給される電力の環境負荷に左右されます。石炭火力の電力で充電したバッテリーは、太陽光発電の電力で充電したものより環境負荷が大きくなります。政府は、よりクリーンなエネルギーへの移行を加速することで後押しできます。
第三に、電気自動車はライフサイクルの初期段階ではカーボンフットプリントが大きい一方、通常、使用段階ではよりクリーンです。時間がたつにつれて、内燃機関車との差を埋めることができます。電気自動車の生涯排出量が内燃機関車と同水準になる時点は、走行距離にも左右されます。
たとえば、エネルギー構成の約40%を石炭、30%を再生可能エネルギーが占めるドイツでは、中型電気自動車がディーゼル車と排出量で損益分岐点に達するには、平均して12万5,000 km走る必要があり、ガソリン車との比較では6万kmです。年間平均走行距離を1万3,500km(2002年のドイツの場合。2013年のイングランドでは1万2,700km)とすると、電気自動車がディーゼル車より環境負荷の小さい車になるまで9年かかります。その頃には、ほとんどの消費者が新車を購入しているでしょう。同様の状況は米国にも見られますが、原子力発電の比率が高いフランスでは、その傾向はそれほど顕著ではありません。
電気自動車の環境面での可能性を引き出すには、生産を増やすだけでは不十分です。それを支えるシステムも持続可能でなければなりません。
炭素排出以外の汚染
バッテリー生産が引き起こす環境被害は、炭素排出だけにとどまりません。コンゴ民主共和国のコバルト採掘による粉じん、煙、有害な廃水などの環境への影響、ラテンアメリカのリチウム採掘による水不足や有毒物質の流出は、生態系を変化させ、地域社会に被害を及ぼす可能性があります。ロシアではニッケル採掘によって河川が深刻に汚染され、先に述べた中国北東部では大気汚染が起きています。
業界をまたいだバッテリーの再利用
自動車の例が示すように、バッテリーの使用期間が延びるほど、環境への悪影響は小さくなります。電気自動車のバッテリーは別の業界で転用・再利用でき、バッテリーのライフサイクルを約20年に延ばせます。
電気自動車のバッテリーは、約10年間使用して容量が70~80%を下回ると、車を動かすには力不足になります。しかし、さまざまな状況での定置型蓄電には十分な容量が残っています。家庭での利用、発電所の電力需給の調整、農村部の送電網につながっていない地域への電力供給などに活用できます。
しかし、バッテリーの転用には費用がかかります。バッテリー容量の残存価値に関する情報やデータ共有が限られていること、規格がないこと、所有者や用途が変わった際の責任をめぐる規制上の不確実性が原因です。こうした障壁を乗り越えるには、業界横断の官民連携の取り組みが必要です。

バッテリーのリサイクル
推計では、使用済みリチウムイオン電池1,100万トンが2025年までに市場にあふれる見込みですが、それらを処理する仕組みは整っていません。
気候変動に対処するうえで、これは重要な問題です。有害廃棄物による汚染を防ぎ、環境負荷を抑えながら原材料の安定供給を確保するため、既存のバッテリー資源をできる限り有効に活用しなければなりません。
現在、バッテリーのリサイクルには1kg当たり1ユーロかかりますが、回収した原材料の価値はその3分の1にすぎません。リチウムのリサイクルには、新たに採掘する場合の5倍の費用がかかります。そのため、欧州でリサイクルされているリチウムイオン電池は、わずか5%です。
しかし、リサイクルには採算が合う可能性があります。2015年、リチウムイオン電池に使われた金属と鉱物の価値は、20億ドルに上りました。コバルト価格は過去12か月で80%以上上昇し、需要は2020年までに倍増して年間20万トンに達すると推計されています。リチウムの需要は2025年までに4倍となり、78万トンに達すると予想されています。

さらに、リチウムは貴重な原材料です。リチウムを1トン回収するには、バッテリー28トンをリサイクルする必要があります。一方、チリで新たにリチウムを1トン採掘するには、1,250トンの土を掘り起こさなければなりません。
総じて、リサイクルには大きな可能性があります。しかし現状では、リサイクル可能なバッテリーの量が限られていること、リサイクルを簡素化するバッテリー規格がないこと、回収を促す政策やインセンティブの仕組みが不十分なこと、責任の所在が明確でないことなど、いくつもの障壁に阻まれています。
環境とほかの課題とのバランス
さらに、次のような関連課題も考慮する必要があります。
- 社会的課題と人権侵害。貧困下での危険な労働環境、汚染への曝露、その他の問題が含まれます
- 重要な原材料へのアクセス確保。たとえば、コバルトの60%以上はコンゴ民主共和国という一国から調達されています。この状況を受け、規制当局は重要原材料のリストを作成しています
- イノベーションを通じて、包摂的な経済発展と持続可能な開発を促す機会を創出すること
バッテリーの生産と利用の基盤となる仕組みを変えるため、規制から企業の取り組み、市民の意識向上に至るまで、官民の組織が連携して取り組む必要があります。
グローバル・バッテリー・アライアンスは、この連携を可能にする新たなプラットフォームです。私たちの気候変革は、ほかの目標や、最も余裕のない人々を犠牲にして進めてはなりません。


