化石燃料は気候変動の主な原因の一つであり、エネルギーを得るために燃焼させると炭素が大気中に放出される。
オーストラリアの科学者らは、リチウム電池より効率よくエネルギーを蓄え、石炭火力発電所を排出ゼロで稼働させ続けるのに役立つMGAブロックを開発した。
MGAブロックは複数の金属を混ぜて作られており、水を沸騰させるためのエネルギーを放出できる。
気候変動が深刻化するなか、化石燃料関連の雇用やインフラの将来は不透明だ。しかし、オーストラリアで発明された新たなエネルギー貯蔵技術により、石炭火力発電所を完全に排出ゼロで稼働させられる可能性がある。
ミシビリティーギャップ合金(MGA)と呼ばれるこの新素材は、熱の形でエネルギーを蓄える。MGAは金属を混ぜ合わせた小さなブロックに封入され、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電された電力を受け取る。
蓄えたエネルギーは、排出を生じさせずに石炭火力発電所の蒸気タービンを動かすため、石炭の代わりに利用できる。レゴのように積み重ねられるMGAブロックは、需要に応じて追加したり取り外したりでき、発電量を調整できる。
MGAブロックのコストは、競合するエネルギー貯蔵技術であるリチウムイオン電池のごく一部にすぎない。私たちの発明は実証されており、実験室での検証を終え、現在は実環境で実証する次の段階に進んでいる。
エネルギー貯蔵が重要な理由
太陽光や風力などの主要な再生可能エネルギー源は「変動性」がある。つまり、太陽が照り、風が吹いているときにしか発電できない。必要量を上回ることもあれば、不足することもある。
そのため、電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるには、必要なときに供給できるよう、エネルギーを貯蔵し、求めに応じて供給できる「調整可能」な状態にする必要がある。貯蔵方法のなかには、リチウムイオン電池のように比較的高価で、短期間しかエネルギーを蓄えられないものがある。一方、水力発電のように長期間蓄えられる方法もあるが、立地に左右され、どこにでも建設できるわけではない。
電力網を排出ゼロにするには、手頃な価格で、かつ大規模に展開できるほど汎用性の高いエネルギー貯蔵手段が必要だ。毎晩、調整可能な電力を6~8時間供給できるものが求められる。
MGAは1日から1週間にわたってエネルギーを蓄えられる。電池と水力発電の間にあたる「中間」の時間幅を補い、変動する再生可能エネルギーを必要なときに供給できる。
私たちの発明の仕組み
今後20年間で、世界各地の多くの石炭火力発電所が運転を終了、または廃止される見込みで、オーストラリアも例外ではない。私たちが提案する貯蔵技術によって、発電所を転用し、インフラを維持して雇用の喪失を防げる可能性がある。
石炭火力発電所でこの技術を使うには、炉とボイラーを撤去し、MGAブロックを収めた貯蔵装置に置き換える必要がある。
MGAブロックの大きさは20cm x 20cm x 16cm。基本的には金属を混ぜ合わせたもので、加熱すると溶ける金属と、溶けない金属から成る。電子レンジで温めたチョコチップマフィンを想像してほしい。マフィンには、加熱しても全体の形を保つ生地の部分と、溶けるチョコチップがある。
ブロックはエネルギーを蓄えるだけでなく、水を加熱して蒸気を作る。古い石炭火力発電所では、この蒸気を使ってタービンと発電機を動かし、石炭を燃やす代わりに電気を生み出せる。
蒸気を作るため、ブロック内部に配管を設け、そこに水を送り込んで沸騰させる設計にできる。あるいは、ブロックを熱交換器(湯を加熱するために特別に設計されたシステム)と組み合わせる方法もある。
旧式の石炭火力発電所は、供給過剰となる日中(太陽光の場合)や風の強い時間帯(風力の場合)に、本来なら出力を抑えられる再生可能エネルギーを使って稼働できる。
私たちの研究で明らかになったのは、ブロックは同じ大きさのリチウム電池よりはるかに低コストでありながら、同じ量のエネルギーを生み出すということだ。
MGAブロックの実環境での実証
私たちのチームは、2010年から2018年にかけてニューカッスル大学で研究を行い、この新素材を完成させた。昨年、MGA Thermalという会社を設立し、技術の商用化と実環境でのプロジェクトに取り組んでいる。
今年7月、MGA Thermalはニューサウスウェールズ州ニューカッスルに実証製造工場を設立するため、連邦政府の産業・イノベーション・科学省から49万5,000豪ドル(A$495,000)の助成金を受けた。このプロジェクトは来年後半に稼働を開始する予定だ。大規模な実証プロジェクト向けに、商業規模の数量のMGAブロックを経済的に製造できるようにすることが目標だ。
MGA Thermalはスイス企業E2S Power AGと提携し、急速に変化する欧州の石炭火力発電業界でこの技術を試験する。来年から始まる試験では、稼働中の石炭火力発電所にMGA貯蔵装置を後付けする。これにより、この技術の経済性も検証する。
周辺インフラをすべて含め、貯蔵コストを1キロワット時あたり50豪ドル(A$50)にすることを目指している。現在、リチウムイオン電池のコストは1キロワット時あたり約200豪ドル(A$200)で、電力網へ電力を送る場合は追加費用がかかる。
では、欠点は何だろうか。MGAは電池より応答時間が大幅に遅い。電池はミリ秒単位で応答し、風力タービンなどによる供給の短時間の急増や低下を補うのに適している。一方、MGA貯蔵の応答時間は15分を超えるが、より長期間エネルギーを蓄えられる。
電池、MGAによる蓄熱、水力発電の3つを組み合わせれば、変動する再生可能エネルギーの供給に素早く対応しながら、大規模なエネルギー貯蔵を実現できる。
安全でリサイクル可能
MGAブロックは安全で無毒だ。他の燃料の一部とは異なり、爆発や漏出の危険はない。
ブロックはリサイクルもできる。耐用年数は25~30年と見込まれ、その後は材料ごとに簡単に分離できる。新しいブロックの製造に使うか、他の用途向けの原材料としてリサイクルできる。
どのような新技術でも、業界に受け入れられ、商業プロジェクトで広く使われるには、経済性が実証されなければならない。MGAブロック技術の初の実規模実証が目前に迫っている。成功すれば、石炭火力発電所をクリーンに利用できるようになり、石炭産業で働く人々の将来に希望をもたらす可能性がある。



