数々の危機により、地政学的ショックや分断が世界のエネルギーシステムにどのような影響を及ぼすかが明らかになった。
こうしたショックはエネルギー転換の失敗を示すものではなく、その根本的な制約に向き合い、効果的に管理する必要性を浮き彫りにしている。
いま求められているのは、ショックに強く、地域の実情に即したエネルギーシステムを設計することだ。
2022年初頭、ジェイソン・ボードフとメーガン・オサリバンは、『Foreign Affairs』誌の記事「Green Upheaval(グリーンな激変)」で、「クリーンエネルギーへの円滑な移行という話は空想にすぎない」と警鐘を鳴らし、「移行の過程は、よくても混乱を伴うだろう」と付け加えた。
4年が経ち、COVID-19、ロシアによるウクライナ侵攻、そして現在の中東での戦争という3つの危機を経験したいま、この警告は先見の明というより、現状の診断のように響く。それぞれの危機が世界のエネルギーシステムにストレステストを課し、ある核心的な事実を明らかにした。エネルギー転換は、気候変動対策への意欲だけが存在する真空の中で進んでいるのではなく、地政学的ショック、経済の分断、各国の優先事項の競合に形作られる世界で進んでいる。
最近の危機は、目先の価格圧力にとどまらず、より深い構造的課題を露呈させた。エネルギー転換が、国内および国家間の既存の不平等を悪化させるリスクである。
エネルギーコストの上昇は、低所得世帯に不均衡な影響を及ぼす一方、消費者を保護するための財政措置は地域によって大きく異なる。世界全体で見ると、財政余地がすでに限られている途上国は、エネルギーへのアクセスを拡大し、経済成長を支えながら、転換を加速するよう求められている。
こうしたショックはエネルギー転換の失敗を示すものではなく、その根本的な制約に向き合い、より効果的に管理する必要性を浮き彫りにしている。
気候変動対策の鍵となるエネルギー安全保障と手頃な価格
近年得られた最初の、そして最も重要な教訓は、エネルギー安全保障と手頃な価格に取り組まなければ、気候変動対策への意欲を持続できないということだ。
COVID-19により、投資サイクルと需給バランスの脆弱性が明らかになった。2022年には、ウクライナでの戦争が、本格的なエネルギー安全保障危機を引き起こし、特に欧州では天然ガス価格が前例のない急騰を見せた。中東での戦争は、世界のエネルギー市場に織り込まれた地政学的プレミアムをさらに押し上げ続けている。
世界経済フォーラムの「効果的なエネルギー転換の促進 2024」レポートにも、この変化が反映された。エネルギーのトリレンマ、すなわち安全保障、手頃な価格、持続可能性の3要素についてバランスよく前進した国が、最も高いレジリエンスを示した。
このバランスが崩れると、政治的合意はすぐに揺らいだ。供給を確保するため、一部の欧州諸国は一時的に石炭へ回帰し、各国政府は価格ショックを和らげるため化石燃料への補助金を拡大し、転換コストの上昇に対する市民の反発も強まった。
ボードフとオサリバンが予見したように、気候政策が供給の信頼性や手頃な価格を損なうと受け止められれば、「転換は減速する」だろう。
システム全体に共通する転換の物語、地域ごとに異なる現実
もしパリ協定、グラスゴー気候合意、そしてUAEコンセンサスの時代が収斂によって特徴づけられたとすれば、エネルギー転換の現在の局面は、乖離の拡大を特徴としている。中東で続く危機はすでに市場への影響が地域ごとに異なることを示しており、緊張が続けば、より広範な世界的影響が生じる可能性が高い。
地域別の天然ガス価格指標は、これを明確に示している。米国のヘンリー・ハブ価格は3ドル/MMBtuを下回る水準に戻った一方、欧州とアジアの指標価格は構造的に高い18~20ドル/MMBtuにとどまっている。これは、今日のエネルギー危機が世界全体ではなく、極めて地域的なものであることを示している。
過去1年間で、天然ガス市場は相対的な収斂から再び乖離へと移った。2025年半ばには価格差が比較的小さかったが、2025/26年の冬に大きく乖離し、米国の価格が比較的穏やかに推移する一方、欧州とアジアでは大幅な価格急騰が見られた。
これは根強い構造的な格差を反映している。米国は国内供給の優位性を享受する一方、欧州とアジアは外的ショックにさらされやすく、アジアでは通常、プレミアムが続いている。
こうした動きは、危機が重層化する様子を示している。COVID-19後の正常化を経て、2025年を通じて市場は徐々に逼迫し、その後、安全保障上の懸念、気象条件、地政学に起因する冬季の急騰が生じた。続く調整は部分的なものにとどまり、価格の収斂は回復していない。
この乖離は、資源の賦存状況、市場設計、システムのレジリエンス、地政学的リスクへの露出における、より深い構造的な違いを反映している。
世界のサプライチェーンから戦略的な管理へ
3つ目の教訓は、おそらく最も重大なものだ。エネルギー転換はエネルギーシステムを変えるだけでなく、グローバル化そのものを再構築している。COVID-19によって、高度に最適化されたサプライチェーンの脆弱性が明らかになり、相次ぐ危機を経て、効率性からレジリエンスへ、さらに戦略的な管理へと向かう動きが加速した。
エネルギー転換は、リチウム、コバルト、レアアースなどの重要鉱物だけでなく、新たな技術にも及ぶ複雑なグローバル・バリューチェーンに依存している。『Foreign Affairs』誌の「Green Upheaval(グリーンな激変)」の記事が指摘したように、こうしたサプライチェーンの管理は新たな地政学的パワーの源となりつつあり、中国は採掘と加工の両方で支配的な地位を占めている。
これを受け、各国政府は切迫感を強めて行動している。米国と欧州連合(EU)は大規模に産業政策を展開しており、重要資源の備蓄や二国間パートナーシップによる確保の取り組みと並んで、「フレンド・ショアリング」や「デリスキング」の戦略が広がりを見せている。
しかし、この変化は根本的な緊張をもたらす。エネルギー転換には世界規模の広がり、開かれた市場、緊密な相互接続が必要だが、地政学的な現実は逆方向、すなわち地域化と分断へと向かわせている。生じつつあるのは、必ずしもグローバル化からの全面的な後退ではなく、レジリエンスと安全保障が効率性をますます上回る、より管理された相互依存の形である。
危機対応から戦略的な再編へ
ここで挙げた3つの危機はエネルギー転換を頓挫させたわけではないが、そのあり方を根本から変えた。かつては直線的で世界的に協調された転換として構想されていたものが、いまではトレードオフ、乖離、戦略的競争によって形作られる、分断され危機に駆動される変革として進んでいる。ボードフとオサリバンが警告したように、エネルギー転換は地政学をなくすのではなく、再定義することになる。
今後の課題は、転換を加速することだけではなく、その内在する不安定さを管理することだ。すなわち、クリーンであるだけでなく、ショックに強く、地域の実情に即し、市民の支持を維持できるエネルギーシステムを設計する必要がある。
重要なのは、転換のコストと利益が国内および国家間でより公平に分配されるようにすることも必要だという点だ。不公平だという認識は、転換の政治的・社会的な実現可能性を損ない続けるおそれがある。
これが実現しなければ、最大のリスクはエネルギー転換がより複雑になることではなく、減速し、あるいは完全に停滞することだ。

