デジタル活動によって生成される膨大なデータの収集を意味するビッグデータの拡大をめぐる、もっともな懸念の数々が、個人に関する情報がますます収集されるなかで、プライバシーへの懸念を背景に頂点に達しつつあるようだ。特に懸念されるのは、企業が収集したデータを使い、アクセスできる情報に応じて個人ごとに異なる価格を請求する可能性だ。しかし、ビッグデータを背景とする価格差別は、より穏当なものになり得るのだろうか。最近の 分析 では、米大統領経済諮問委員会がまさにこの問いを検討している。
「差別」という言葉の響きとは異なり、価格差別は必ずしも悪いことではない。映画のチケットを考えてみよう。映画館は上映に際し、異なるグループに異なる価格を設定することがよくある。たとえば65歳を超える顧客にはシニア割引が適用される。退職者は働く人より予算に余裕がないことが多いため、映画館は年齢を価格への敏感さを示す代理指標としているのだ。高齢者に割引を提供することで、映画館はより多くの客を呼び込み、通常料金では来なかったかもしれない顧客を獲得して利益を増やす。顧客も、高い料金では観られなかった映画を観られるため、利益を得る。
この種の価格差別は、経済学者が「第3級価格差別」と呼ぶもので、人口統計上のグループに基づいて価格を設定する方式だ。ほかの例としては、 電子商取引企業 や 旅行予約 サイトが、利用者のコンピューターや携帯電話に応じて価格を調整するケースがある。第2級価格差別とは、消費者が購入する数量が増えるほど商品の価格が下がることを指し、市場経済では日常的に起きている。
しかし、ビッグデータは「第1級価格差別」として知られる価格差別を生み出す可能性がある。この場合、企業は各顧客が商品に支払う意思のある最高額を支払うよう、価格を個別に設定できる。米大統領経済諮問委員会の報告書は、価格が個別に設定される消費財の例として自動車を挙げている。新車でも中古車でも、ディーラーで車を買ったことがある人なら、表示価格は交渉の出発点にすぎず、個別の値引き交渉が想定されていることを知っている。企業が顧客の個別の所得状況や信用履歴などのデータにアクセスできる場合、この種の価格差別が利用されることは十分に考えられる。
しかし、さらに示唆に富む例がある。書店が、見込み客がソーシャルメディアで特定のテーマの記事をシェアしていると知れば、関連書籍により高い価格を設定できるかもしれない。書店は販売からより多くの利益を得る一方、顧客が得られる 消費者余剰 は少なくなる可能性がある。市場全体を対象にした場合よりも高い価格を請求されるからだ。
ビッグデータを利用する研究者らに話を聞いたうえで、米大統領経済諮問委員会の報告書は、第1級価格差別は普及していないようだと述べている。インターネット企業は、今のところ価格の個別設定を控えているようだ。ただし報告書は、企業がウェブサイト上でテストを実施し、さまざまな商品の需要曲線を把握しているようだとも指摘する。厳密には価格差別ではないが、この手法によって企業は、市場がどの価格を受け入れるかについて情報を得られる。
したがって、ビッグデータを活用した第1級価格差別は、現時点では現実のものになっていないようだ。しかし、こうした大規模なデータセットをビジネスに利用するのはまだ始まったばかりである。当面は著者らが示唆するように、プライバシー、消費者保護、差別に関する既存の規制を執行することに政策の重点を置くのがよいかもしれない。技術の進歩が速いことを踏まえ、政策立案者はこの分野を注視すべきだ。
本記事は、次の団体との協力により掲載されています。 ワシントン公平成長センター本記事の掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:ニック・バンカーは、ワシントン公平成長センターの政策アナリスト。
画像:ロサンゼルスのザ・グローブ・モールにあるアメリカン・ガールの店舗の窓辺で、人形を指さす5歳のチャーリー・クロスビー。REUTERS/Lucy Nicholson

