人類学者は何十年もの間、人間の知能の進化に関心を寄せてきた。主な研究の手がかりとなってきたのは、火や道具などの使用に関する考古学的発見である。
では、脳が収まっていた場所、つまり化石の頭蓋骨に証拠を探してみるのはどうだろうか。
人間の脳の体積は、300万年前の祖先であるアウストラロピテクスの約3.5倍に増加した。
知能は脳の大きさと相関すると一般に考えられている。その理由は、哺乳類の脳に含まれる神経細胞の数が、脳の大きさに直接関係しているように見えるためだ。
私たちの研究は、脳への血流量に注目した。血液は不可欠な酸素を供給するため、血流量は代謝率と密接に関係している。脳への血流が止まると、数秒以内に意識を失う。
通常、脳には毎秒約7ミリリットルの血液が流れている。驚くべきことに、起きているときも、眠っているときも、数学の問題を解いているときも、この流量はほとんど変わらない。
脳の血管網
脳の認知を担う部分である大脳への血流は、左右1本ずつ、計2本の内頸動脈を通って届く。これらの動脈の太さは、内部を流れる血液の量に関係している。
配管工が大きな建物により多くの水を流すため太い水道管を設置するように、血液循環系は、血管内の血流量に合わせて血管の太さを絶えず調整している。血流量はさらに、その器官が必要とする酸素の量にも関係する。
脳のような器官に血液を送る太い動脈の太さを測定できれば、平均血流量をかなり正確に算出できる。
この原理は1世紀前から知られており、その美しさは単純さにある。
大きさが重要
私がひらめいたのは、動脈が通る骨の穴の大きさから、その動脈の太さを推定できると気づいたときだった。
つまり、人類の進化における化石頭蓋骨の頸動脈管の大きさを測れば、脳への血流量を測定できるということだ。
人間の頭蓋骨(右)の矢印は、左右の内頸動脈孔を示している。その大きさから大脳への血流量が分かる。エドワード・スネリング。ウィットウォーターズランド大学健康科学部解剖学部門、レイモンド・ダート人体骨格コレクション所蔵。著者提供。
着想自体はよかったが、それを研究に発展させたのは、私の学生ヴァーニャ・ボシオチッチの熱意だった。彼女はオーストラリアと南アフリカの博物館を訪れ、測定を行うため、非常に貴重な化石人類の頭蓋骨を調べる機会を得た。
300万年にわたる人類の祖先12種を調べたところ、脳の大きさから予想されるよりもはるかに速いペースで、頸動脈管が大きくなっていた。
脳の大きさが3.5倍になる間に、血流量は意外にも6倍に増え、毎秒約1.2mlから7mlになっていた。
これは、私たちの脳が祖先の脳に比べて酸素を6倍必要としていることを示している。おそらく認知能力が高まり、その分、より多くのエネルギーを必要とするためだ。
人間の脳の神経細胞(ニューロン)の数は、より大型の霊長類の脳としておおむね予想される範囲にあるようだ。そのため、今回の発見は、脳の組織がより活発に働いていることを示唆している。おそらくニューロン同士のつながりが増えたためだろう。
シナプスと呼ばれるそれぞれのつながりは、ある細胞から別の細胞へ電気信号を伝える。通常は、一方の細胞が化学物質を放出し、それがもう一方の細胞で信号の発生を促したり抑えたりする。
信号の合間に化学物質が循環するには、わずかなエネルギーが必要となる。しかし、脳には800億個の神経細胞があり、それぞれが他の細胞と何千ものシナプスでつながっていることを考えると、エネルギー消費は積み重なっていく。
人間というコンピューター
人間の体は、安静時の総代謝量の20~25%を脳に割り当てている。ほかの霊長類では8~10%、ほかの哺乳類ではわずか3~5%だ。
そのため私たちは、脳をかなり多くのエネルギーを消費するスーパーコンピューターと捉えている。
電気コンピューターとのこのたとえは的を射ている。コンピューターの処理能力が高いほど、稼働させるために必要な電力は増え、電力を供給するケーブルも太くなる。
脳も同じだ。認知機能が高まるほど、代謝率が上がり、血流量が増え、動脈も太くなる。

人間の脳の進化は、動物界の中でも独特だ。大型類人猿や人類へと至る進化を代表する、現生霊長類34種の頸動脈の太さを調べた。
霊長類の進化を代表するこれらの種では、体の大きさと脳の大きさの両方が増したが、体のほうが速く大きくなった。霊長類の脳への血流量は、脳の大きさにほぼ比例して増えた。血流量が脳の大きさを上回るペースで増加したのは人類種だけであり、脳は大きさだけでなく、使われ方も発達していたことを示している。つまり、私たちの祖先はより賢くなっていたのだ。


