「量子」という言葉を聞いてすぐに敬遠しないとしても、量子コンピューターは現実のものというより、SFに根差した奇抜な構想のように聞こえる。
しかし、 この分野における最近の画期的な進展 は、こうした驚くほど高速なコンピューターが、私たちの予想より早く登場する可能性を示している。
そして、その登場に期待する理由はたくさんある。
スタートアップの量子コンピューティング企業である QxBranchの取締役を務めるレイ・ジョンソン氏は、量子コンピューティングを研究室から実社会へと移そうと取り組む多くの企業の一社として、Business Insiderに期待の理由をいくつか説明した。
量子コンピューターの 魅力 は、ほぼ解くことのできない問題を解決できる点にある。あまりに複雑なため、現在のコンピューターでは解くのに何十年もかかる問題だ。理論上、量子コンピューターなら、朝のコーヒーを飲み終える前に解ける可能性がある。
「解けない」問題
私たちが日常的に使う通常のコンピューターは、「ビット」を使って情報を1または0として記録する。1と0の列が、特定の数字や文字を表す。
一方、量子コンピューターは、微小な粒子が同時に複数の場所に存在できるという、物理学における非常に奇妙な現象を利用する。2つの「状態」しか持たないビットの代わりに、量子ビット、略して「キュービット」と呼ばれるものを使う。キュービットにはもう一つ状態があり、1、0、またはその両方に同時に存在できる。
したがって、2ビットでできた通常のコンピューターは、00、01、10、11という4通りの組み合わせのうち一つだけで情報を表せる。量子コンピューターは、その4通りすべてを同時に保持できる。これにより、通常のコンピューターより指数関数的に多くの情報を扱える。
通常のコンピューターと量子コンピューターの違いを考えるもう一つの方法は、数学で有名な「巡回セールスマン」問題の一種を思い浮かべることだ。この問題では、あなたは出張旅行を計画するセールスマンで、10の異なる都市を巡る経路のうち、費用(ガソリン代)が最も安く、最も速いものを見つけようとしている。
通常のコンピューターは、すべての経路の長さを個別に計算し、その結果を比較して最適な経路を見つけなければならない。キュービットは大量の情報を一度に処理できるため、量子コンピューターならすべての経路の長さを同時に算出でき、はるかに速く答えにたどり着ける。
量子コンピューターならではの違い
量子コンピューターがあらゆる場所で使われるようになる前には、いくつかのハードルがある。
現在、量子コンピューターは極低温の環境に保つ必要があり、ごくわずかな外乱でも、その繊細な状態が崩れてしまう。しかし、 3月の大きなブレークスルーで、Googleは量子コンピューターをより安定させる方法を見いだし、一部の科学者は、完全に機能する量子コンピューターの実現まで半分のところに来たと述べている。GoogleはNASA、IBMとともに、実現に向けて精力的に取り組んでいる。
Julian Kelly/University of California, Santa Barbara, Google Googleの研究者が量子コンピューティングの実証に使用しているチップ。
そして、量子コンピューターがついに登場すれば、産業全体を変革する可能性がある。
ロッキード・マーティンの元CTOでもあるジョンソン氏は、現在のコンピューターは、人間が苦手な作業を得意としていると説明した。たとえば、人間は1,000万個の数字を記憶して表計算シートに入力し、それらの数字を使ってすばやく計算することはできない。そうした作業は通常のコンピューターに任せている。
量子コンピューターも、こうした作業を通常のコンピューターより速くできるわけではない。一連の数字を合計するのに、これ以上優れた、あるいは速い方法はない。
量子コンピューターが本領を発揮する可能性があるのは、コンピューターが得意なことと人間が得意なことの隔たりを埋めることだと、ジョンソン氏は述べた。
人間は、複雑な状況をくまなく調べ、その中から何かを見つけ出すのが得意だ。「ウォーリーをさがせ!」の群衆の中からウォーリーを見つけるようなものだ。私たちの脳はこれを自然に行い、コンピューターよりもはるかに少ない労力で済む。一方、量子コンピューターは、人間の脳により近い働きをするようプログラムできる可能性がある。
人間と同じように、量子コンピューターは経験から学べるからだ。たとえば、ある作業で何度も失敗するプログラムを量子コンピューターが実行している場合、その量子コンピューターはプログラムのコード自体を調整し、今後同じミスが起きないようにできる可能性がある。
この概念は機械学習と呼ばれる。メールサービスが、どのメッセージを迷惑メールフォルダーに入れ、どれを受信トレイに通すかを学習する仕組みに似ているが、はるかに高度だ。
量子コンピューターの機械学習によって、さまざまなことをより速く、より効率的に行えるようになる可能性がある。
量子コンピューターの応用
たとえば、量子コンピューターは航空宇宙分野や軍事・防衛システムを効率化できる可能性がある。現在、私たちは多くの衛星を運用しており、膨大な量の画像や動画を絶えず収集している。ジョンソン氏によると、データが多すぎて誰もすべてを確認できないため、その多くは破棄され、見られることもない。特に、現在のコンピューターは膨大なデータセットから対象をすばやく認識し、抽出することがあまり得意ではない。
量子コンピューターなら、その膨大なデータの山をはるかに速く調べ、人間が詳しく見るべき画像や動画と、単に捨ててよいものを示せる可能性がある。
量子コンピューターのこうした能力は、より安全な車両の実現にもつながる可能性がある。量子コンピューティングは、( NASAの自動運転車ほど画期的ではないものの)ボールが道路に転がり出てきたときに警告し、ブレーキをかける必要があると知らせるような、半自動運転車の開発に役立つ可能性がある。
量子コンピューターが産業をどのように変えうるかは、まだほんの一端に触れたにすぎない。
ジョンソン氏は、今後数年で小さなブレークスルーがさらに現れ、5年後には重大で、状況を一変させるようなブレークスルーが起きると考えている。
各家庭に量子コンピューターが置かれるようになるのは、まだずっと先のことだ。しかし、それを実現する鍵は、研究室のコンピューター科学者だけでなく、誰もが量子コンピューターを使えるようにする、使いやすいインターフェースの開発にある。QxBranchはその開発に取り組む予定だ。
一方、量子コンピューティングの産業・商業分野での応用は、それほど遠い未来のことではなさそうだ。
この記事は、 Business Insiderとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムがその見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:Kelly Dickerson氏はBusiness Insiderの科学記者で、宇宙と物理学を担当している。
画像:2007年1月9日、台湾積体電路製造(TSMC)の新竹施設で、12インチウエハーが展示されている。REUTERS/Richard Chung。

