数十億年にわたる細菌の進化をたどる

数十億年にわたる細菌の進化をたどる
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細菌は、たとえば4階にいる恐竜のように、自然史博物館で目立つ場所を与えられているわけではないかもしれません。ギフトショップに専用のプラスチック製おもちゃがあるわけでもないでしょう。しかし、進化を生き抜く力という点では、この小さな生き物たちはまさにチャンピオンです。

細菌が地球に現れたのは、生命そのものの黎明期、約35億年前のことです。それ以来、細菌は驚くべき進化的適応を示し、成層圏の高高度から地表下何マイルもの深さまで、北極圏の冷たい湖から極度の高温の熱水噴出孔まで生息してきました。

しかし、こうした微小な生き物は、ただ受動的に環境へ適応するだけでも、機会をうかがうだけでもありません。細菌は私たちの環境を形づくるうえで大きな役割を果たしました。微生物は私たちが呼吸する大気中の酸素を生み出し、現在では廃棄物を分解し、重要な栄養素を再循環させることで、地球の生態系を再生させています。

コロンビア大学の デニス・ヴィトクプ准教授は、細菌は私たち一人ひとりとも密接な関係にあると論じます。同大学の システム生物学 および 生物医学情報学各学科に所属するヴィトクプ氏は、「体内の細胞の総数を考えると、人間の細胞より細菌のほうが約10倍多く存在します。私たちは細菌と非常に相乗的な生活を送っています」と話します。

細菌が私たちの健康と環境にもたらす貢献は、通常、その小ささゆえに見えません。しかし、見えないからといって重要でないわけではありません。ヴィトクプ研究チームの博士研究員である ヘルマン・プラタ氏は、「細菌が突然消えてしまえば、私たちが知る地球上の生命はすぐに止まってしまうでしょう」と語ります。

デニス・ヴィトクプ教授による、多様な細菌が外部に示す特徴を合成したイラスト。

微生物は至るところに存在するにもかかわらず、その進化的適応の研究はしばしば困難です。その一因は、多様な細菌を実験室で培養する難しさにあります。「実験室で本当によく研究されている細菌は、おそらく十数種にも満たないでしょう」とヴィトクプ氏は話します。

今年1月、学術誌 『ネイチャー』 に発表した論文で、ヴィトクプ氏とプラタ氏は計算ツールを用い、生命の微生物系統樹全体を網羅する300種を超える細菌について代謝をシミュレーションし、その進化的適応を調べました。

数十億年にわたる進化的適応の謎を理解するため、ヴィトクプ氏はダーウィンの有名なフィンチを例に挙げます。数百万年の間に、異なる島にいたフィンチは、異なる種類の種子を拾って食べられるよう、さまざまな形のくちばしを発達させました。くちばしの形や行動など、動物の外見上の違いは遺伝的な違いの外部への現れであり、研究者は通常、これを表現型の違いと呼びます。「しかし、数十億年にわたる細菌間の表現型の違いを、どう比較すればよいのでしょうか」とヴィトクプ氏は問いかけます。

ヴィトクプ氏とプラタ氏は、細菌の生存を左右する重要な要因は、さまざまな食物源で増殖できる能力だという、ひとつの重要な考えから出発しました。個々の細菌の表現型は、利用可能な栄養素を、成長と繁殖に必要な化学物質へ変換する能力によって決まります。そこでチームは細菌の代謝シミュレーションを用い、数百の環境における表現型を予測しました。「細菌の代謝は、表現型の適応と多様化のパターンを見分ける一種の顕微鏡として機能します」とプラタ氏は話します。

ヴィトクププ氏のチームは、細菌の長期的な適応が異なる2つの段階を経て進むことを発見しました。まず、数千万年続く比較的速い多様化が起こり、その後、数十億年にわたって続く緩やかな分岐過程が続きます。

驚くべきことに、チームは長期的な多様化の平均像を、単純な数学モデルで表すことができました。このモデルは、平均すると数十億年という尺度で表現型が一定の速度で変化していることを示し、地球上で生命が始まって以来、細菌の適応が途切れることなく続いていることを明らかにします。

ウクライナ出身のヴィトクプ氏は、モスクワ物理工科大学で理論物理学を学びました。1992年、21歳で米国に渡り、ブランダイス大学で生物物理学の博士号取得に取り組みました。その後、ハーバード大学のマーティン・カープラス研究室(2013年ノーベル化学賞受賞者)で、コンピューターを使ったタンパク質動態のシミュレーションに携わりました。

ヴィトクプ氏は、MITとハーバード大学医学大学院で博士研究員を務めた後、2004年にコロンビア大学に着任しました。ヴィトクプ氏の元学生であるプラタ氏は、コロンビア国立大学で生物学の学位を取得しました。母国で植物バイオテクノロジー研究者として働いた後、2008年に同大学の大学院課程に入りました。

この10年間、ヴィトクプ研究グループは、DNA配列と既知の生化学的相互作用を用いて、特定の微生物に存在する可能性の高い代謝反応の一覧を出力するコンピューター・アルゴリズムを開発してきました。こうした手法は、致死性の病原体と闘うために利用できる可能性があります。実際、これらのアルゴリズムはすでに、マラリア原虫の代謝を解明するために使われています。「約40の新たな治療標的を予測できました」とプラタ氏は話します。昨年、ヴィトクプ氏は米国国立衛生研究所から助成金を得て、ヒトに感染する主要な細菌性病原体すべてについて、精度の高い代謝モデルを構築することになりました。

ヴィトクプ研究室が開発した計算アルゴリズムにより、今後10年間に配列決定される数十万の細菌ゲノムを解析できるようになります。ヴィトクプ氏は、「核研究分野のシミュレーションと同様に、こうした研究の大半がコンピューター上で行われ、その後、場合によっては実験室で結果を実験的に検証する時代に向かっています」と話します。ヴィトクプ氏らの次の課題は、複雑さの度合いを高め、共生微生物群集のなかで何百もの細菌がどのように協働するのかを理解することです。「目に見えない微生物の世界の美しさと複雑さを、本当に理解するためのツールが手に入ったのです」とヴィトクプ氏は述べ、期待を寄せます。

本記事は、 コロンビア・ニュースとの共同制作です。記事の掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。

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著者:デニス・ヴィトクプは、コロンビア大学システム生物学および生物医学情報学各学科の准教授です。ヘルマン・プラタは、ヴィトクプ研究チームの博士研究員です。

顕微鏡で見た腸内細菌。REUTERS。

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