世界経済フォーラムの「新興技術トップ10」レポート第10回記念版が、11月16日に発表されます。
発表を前に、この10年間に登場した最大級の新興技術を振り返ります。
新興技術のすべてが、まだ成熟したわけではありません。
過去10年間の大きな技術的進歩は、私たちの暮らし方、働き方、そして人との関わり方を変えてきました。
しかし、こうした進歩の多くは研究所や民間企業の内部で起きたか、あまりにも早く日常生活に浸透したため、気づかれないことも少なくありませんでした。
新興技術を振り返る
毎年、世界経済フォーラムと『サイエンティフィック・アメリカン』が招集する専門家たちは、世界の社会、経済、環境に大きな影響を及ぼすと見込まれる新興技術を予測しています。
こうした技術の一部は広く知られるようになり、私たちの生活にすっかり溶け込んだ一方で、普及の勢いがなかなかつかないものもあります。
11月16日に発表される「新興技術トップ10」レポート第10回記念版を前に、過去9回のレポートで取り上げられた技術のいくつかを振り返り、問いかけます。その技術は世界を変えたのでしょうか。それとも、可能性を実現できなかったのでしょうか。今日の暮らしにどのような影響を及ぼし、今後どこへ向かうのでしょうか。
電動航空
「新興技術トップ10」に登場した技術の中でも比較的新しい電動航空は、2020年のリストに選ばれました。この技術は以前から存在しており、たとえば電動グライダーが挙げられますが、脱炭素化の必要性を背景に、昨年はイノベーションが加速しました。
「私たちは炭素排出ゼロの世界へ移行しています。航空部門は炭素排出量の2%を占めており、新型コロナウイルス感染症の影響があっても、その割合はさらに増える見通しです」と、38 North Solutionsの会長であり、世界経済フォーラムのクリーン電化グローバル・フューチャー・カウンシルの共同議長を務めるキャサリン・ハミルトン氏は述べています。
「数百社がイノベーションに取り組んでおり、多くの顧客が導入を待っています。こうした産業のサプライチェーンが築かれつつあり、何より、ユナイテッド航空、エアバス、DHL、UPSなど大口の購入企業が、これらの航空機を発注しています。」
電動航空機は主に、ハイブリッド型と完全電動型の2種類に分けられます。固定翼機を改造する方法のほか、都市部向けの電動垂直離着陸機(eVTOL)もあります。ヘリコプターのように離陸した後、従来型の飛行機に似た形態へ移行します。
バッテリー技術も進歩していますが、重要な課題として、依然としてバッテリーのエネルギー密度があります。
「幸い、電気自動車やエネルギー貯蔵の発展によって、バッテリーは大きく進歩しました。リチウムイオン電池はエネルギー密度が大幅に高まり、今後は全固体電池も登場すると期待できます。もう一つの要素は水素燃料電池です。電動航空のさまざまな用途に対応できるよう、多様な技術を取り入れる必要があります。」
多くの企業がすでにこうした新技術を試験しており、ハミルトン氏によると、小型機の一部は早ければ2023年にも飛行認証を取得する見込みです。
「まず取り組むべき重要な分野は、小型の2人乗り訓練機です。今後数年以内に準備が整うでしょう。その次に必要なのは、海を越えるフライトです。実現には少し時間がかかるかもしれませんが、一歩ずつ進めるしかありません。」
同氏は、イノベーションを起こすだけでなく、それを拡大し、航空機に搭載する技術の健全なサプライチェーンを確保するとともに、適切な承認を得る必要があると述べます。「そうすれば、搭乗する人々は、安心して移動できるよう安全に作られていると確信し、気持ちよく飛行機に乗れるでしょう。」
人工知能
対話型AIは絶えず進歩しています。人工知能が「新興技術トップ10」に選ばれた2018年には、IBMのProject Debaterが人間を論破しました。
マイクロソフトのDynamics 365におけるAI担当最高技術責任者、ソフィア・ベラステゴイ氏は、AIに議論の仕方を学習させた方法を説明し、これは可能性のほんの始まりにすぎないと述べています。
「デジタルアシスタントを支える主な技術は、文脈や感情分析を加えた自然言語理解に関する機械学習です。話し言葉をテキストに変換し、話題や個人の感情を参照して、その会話を活性化できます。」
「完全な対話型エージェントの実現に向けた道のりはまだ続いていますが、たとえばXiaoiceでは成果が見られます。サービス開始後わずか3か月で5億回の会話が行われ、平均23回のやり取り、つまり約10分間の会話がありました。」
ベラステゴイ氏によると、今後5~10年で、対話型AIは仕事や日常生活で人々を支援するため、さらに幅広く組み込まれると予想されます。
「デジタルエージェントと人間のハイブリッドな関わり方が増えるでしょう。AIの高度な機能を活用して、より複雑なオンライン検索ができるようになったのと同じです。」
「同等の性能を保ちながら、より自然な方法でやり取りできる柔軟性が得られます。7歳から70歳までの人々が安心して利用できるようにするうえで、これは重要です。」
ただし、対話型AIを誰もが利用できるようにするには、乗り越えるべき技術的な課題が多くあります。世界各地で、より安価で高性能なモバイルコンピューティング端末と接続環境を整える必要があります。また、5Gでエッジ端末とクラウド間の通信を強化して遅延を抑え、より自然な応答時間を実現する必要もあります。
会話を処理するクラウドコンピューティングの改善も必要です。また、低コストのセンサーをつないで新たな信号層を加えるモノのインターネット(IoT)によって、理解が深まります。文脈把握と正確性を高めるため、特定分野に合わせたAIシステムの訓練にも、さらに投資する必要があるとベラステゴイ氏は述べます。
将来、AIはさらに個別化され、一人ひとりに異なる応答を返すようになると同氏は見ています。
遺伝子工学
精密な遺伝子工学技術が、将来、人々の健康から食料安全保障まで、あらゆる分野にどれほど貢献できるかについて、私たちはまだ「氷山の一角」しか見ていません。
そう述べるのは、マサチューセッツ工科大学の神経科学教授であり、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術の先駆者の一人であるフェン・ジャン氏です。この技術は、人間のDNAにある個々の変異を修復するためのツールです。
遺伝子工学は2015年の「新興技術トップ10」に選ばれました。それからの数年間、この分野はCRISPRの画期的な進展もあって大きく前進しました。
文書の誤字を「検索」機能で探すのと同じように、CRISPR-Cas9は細胞の化学的環境の中で変異を見つけ、病気の治療に役立つとジャン氏は説明します。
「RNAの形で配列を与えることができます。CRISPR-Cas9はその配列を受け取り、ゲノムを検索して、DNAのどこにその変異、つまり遺伝的な違いがあるかを見つけます。そこでは、配列を削除したり、新しいDNA配列を挿入したりできます。」
CRISPRが遺伝子工学技術の中で独特なのは、細胞内での再プログラムと利用が、はるかに迅速かつ容易だからです。
「以前は、特定の遺伝子を編集する新しい遺伝子編集ツールを作るのに、研究者は数週間、あるいはそれ以上かかることがありました。CRISPR-Cas9なら、数分で新しい編集ツールを設計でき、数万種類のツールを設計して、多くの遺伝子を研究し、さまざまな変異を編集できます。」
科学者たちはすでにこの技術を用いて、鎌状赤血球症や、肝臓など体の一部に生じる先天性遺伝性疾患の治療に取り組んでいます。農業では、科学者が干ばつに強く、収穫量の多い作物を開発しています。
しかし、遺伝子工学の進歩には大きな責任が伴うとジャン氏は警告します。「この技術を規制する方法を考え、何をしたいのか、どこから先には踏み込むべきでないのかを検討することが非常に重要です。」
自己修復材料
将来、材料を適切に組み合わせれば、道路は自ら修復するだけでなく、ロボットと連携して補修を助け、周囲の空気をきれいにし、洪水を緩和し、「長く健やかに機能する」ようになるでしょう。
そう語るのは、ケンブリッジ大学の土木・環境工学教授、アビール・アル=タッバー氏です。同氏の研究は、セメントの耐用年数、コスト、カーボンフットプリントの削減に焦点を当てています。
自己修復材料は2013年の「新興技術トップ10」に選ばれました。道路用の自己修復アスファルトや自動車用塗料は現実のものになりつつありますが、建設業界で求められる基準もあり、自己修復コンクリートの実用化はやや複雑です。
「生体模倣材料は、環境を感知し、適応し、反応し、自ら修復する能力を持つ自然や自然のシステムを模倣します。自己修復、自己感知、自己診断、自己免疫の機能を備えています」とアル=タッバー教授は説明します。
「自然のシステムは炭素排出、エネルギー消費、廃棄物が少ないため、より持続可能です。」
2050年までにネットゼロを達成するには、カーボンフットプリントの大きいセメントを含む建設材料を脱炭素化する必要があります。自己修復材料はその一助になります。
「初期段階の炭素排出を最小限に抑える低炭素セメントの開発と並行して、使用期間中のカーボンフットプリントも減らす必要があります。自己修復材料を低炭素のセメント系材料と組み合わせることで、ライフサイクル全体の炭素排出を削減できます。」
アル=タッバー教授は、建設業界が一丸となり、こうした材料の導入を加速することを期待しています。
道路に焦点を当てると、埋め込まれた材料に応じて、自己修復・自己感知に加え、洪水緩和やエネルギー回収の機能を備えた道路が登場するかもしれません。
システム代謝工学
2016年の「新興技術トップ10」に選ばれたシステム代謝工学(SysME)は、燃料や医薬品に必要な化学物質を、より持続可能な方法で生産するアプローチです。
細菌を含む微生物を遺伝子工学で改変し、安全に密閉された環境の中で、発酵の代謝過程の一環としてエタノールなどの化学物質を過剰生産させます。微生物は再生可能な有機資源を「餌」にします。
「ジェット燃料、ディーゼル、ガソリンの代替に適したものを含め、燃料は今やすべて、遺伝子改変した微生物の発酵によって生産されています」と、韓国科学技術院の碩座教授兼研究担当副総長、サン・ユプ・リー氏は述べます。
「こうしたファインケミカルが石油化学製品に取って代わるだけでなく、人間の健康に重要なさまざまな天然物質も、代謝改変した微生物の発酵によって、より効率的に生産されています。植物、昆虫、動物から抽出する手間と費用のかかる工程を置き換えられます。」
ゲノム配列解析、遺伝子工学、そして微生物の代謝をシステム全体の視点から理解できる代謝フラックス解析の進歩が、SysMEの発展を可能にしました。これは環境にとって朗報です。
「世界がネットゼロ目標の達成に向けて化石資源の利用から脱却しようとする中、微生物が生産するバイオエンジニアリング製品の数は増え続けるでしょう」と教授は付け加えます。
化学物質の大規模な発酵生産は、まだ経済的に実現可能ではありません。しかし今後5~10年で、この技術はデータサイエンス、機械学習、自動化を取り入れ、化学物質や材料の生産方法を大きく変える可能性があります。
「このバイオベースの持続可能な生産システムは、一般にカーボンニュートラルです。原料には、炭素源としてCO2を使って生合成されたものを用いるため、将来、私たちが使う多くの化学物質や燃料は、生物学的な手法で生産されるでしょう。」
身体に適応するウェアラブル電子機器
身体に適応するウェアラブル電子機器が2014年に「新興技術トップ10」に選ばれた当時、電子機器の設計はデバイスの用途の広がりに追いついておらず、部品はまだ硬い基板に配線されていました。
それから7年がたち、スマートウォッチや健康トラッカーは広く普及しました。心拍数を測定できるウェアラブル下着まで登場し、診断に役立つ可能性を示すことで、医療を家庭にしっかりと引き寄せています。
では、この進歩を可能にしたのは何でしょうか。
世界経済フォーラムのヤング・サイエンティストであり、ベイルート・アメリカン大学の電気・コンピューター工学准教授でもあるジョセフ・コスタンティン氏が説明します。
「こうしたウェアラブル電子機器が、グルコースや乳酸など、非常に重要なバイオマーカーを測定するイノベーションを数多く見てきました。もう一つの大きな要因は、柔軟な電子機器の製造と印刷です。これにより、電子機器をより小型で柔軟な構造や、ほかのウェアラブル衣料に組み込めるようになります。」
「柔軟な電子機器は動作周波数帯が高くなりました。今では、電磁波センシングを活用するため、マイクロ波帯やミリ波帯のスペクトルで動作する柔軟な電子機器が見られます。」
将来は専用の機器を別々に買う必要がなくなると、コスタンティン氏は予測します。快適な普段着がバイタルサインを測定し、たとえば心臓発作が起きている場合に医師へ知らせることができるようになるでしょう。ただし同氏は、こうしたウェアラブル製品を作る企業は、消費者の信頼を保つために、プライバシーに関する条件を明確に示す必要があると警告します。
個別化医療
がんやうつ病などの治療成功率が低いことから、医療従事者は以前から、患者一人ひとりに合わせた治療を模索してきました。
個別化医療は、2012年の「新興技術トップ10」の一つでした。
10年がたち、再び楽観的な見方が広がっていると、Olaris, Inc.のCEO兼創業者、エリザベス・オデイ博士は述べます。「今後5~10年で、適切な薬を適切な患者に適切なタイミングで適切な用量で届け、これらの条件をすべて最適化できるようになるでしょう。」
「効果のない薬や治療に、毎年何十億ドルも費やしています。個別化医療はこの状況を正す可能性があります。患者の転帰を改善するだけでなく、個人に効果がない薬や治療にかかる費用も削減できます。」
しかし、個別化医療がすべての人に役立つには、患者ごとに最適な治療法を見極めようとする科学者が、できるだけ多様な集団からデータを集める必要があります。
「あらゆる民族、あらゆる地域、あらゆる社会経済的背景の人々に、このプロセスに参加してもらう必要があります。そうしなければ、健康格差を拡大させるおそれがあります。それは私たちが作りたい医療の未来ではありません。」
ゲノムワクチン
ゲノムワクチンとは、目的のタンパク質をコードするDNAまたはRNAから作られるワクチンです。長年開発が続けられてきましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策で予想外の成功を収めました。
この技術は2017年の「新興技術トップ10」に選ばれ、その3年後、ファイザー・ビオンテックとモデルナが世界初のmRNAワクチンを開発し、世界最大の健康上の脅威に対処しました。
ワクチンの公平な配分は世界的な課題ですが、将来はゲノムワクチン技術へのアクセスを広く開放できる可能性があると、インペリアル・カレッジ・ロンドンで粘膜感染・免疫学の講座を担うロビン・シャットック教授は考えています。
「世界各国の多くの政府が、自国の製造能力を確立したいと考えるようになるでしょう。また、大規模な製造施設は必要ないため、ハードウェアを備えた地域の製造拠点が多数存在し、分散されるのはソフトウェア、つまり次のパンデミック病原体や次の慢性疾患の標的に関する遺伝暗号となる状況に移行する可能性があります。」
「この技術が、私たちの取り組みの多くに革命をもたらすことを期待しています。万能の解決策ではなく、ほかの種類のワクチンすべてに取って代わるものでもありませんが、公衆衛生で重要な役割を果たすでしょう。」
ソーシャルロボット
2019年、私たちはドロイドの友人やロボットアシスタントが高齢者の世話や子どもの教育を担い、日常生活にますます溶け込むと予測しました。そして、社会的距離を保つ必要性から、パンデミックがこの傾向を加速させました。
しかし、こうした新興技術の普及には、まだ少し時間がかかります。ロボット工学が人々の生活にさらに浸透するにつれ、人間の行動を検知し、解釈して、反応できるように設計する必要があると、カーネギーメロン大学ロボティクス研究所のA. Nico Habermann准教授、ヘニー・アドモニ氏は述べます。
「社会としての意識の中では、ソーシャルロボットについて長い間考えてきました。しかし実際には、今、世の中にあるロボットのほとんどは、より物理的な作業をするロボットで、人間から隔離されている傾向があります。」
世界経済フォーラムは、第4次産業革命に向けてどのような取り組みをしているのでしょうか。
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結び、新興技術とその現実社会への影響を理解するための取り組みを進めています。
協力と実験を促すことで、同センターはパートナーが研究から生まれたイノベーションを、共通の世界的課題に取り組む実用的な応用へとつなげる支援をしています。
「ソーシャルロボットは人との交流に取って代わるものではありません。地域社会が関わり、人々が交流するための媒体となるのです。」
「ロボットを生活に取り入れるにあたり、ロボット工学がもたらす倫理的な影響、こうした技術を誰が利用できるのか、また、社会にすでに根付いている社会規範を技術がどのように引き継いでいるのかを考慮することが非常に重要です。」
こちらもお読みください:グロース・サミット2023の視聴方法

