歩いたり体を動かしたりすると、一人ひとりに固有の運動エネルギーが生まれます。私たちの最新の研究によると、その固有性は本人確認に利用できるほど高いのです。
さらに、この運動エネルギーは、個人のデバイスに電力を供給するためにも利用できます。
歩行で生み出すエネルギーを電力とセキュリティに活用する方法は、ウェアラブル技術に最適です。
ウェアラブル端末やモバイル端末は、私たちの日常生活に欠かせないものになりました。こうした端末には大量の個人情報が収集・保存されます。アカウントは同期され、移動経路や位置情報が記録されるなど、そのほかにもさまざまな情報が蓄積されています。
FitbitやApple Watch、心拍計などのデバイスを使って健康状態を記録している人も多くいます。市場調査会社のIDTechEXによると、個人向けウェアラブル技術の市場規模は2026年までに1,500億米ドル(2,000億豪ドル)に達すると予想されています。
しかし、研究者らは、こうしたデバイスの一部が攻撃に対して脆弱であることを発見しました。また、ある人が別の人のウェアラブルトラッカーに接続することも、本人に知られずに可能です。
攻撃者は自分のデバイスを別の利用者のデバイスに接続し、その人のデータを自分のものだと主張する可能性があります。たとえば、攻撃者が健康保険の割引を受けたり、保険会社にウェアラブル技術のデータへのアクセスを認めた人に提供されるほかの特典を得たりする可能性があります。
さらに懸念されるのは、人々の健康状態のモニタリングにモバイル技術がますます使われるなか、そうしたシステムがなりすまし攻撃に対して脆弱になるおそれがあることです。
ウェアラブル端末やモバイル端末では、こうしたなりすまし攻撃に対処し、収集した大量の個人データを保護するため、何らかのユーザー認証が必要になることがよくあります。
パスワードの問題
デバイスの安全を保つ認証の多くは、PINコードやパスワードに頼っています。しかし、最近の研究によると、ほとんどの人が使っているパスワードはわずか2種類で、少しずつ変えながら12個の別々のアカウントで使い回しています。
私たちは常に、複雑なパスワードを選び、書き留めないよう求められています。それにもかかわらず、ベライゾンの「2016年データ侵害調査報告書」によると、確認されたデータ侵害の63%は、脆弱なパスワード、初期設定のパスワード、または盗まれたパスワードの悪用によるものでした。
侵害されやすくなく、本人だけが知っている情報の入力も必要としない、より優れた代替手段の開発に、私たちは何十年も取り組んできました。
歩いて認証
ユーザー認証の有望な解決策の一つは、加速度計など、人の動きを測定するウェアラブルセンサーを使って、歩容、つまり歩き方を認識することです。
たとえ奇妙な歩き方をしていても、歩き方は一人ひとり異なります。
人によって歩容は異なり、体の各部位の動き方にも違いが生じるため、歩容をデジタル指紋として利用し、ユーザーを識別して本人確認することができます。
歩容を認証に使う主な利点は、歩行が日常的な活動であるため、いつでも利用でき、自然に行えることです。
ほかの認証方法と異なり、歩容認証は非侵襲的です。本人が気づかないうちに歩容を測定・検証できます。本人確認のために定期的に情報を入力する必要はありません。歩容は継続的な認証に利用できます。
ただし、問題もあります。動きをサンプリングすると、デバイスの電力が消費されます。
私たち自身が電源になる
加速度計で動きをサンプリングするには電力が必要で、通常は数ミリワット程度です。そのため、電力に限りがあるウェアラブル端末で歩容に基づくユーザー認証を採用するのは困難です。
ウェアラブル端末に大容量のバッテリーを追加したり、より頻繁に充電したりするのは現実的な解決策ではありません。
この問題に対処するため、運動エネルギーの採取(KEH)への関心が高まっています。これは私たちの動きを電気エネルギーに変換し、少しずつ充電することで、ウェアラブル端末のバッテリー寿命を延ばす技術です。
KEHを利用したウェアラブル製品は、すでに市場に登場しています。AMPYは、利用者の運動エネルギーをバッテリー電力に変換する、世界初のウェアラブル型モーション充電器を発売しました。同様に、SolePowerは、歩数を利用して内蔵ライト、センサー、GPSに電力を供給するスマートブーツを製造しています。
こうした急速な発展を受け、今後のウェアラブル端末やモバイル端末には、バッテリーを補助または代替するKEHが組み込まれる可能性があります。
固有の運動エネルギー採取
KEHの出力電圧を調べたところ、私たちはさまざまな活動をするときのエネルギーパターンも、一人ひとり異なることを発見しました。
したがって、KEHは電源となるだけでなく、もう一つの認証手段にもなります。
KEHを使った歩容認識の大きな利点は、大幅な省電力が期待できることです。加速度計をまったく使わずに済むためです。
どのような認証技術にもセキュリティ上のリスクはあります。たとえば、署名は偽造され、PIN番号は不正アクセスされ、パスワードは自動保存される可能性があります。
では、KEH歩容認証の安全性はどの程度でしょうか。
セキュリティ試験
これを評価するため、私たちは2種類のKEH試作機を作り、20人の被験者を対象に、各被験者から200歩行サイクルのデータを取得して性能を実験的に検証しました。各被験者は、独立したデータ収集セッションに2回参加しました。
データは屋内外の複数の環境で収集しました。平地、草地、アスファルトの地面も含め、時間や地形に伴う自然な歩容の変化を反映させました。
私たちの結果から、KEH歩容認証は95%の認証精度を達成し、従来の加速度計に基づく認証技術と比べてエネルギー消費を78.15%削減できることが示されました。
また、他人の動きをまねようとする攻撃者に対するKEH歩容認証システムの堅牢性も検証しました。なりすましの試行100回のうち、13回が誤って受け入れられました。
なりすましを試みる人とユーザーの歩容パターンが近い場合、誤検知が生じることがあります。しかし、人間の歩容の行動特性が、このような攻撃に対する本方式の安全性を支えます。KEH歩容認証はユーザーを継続的に認証するため、歩容を再現するのはより困難になります。時間をかけて人の歩き方をまねるのは、ほぼ不可能なほど難しいことです。
このように、ユーザー固有の動きを捉えることで、KEH歩容認証は安全で、継続的かつ意識させない認証手段となります。ウェアラブル端末市場が急成長するなか、有望な技術です。


