大型ハドロン衝突型加速器は稼働開始から10年。そこから何を学んだのか

A technician stands near equipment of the Compact Muon Solenoid (CMS) experience at the Organization for Nuclear Research (CERN) in the French village of Cessy near Geneva in Switzerland April 15, 2013. As hundreds of engineers and workers start two years of work to fit out the giant LHC particle collider to reach deep into unknown realms of nature, CERN physicists look to the vast machine to unveil by the end of the decade the nature of the mysterious dark matter that makes up a quarter of the universe and perhaps find new dimensions of space. REUTERS/Denis Balibouse (FRANCE - Tags: TPX IMAGES OF THE DAY SCIENCE TECHNOLOGY)
The LHC is the world’s largest particle accelerator, buried under the French and Swiss countryside.Image: REUTERS/Denis Balibouse
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10年!「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」が運転を開始してから10年になる。これは、これまでに作られた機械の中でも最も複雑なものの一つだ。LHCは世界最大の粒子加速器で、フランスとスイスの田園地帯の地下100メートルに埋設され、周長は17マイルに及ぶ。

2008年9月10日、水素原子の中心にある陽子が、初めてLHC加速器の周回を始めた。しかし、9月22日に事故が起き、LHCにある6,000基以上の磁石のうち50基以上が損傷したため、興奮は長く続かなかった。これらの磁石は、陽子を円形の軌道に沿って進ませるうえで不可欠だ。修理には1年以上かかったが、2010年3月、LHCは陽子の衝突を開始した。LHCは、欧州の素粒子物理学研究所であるCERNの至宝だ。CERNは第二次世界大戦後、戦火に見舞われた欧州の科学を再び結びつけ、復興させるために設立された。現在では、6大陸、100か国の科学者がここで実験を行っている。

LHCが何をする装置で、なぜ重要なのかと疑問に思うかもしれない。とてもよい質問だ。LHCは、実験室でこれまでに達成された最高エネルギーで、2本の陽子ビームを衝突させる。周長17マイルのリングに沿って設置された6つの実験施設では、地下洞窟に建設された巨大な検出器で衝突の結果を調べている。これが「何を」だ。では、なぜなのか。目的は、宇宙を構成する最も基本的な構成要素の性質と、それらが互いにどう相互作用するのかを理解することだ。これこそ、最も基礎的な意味での基礎科学である。

LHCは期待を裏切らなかった。LHCによる発見の一つに、長年探し求められてきたヒッグス粒子がある。自然界の基本的な力のうち2つの理論を統合しようと取り組んでいた科学者たちが、1964年にその存在を予測していた。

私はLHCの6つの実験の一つ、コンパクト・ミューオン・ソレノイド実験に携わっている。この実験はヒッグス粒子の発見と、これまで知られていなかった粒子や力の兆候の探索を目的としている。私の所属機関であるフロリダ州立大学は、私が別の大学で若い大学院生として、別の研究所の異なる実験に取り組んでいた1994年に、コンパクト・ミューオン・ソレノイド共同研究に加わった。LHCの計画は1984年にさかのぼる。LHCの建設は困難で、費用も100億ユーロと高額だった。実現までに24年を要した。今、LHCの運転開始から10年を祝っている。

LHCによる発見

これまでにLHCがもたらした最も重要な発見は、ヒッグス粒子の発見だ。2012年7月4日に発見が発表された。発表はCERNで行われ、世界中の人々をくぎ付けにした。実際、妻と私は自宅の居間にある大画面テレビでウェブ中継を見た。発表はフロリダ時間の午前3時だったので、その後、祝うためにIHOPへパンケーキを食べに行った。

ヒッグス粒子は、私たちが素粒子物理学の標準模型と呼ぶ理論の最後に残されたピースだった。この理論は、既知のすべての素粒子(計17種類)と、それらが相互作用する4つの力のうち3つを扱うが、重力はまだ含まれていない。標準模型は驚くほど精密に検証された理論だ。ヒッグス粒子の存在を予測する標準模型の部分を構築した6人の科学者のうち2人は、2013年にノーベル賞を受賞した。

CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)にあるCMS粒子検出器向けに作成されたシミュレーションデータの例。ここでは、2つの陽子が衝突した後、ヒッグス粒子が生成され、2つのハドロンのジェットと2つの電子に崩壊している。線は陽子同士の衝突によって生じた粒子が検出器内を進む可能性のある経路を表し、粒子が検出器に残すエネルギーは青色で示されている。Image: Lucas Taylor / CERN、Wikimedia Commons経由

ヒッグス粒子をすでに発見したのに、なぜ陽子を衝突させる実験を続けるのか、とよく尋ねられる。もう終わりではないのか、と。だが、まだ理解すべきことはたくさんある。標準模型が答えていない問いがいくつもある。たとえば、銀河や宇宙の大規模構造の研究から、観測される以上の物質が存在することが示されている。私たちは、それが見えないため暗黒物質と呼んでいる。現在、最も一般的な説明は、暗黒物質は未知の粒子でできているというものだ。物理学者たちは、LHCでこの謎の粒子を生成し、研究できるかもしれないと期待している。それが実現すれば、驚くべき発見となるだろう。

つい先週、ATLAS共同研究とコンパクト・ミューオン・ソレノイド共同研究は、ヒッグス粒子がボトムクォークへ崩壊、つまり分裂する様子を初めて観測したと発表した。ヒッグス粒子はさまざまな形で崩壊し、まれなものも一般的なものもある。標準模型は、各種の崩壊がどのくらいの頻度で起こるかを予測する。模型を完全に検証するには、予測された崩壊をすべて観測する必要がある。今回の観測結果は標準模型と一致しており、また一つ成果が得られた。

さらなる問い、そしてこれから得られる答え

宇宙にはほかにも多くの謎があり、そうした現象を説明するには、新たな物理理論が必要かもしれない。たとえば、物質・反物質の非対称性は、宇宙に反物質よりも物質が多い理由を説明するための課題であり、階層性問題は、重力がほかの力よりもはるかに弱い理由を理解するための課題だ。

しかし私にとって、説明のつかない新たなデータを探し求めることが大切なのは、物理学者がすべて解明したと思うたびに、自然が驚きをもたらし、世界をより深く理解するきっかけになるからだ。

LHCは素粒子物理学の標準模型の検証を続けている。科学者は理論とデータが一致すると喜ぶ。しかし、たいていは一致しないときのほうが多くを学べる。それは、何が起きているのかを私たちがまだ十分に理解していないということだ。そして、多くの人にとって、それこそがLHCの今後の目標である。つまり、理解できていない何かの証拠を発見することだ。私たちがまだ観測していない新しい物理現象を予測する理論は何千もある。どれが正しいのか。それを知るには、いずれかが正しいかどうかを明らかにする発見が必要だ。

CERNは今後も長期にわたってLHCの運転を続ける計画だ。加速器と検出器のアップグレードを計画しており、2035年まで運転できるようにする。先に退職するのが私なのかLHCなのかは、まだわからない。10年前、私たちは陽子ビームの初運転を不安と期待を胸に待ち望んでいた。今では膨大なデータの解析に追われ、新たな道へ導く驚きが見つかることを願っている。これからの20年に期待しよう。

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