小規模ながら拡大可能な気候変動対策ソリューションが、カーボンフットプリントを削減する新たな機会をもたらしている。
これにはヒートポンプ、電動キックボードや電動自転車、さらには電力を送電網に供給することもできる電気自動車が含まれる。
しかし、気候危機に対処するには、政策と技術の転換も依然として必要だ。
気候危機の途方もない規模を前に、身動きが取れないと感じるのは簡単だ。地球規模の問題であること。行動を起こそうとしない政府。個人や企業の取り組みの影響をはるかに上回る、巨大な排出者の存在。
危機への対処を、万能の解決策を探すのではなく、多数の小さな打ち手を見つけることから考え始めたらどうだろう。変化を素早く生み出せる、拡大可能な技術がいくつもある。まさにそれに当てはまる、すぐに大きな効果をもたらしうる技術革新が存在する。
ヒートポンプ
ロシアによるウクライナ侵攻は、初期の道筋を示している。欧州はエネルギー源の多くをロシアに依存し、その大半は石油だった。また、世界各地でエネルギー価格が高騰したため、行動は今すぐ必要となった。何十年後でも何年後でもなく、数か月のうちにだ。危機を受け、世界は代替策を探し始めた。
建物を極めて効率よく暖めたり冷やしたりできる電気式空気熱源ヒートポンプは、優先課題の上位に急浮上した。国際エネルギー機関(IEA)は推計している。ヒートポンプは「ガス焚きコンデンシングボイラーよりもカーボンフットプリントを抑えながら、世界の暖房需要の90%を賄える可能性がある」と。また、Rewiring Americaの報告書によると、米国のエネルギー関連排出量の42%は家庭から生じている。
ロシアの侵攻後、著名な環境活動家ビル・マッキベンは呼びかけた。「平和と自由のためのヒートポンプ」を掲げ、米国の国防生産法を発動して、この新興技術を生産するよう求めた。6月6日、ジョー・バイデン大統領の政権は適切にもこれを実行し、インフレ抑制法の気候対策部分にはヒートポンプへの優遇措置が盛り込まれた。ブルームバーグによると、ヒートポンプは電力を熱に変換する効率が非常に高い。そのため、電力網が天然ガスだけで稼働したとしても(幸い、そのような状態はますます少なくなっている)、ヒートポンプを使うほうが、天然ガスを直接燃やす暖房器具よりもエネルギー消費量を抑えられる。これは、電力網を全面的に再生可能エネルギーへ移行する過程でも当てはまる。
マイクロモビリティ
2つ目の小規模で拡大可能な技術は、マイクロモビリティ、つまり電動自転車や電動キックボードだ。ヒートポンプと同じく、これらの軽量車両は非常に効率的だが、こちらは都市で人々を移動させる役割を担う。
効率が高いため、人気の電動自転車の多くは、ガソリン1ガロン分と同じ費用で2,000マイルを超える距離を走れる。『ニューヨーカー』誌のコラムニスト、ジル・レポアはこう呼ぶ。自転車は「世界の交通システムを支える主力」であり、徒歩を除けば、自転車で目的地へ向かう人は他のどの移動手段よりも多いと指摘する。電動自転車や電動キックボードは、3~5マイル未満の短距離移動なら車の代わりになりやすく、炭素排出の大幅な削減につながる可能性がある。
シェア型電動モビリティの世界的リーダーであるLimeは、利用者による自転車とキックボードのシェア利用を累計3億5,000万回以上支援してきた。世界平均で車からの移動手段の転換率が25%に達するなか、Limeの利用者は、車での移動を7,900万回以上回避した。その規模を実感するために言えば、利用者が乗らなかった車を並べると、地球を12周以上するほどの、世界規模の車の渋滞ができる計算だ。
オックスフォード大学の最近の研究によると、自転車利用はネットゼロ目標の達成において、電気自動車の10倍重要だという。電動モビリティの効果はすぐに現れ、必要なインフラも少ない。
政策立案者も注目し始めたようだ。サンフランシスコは配達員に電動自転車を無償提供し、ワシントンD.C.は教師の自転車購入に200ドルの補助金を出している。バーモント州は400ドルの還付を含む電動自転車プログラムを導入した初の州であり、世界各地の大都市の多くが人気の電動自転車・電動キックボードのシェアプログラムを取り入れている。
双方向EV充電
暖房、冷房、交通を含む「すべての電化」が進むなか、電気自動車の双方向充電技術も、炭素排出削減の新たな選択肢となりうる。車両から電気機器へ(V2L)、または車両から電力網へ(V2G)充電とも呼ばれる。
車に双方向充電機能を備えれば、小型の機器を使って、使用時間の96%は停車している車両を、小型で分散型の送電網安定化用蓄電池に変えられる。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは出力が変動するが、そこで得たクリーンな電力は容易に蓄え、電力需要が高まる時間帯に放電できる。これにより送電網の需給を効果的に均衡させ、発電に占める再生可能エネルギーの割合をさらに高められる。
電力料金が最も高い時間帯にエネルギー使用を抑えるよう、電力会社から「ピーク時」の通知を受け取ることは誰にでもある。そうした時間帯は、炭素排出量も最も多い。
たとえば、ニューイングランドの電力網では、需要が最も高い日の炭素排出量も通常より45%多い。フォードのピックアップトラック「ライトニング」やヒョンデの「アイオニック5」が持つ双方向充電機能を、開発が進むV2Gインバーター技術と組み合わせれば、こうしたピーク時の大量排出をなくし、一般的な電気自動車を炭素排出削減につながる発電所へと変える可能性がある。
デューク・エナジーとPG&Eはいずれも、各社の電力網でこの構想を試験中だ。また、ハイランド・エレクトリックのバスはV2Gで7メガワット時を供給した。夏休み中、マサチューセッツ州ビバリーでのことだ。カリフォルニア州の電力網運用者によると、蓄電池はピーク時間帯の供給能力の6%を担っている。ブルームバーグは報じた。送電網に接続する蓄電池が初めて登場した2017年には、ピーク需要のわずか0.1%を賄っていたが、現在は60倍に増加した。顧客への適切な補償となる電力会社の優遇措置と組み合わせてEV用蓄電池を拡大すれば、この伸びをさらに加速できるだろう。
将来の気候変動対策ソリューションを拡大する
さらなる脱炭素化を後押しする小さな技術は、イノベーションのエコシステム全体に広がりつつある。たとえばOrangeは、手のひらサイズのスマートコンセントによって集合住宅の充電に伴う障壁を取り除いている。Kiwiは、小型の自律型(電動)ロボットを導入し、食品配達に使われる2トンのガソリン車に置き換えようとしている。また、Resonant Linkは、小型コイルの革新により、より速く強力なワイヤレス充電を実現し、港湾や物流センターの電化を支援する態勢を整えている。
携帯電話のカメラがアラブの春を後押ししたように、技術が最も必要とされる時に時代の要請に応えることがある。電化をめぐって多くの革新が進むなか、比較的小規模ながら拡大可能なソリューションが、炭素排出を大幅に削減する新たな機会を生み出す、技術革新の集結が起きているのかもしれない。
こうしたソリューションは気候危機の万能薬ではなく、危機に対処するために必要な政策と技術の転換に取って代わるものでもない。しかし、脱炭素化に向けた道筋を示しており、しかも迅速に拡大できる。


