多くの企業は、従業員の業績を測定し、活動に関する情報を集めるために、従業員のクリック履歴やカレンダー、その他のオンライン上のやり取りを追跡しています。
しかし、受動的なデータ収集への認識が広がり、同意なく自分の情報が利用されないように対策を講じる人が増えています。
データの取り扱いには人々の信頼を得る必要があります。そのためには、データを一方的に収集するのではなく、より協力的で人間的、かつ自発的な方法で集めることが求められます。
どの組織も、より質の高い従業員データを求めています。従業員の満足度やエンゲージメントに関するこうした情報は、組織文化の評価や改善によく使われます。しかし、従業員データの収集方法は、組織にとっての最終的な価値にどのような影響を与えるのでしょうか。
人工知能(AI)の活用競争のなかで、多くの組織はデータについて、すべてを集めて後から整理すればよいという従来の考え方に頼っています。しかし、米国人の大半は、企業によるデータ利用に不安を感じ、自分たちは管理権を失ったのだとあきらめていることが、ピュー・リサーチ・センターの調査で明らかになりました。また、世界の消費者のほぼ68%が、オンライン上のプライバシーについて、ある程度または非常に懸念していると答えています。人々が尊重されているのではなく監視されていると感じると、信頼はたちまち失われるため、こうした感情は危険です。
ひそかな監視から行動の推測まで、受動的なデータ収集の広がりに反発が起きています。自ら境界線を定める人もいます。クリック履歴を追跡したり、Slackやメールのメッセージを収集したり、同意なく自分のデータを企業のアルゴリズムに組み込んだりしないよう、企業に求めているのです。
人々にAIシステム、あるいはそれを構築する組織を信頼してもらうには、その信頼を得られるデータの取り扱いから始める必要があります。つまり、一方的な収集から、より協力的で人間的、自発的な方法へと移行することです。
最良のデータとはどのようなものでしょうか。
すべてのデータが同じ価値を持つわけではありません。最良のデータを得るには、何を収集するかだけでなく、どのような意図で、どのようにシステムに取り込まれるのかも問い直す必要があります。
デロイトの倫理的なデータ取り扱いに関する「5つのP」は、優れたデータの指針を示しています。追跡可能で、目的に沿い、プライバシーを尊重し、十分に保護され、慎重に準備されていることです。また、規制当局も注目しています。EU AI法やカリフォルニア州消費者プライバシー法などの法律も、データ収集における同意と透明性の強化を求めています。
しかし、法令遵守は出発点にすぎません。こうした原則は、人間を取り巻く状況にも根差していなければなりません。あらゆるデータポイントの背後には、権力関係や安心感と向き合う人がいます。自らの意思で、内容を理解したうえで共有される自発的なデータ(ゼロパーティデータとも呼ばれます)は、推測やスクレイピング、同意があると見なした結果得られるデータとは根本的に異なります。
従業員データの多くが不十分な理由
組織は従業員データに不足しているわけではありません。しかし、こうした倫理的・実務的な基準を当てはめると、その多くは単独で使用するには明らかに問題があります。
たとえば、従業員エンゲージメント調査は匿名で、上層部から強制されることがよくあります。業績評価も善意に基づいているとはいえ、トップダウンで偏りがあり、貢献を示す指標としては遅行しがちです。キーストロークの記録や行動追跡などの監視ツールは、管理できているという錯覚を与えますが、洞察を生み出すことはほとんどありません。むしろ、人々が現実を反映するためではなく、詮索を避けるために行動を変えることで、「監視の見せかけ」を生み出します。
有望な手法である組織ネットワーク分析でさえ、デジタル上の副産物に依存しています。たとえば、オンライン活動の副産物として生成されるメールの量やカレンダーのメタデータです。こうしたデータは自発的に提供されることがほとんどなく、偏りを招きがちです。
最も人間的なデータのシグナル
しかし、真実に迫るうえで大きな助けとなるデータソースがあります。
称賛に関するデータは、抽出や推測によって得られるのではなく、自発的に提供されます。誰かが同僚の貢献を公の場で認めるために時間を割くとき、それは自発的で意図的な行為です。他のどのシステムにも分からないことを教えてくれます。つまり、同僚の目から見て、誰が今、違いを生み出しているのかということです。
それだけで状況は変わります。人々に関するデータの多くは上層部からもたらされるか、舞台裏で集められます。一方、称賛は、気づき、気遣い、信頼されている同僚から寄せられます。従業員は、エデルマン・トラスト・バロメーターによると、CEOよりも同僚を信頼する可能性が2.5倍高いのです。情報源を信頼できれば、その内容も信じられます。
そして、称賛に関するデータは、デロイトの倫理的なデータ取り扱いに関する「5つのP」のすべてを満たします。
出所 が明確です。誰がそのシグナルを共有しているのかが正確に分かります。
目的が合致しています。称賛は、祝い、励まし、共有する価値観を強めるためにあります。
プライバシーと保護 が明示されています。こうしたメッセージは、人目につかない場所で集めるのではなく、誰もが見られる場で共有することを意図しています。
準備はあらかじめ組み込めます。助言機能を備えたソフトウェアを使えば、メッセージを送る人が内容を構成し、より多くの情報を盛り込んだり、人にもAIにも認識できる具体的な行動と称賛を結び付けたりできます。たとえば、「すばらしい仕事です。会話を目標に向けて導いてくれました」は、「すばらしい仕事です。最高です」より多くの情報を伝えます。
称賛は、貴重なゼロパーティデータの一種でもあります。「この称賛を業績分析に使ってください」と明言されない場合でも、自発的に提供されたデータと取得されたデータの間には、依然として大きな違いがあります。
称賛は意図的に共有され、多くの場合、優れた業績を公の場で称えるために、誰もが見られる場で伝えられます。これは、暗黙の同意を示す強力な例です。人々は自分自身の言葉と声で、こうしたシグナルを共有することを選びます。そのため、称賛に関するデータは、受動的に収集されたデータよりも人間的で、倫理的にも健全です。
何より、称賛の背後にある意図はほぼ常に前向きです。称え、励まし、感謝するためです。人間の意図と組織による活用の焦点が、ともに優れた仕事を見つけ出して称えることにあるため、両者が自然に一致する数少ないデータの一つです。
組織は、称賛にエンゲージメント、スキル、業績などのシグナルを組み合わせることで、従業員分析の仕組み全体における倫理性と分析の水準を高めることができます。それでも称賛は、他に類を見ないほど人間的で、信頼できるシグナルとして際立っています。
人々が共有したいシグナルを基盤にする
データの背後にある倫理は、データから得られる洞察と同じくらい重要になっています。より良い答えを得るには、より良い入力が必要です。信頼を得るには、それに値するデータを使わなければなりません。
従業員分析の未来は、クリック履歴やカレンダーのメタデータに基づくものではありません。人々が見てもらいたいと願い、自分たちを見るシステムを信頼しているからこそ、自発的に提供するシグナルに基づくものになります。
だからこそ、称賛は手本にする価値があります。軟弱だからではなく、確かなものだからです。人々を心地よくさせるからではなく、組織をより賢くするからです。
人々のデータを集めるのをやめ、声に耳を傾けましょう。


